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第18話:感想

 大聖堂の礼拝堂の構造は、基本的には剣皇教会と変わらない。

 違うのは造り。

 鐘楼も併設しており、天井は最低でも3階以上はぶち抜くほどに高いので解放感がケタ違いに高い。壁や梁、柱、さらにはベンチの手すりにまで精密な彫刻が施されている。

 最大の違いは各所に彫像や絵画があるという点。

 中央の祭壇にある一際大きい青年の像が、聖帝陛下なのだろう。樹と同じ年頃ぐらいの幼さが残る青年で、装甲に身を固めている辺りは王というより武人なのだろう。温和ではあるが、底に勇気を秘めた顔立ちをしているのが特徴である。

 聖帝の傍らに侍るのは、2人の少女。

 一人は高校生ぐらい。もう一人は小学校高学年から中学生ほどの美少女で、2人は姉妹なのか顔立ちが非常に良く似ている。着ているのはロングのワンピースにエプロンと、メイドだ。

「この2人は姉がマリエラ様で妹がミリオラ様。聖帝様の

お妃様」

「いい人そうな顔をして、重婚とはやるなあ」

「イツキ。今のは不敬だよ」

 つい、心の声が出てしまった。

「帝国で重婚はOKなの?」

「イツキのところでは不可なの?」

質問を質問で返されるが、樹はキレなかった。

「オッケーなところもあるけど、重婚不可なのが基本かな」

「剣皇様は「好きな物を好きといって何が悪い」とおっしゃっていたのにね。仲人務めたの剣皇様だし」

 あの人が絡んでいるのであれば、誰も文句はいえない。

 近親婚や歳の差も帝国では可能なような気がするのだが、腹筋が断裂しそうなので樹は聞かないことにした。

「メイド服なのは?」

「お二方は陛下のお傍に使えていたから。もっとも伯爵令嬢だったけど」

 興味深いのは2人の髪型。

 マリエラは1つ、ミリエラは2つという違うが、髪のお団子が頭ぐらいに大きいので、ほどいたら間違いなく背丈は超えそうである。

「どうしたの?」

 樹はシフォンをガン見してしまっていた。

「髪の毛長そうだなって」

「だから、帝国では髪を長く伸ばすのが基本になっているんだ」

「憧れている?」

「うんっ♪」

 すがすがしいまでの肯定。

 この2人も髪フェチなのだろうか。

 この世界は剣皇の紋章といい、個人の嗜好が露骨に影響する傾向がある。

「こちらの2人は?」

 マリエラとミリオラの外側に位置する2人の武人が気になった。祭壇周辺にある彫像はこの5体である。

 2人とも聖帝と同年代の武人であるが、雰囲気が正反対。

 片方はハルバードを軽々と担いでいる巨漢ではあるが、表情なのにバカっぽさが漂っている。

 もう片方は小柄で、気の弱さが表情に漂っている青年である。

「バカ…じゃなかった筋骨隆々な騎士様がバウムガルト卿で、陛下よりも優しそうなのが恵帝ヘルリッヒ猊下」

 余計にわからなくなった。

「お二方とも、陛下の挙兵の時に付き従い、剣皇様と一緒に魔王軍と戦ったんだ」

 三国志でいうなら、聖帝が劉備で剣皇が張飛と関羽が悪魔合体した存在だというなら、彼ら2人は趙雲、馬超といった位置なのだろう。

「敬称に差がなくない?」

「バウムガルト卿は天使に倒されたけど、恵帝猊下は、陛下が戦死された後に帝国軍を率いて、天使が倒された後にヴェストファーレンの皇帝になったんだ」

 衝撃だった。

「つまり皇帝家は聖帝の血筋ではなく、部下の血筋だということ?」

 シフォンの答えに困ると言いたげな笑みが、樹の問いを肯定する。

 現在の皇帝家が聖帝の血統ではなく、その部下の血統であるとするなら陰謀を疑ってしまうところではある。

 しかし、聖帝も少年で通じてしまうほどに若く、戦争も長期戦になっていなければ納得がいかない訳ではない。

「聖…陛下にお子さんはいたの?」

「マリエラ様も、ミリオラ様も陛下の子を生み落としたという話なんだけどね」

「やる事はちゃんとやってるんだ」

「………」

 子供はいたようではあるが、戦後に生まれた可能性がある赤子に、戦間戦後の混乱どころか存亡すら危うい帝国を統べられるわけがない。通常なら兄弟か親戚が後を継ぐところなのだが、任せられるほどの係累がいなかったため、一番信頼できる腹心に任せたといったところなのだろう。

 聖帝の子が成長した後のことが気になるところではある。

 なお、陛下の称号は剣皇と聖帝にしか使えないという事であれば、それ以後の皇帝を猊下と称するのもおかしいことではない。

「剣皇はいないんだね」

 一番重要とされる正面祭壇の彫像の中に、剣皇らしき存在はいない。剣皇は聖帝の義兄弟である以上、聖帝の傍にいると考えるのが普通なのだが。

「剣皇様はお姿を書くだけでも、恐れ多い…」

 それだけなのだろうか。

「と言いたいところなんだけど、絵にはしっかりと描かれているからね」

 聖堂内には至るところに絵画が掲げられている。

 宗教画というものであるが、樹の腹筋と横隔膜が破壊の危険にさらされるのは、一見すると宗教画には見えなかったからである。


 掲げられている絵画は、聖帝の生涯を追ったものである。

 森の中で、聖帝と蒼いジャケットらしきものを羽織った男が対峙している絵がある。今にもぶつかりそうな殺気をはらんでいた。

「あれは剣皇様と陛下の最初の出会い。あの頃の陛下は権力闘争に巻き込まれて、森の中に隠棲していたんだ」

 絵の意味をシフォンが解説してくれるのはありがたい。

 その一方で、説明がなくても分かる理解できる絵がある。

「あの絵は、陛下と剣皇様が兄弟の契りを結ばれたところ」

「狙ってるな」

「イツキ?」

「いや、なんでもない」

 日本人なら、いや中国人でも狙いに行くところだろう。

桃園の契りを。

 その後は剣皇と聖帝が共に戦うといった絵画が多くなる。合間に、バウムガルトが剣皇に勝負を挑んで敗北を喫するところや、のんびりと休んでいるところ、集合写真っぽい風景が映っている。

 流石に、剣皇以下の男性陣が女湯を覗こうとしたがバレて追い出されるという類の絵画は見つからなかったが、大々的に飾っていないだけで、探せばありそうな気はする。

「剣皇の傍にいる女の子がマゼンタっていう子?」

「そう。あの子がマゼンタ様」

「あちらの鎧を着たおっさんは?」

「あの方はザマ卿。陛下が実権を握る前に、ヴェストファーレンをまとめていた傭兵。陛下がまずは王として実権を握ると配下に加わって参加するんだ」

 礼拝堂の向かって右側が、魔王軍の侵攻に対して、当時、小国だったヴェストファーレンが剣皇と聖帝の指揮の元にいがみ合っていた人間勢力をまとめて立ち向かう様を描いている。

 こちらは最初は劣勢だった人間軍が、侵略してきた魔王軍を撃退していくので、絵画のムードとしては明るいものが多い。

 逆に左側は陰鬱なムードに変わっている。

「あの絵のタイトルは?」

「バウムガルト卿の最後」

 右側では、コメディーリリーフとしての活躍が目立っていたバウムガルトが、傷だらけの身体に鎧の破片をつけて、刃の欠けたハルバードを振り回している姿は勇壮であるが、悲壮だった。

 左側は、魔王軍が天使に率いられて人間軍と戦う画像。こちらは魔王軍改め天使軍が、人間側を殲滅していく光景なので見るに耐えない画像が多い。

 正面の祭壇や彫像の後ろ側にあるのは、初期ヴェストファーレン軍のメンバー。絵画であるが、さながら集合写真のようにみえる。

 軍隊の小隊が終結しているという感じなのだろう。

 それらの人々が、バウムガルトを筆頭に右側の画像で活躍した人物、あるいはアホをやっていた人物が死んでいくのはつらい。

 破壊と殺戮の様が延々と描かれた先に、後方の大壁画へとつながる。

 半身を吹き飛ばされて屍のようになった聖帝を抱いて、泣きじゃくる剣皇の絵。

 いささか薔薇薔薇しいように見えるのは、樹が毒されているからだろう。

 彫像以上に、樹は絵画に突っ込みたいことが色々とある。

 一つは絵画のタッチ。

 タッチは色々だが、写実的な物に混じって萌え系の絵画がけっこうな比率で混ざっている。背後の聖帝の最後と剣皇との別れも少女漫画のようなタッチで描かれている。

 萌え寺院じゃないかと突っ込みを入れたくなるが、突っ込みを入れたのはそこではない。

 最大のツッコミのポイントは剣皇の描写である。

 絵画において、剣皇が無視されていることはないが、タッチの差こそはあれ統一されている帝国の面々とは異なり、剣皇の描写はバラバラである。

 好き勝手にやっているといってもいい。

「あのゴリラのような女は?」

「魔元帥ヴォルカ。魔王軍随一の猛将として10万の軍勢を率いて、ビシュバリク城に追い詰められた帝国軍を襲い掛かったけど、見ての通り、剣皇様によって倒された。恐ろしいのは素手だけで殲滅したんだよね」

 共通点があるとすれば、素手で戦っていることである。

 剣どころかナイフさえ持っていないのだから、剣皇ではなく拳皇だとツッコミたくなるのだが、前にシフォンが言っていたように「抜いたら殺れ」なので、殺すと決めた相手以外には武器を使わないのだろう。

 ついでに言うと、剣皇というものの、日本人である以上はメインウェボンは日本刀、したがって剣を使うのに異議をとなえたくなるものであるが、剣も刀も同一として取り扱われるものであればおかしいとはいえないし、何よりも刀よりも、剣のほうが敬称としてかっこいいからだろう。

「素手だけって、蹴ったり殴ったりしただけで?」

「流石にヴォルカ相手ではそうはいかなかったみたいだけど。それ以降から剣皇様は目からビーム放つようになったんだよね」

「マジで?」

 目からビームはともかく、10万の軍勢を素手と蹴りだけで殲滅するのは普通ではない。時代劇だったらいくらでも倒れてくれるが、剣皇が戦っているのは時代劇ではない。常識で考えれば数秒で細切れになるが、そうはならないところが恐ろしい。

 ツッコミどころはそこでもない。

「イツキ、剣皇様のあの胸の模様ってわかる?」

「さあ。ちょっとわからないかな」

 実は分かる。

 剣皇が水色ではなく、濃い青に白と赤を差し色に入れて、胸に「ニ〇サン」のロゴのような模様を入れたシャツを着ているのが樹的には大問題だった。

 樹は断言できる。

 もし、剣皇がこの絵の存在を知ったら、その作者を間違いなく処刑するだろうということを。 

「これって、剣皇が魔王に立ち向かうという絵だよね」

「そうだよ」

 推察が容易なのにわざわざ尋ねたのは、魔王が全身黒ずくめの衣装にヘルメットとカラスを模した仮面をつけていて、剣皇がなぜか二頭身で、鳥のくちばしに頭にゲームコントローラーのスティックをつけた怪しげなマスコットキャラとして描写されているのが謎だった。

 樹は内心で突っ込まざるおえなかった。


"なんで、ヤ×さんとフ〇丸が戦っているんだよっ!!"


「……大丈夫?」

 大聖堂を出た後にシフォンに心配されたのは、一部の絵画によって腹筋と横隔膜を強烈に刺激されたからだった。

 笑いたいのに笑えないのは、非常にキツい。

「だいじょうぶ」

 旅に出る前は「笑っていけない帝国」を体験するなどとは思っていなかった。

 落ち着いたところで、シフォンが口を開いた。

「樹から見て、戦争の逸話はどんな風に見えた?」

「剣皇の扱いがひどいというのはあるんだけど」

 剣皇教会では彫像や絵画がなかったので、他宗教であっても風貌が語られるのは貴重であったが脇役で、聖帝の義兄弟でありながら剣皇らしい彫像はなく、絵画においても描写に統一されていないのは、作為的なものを感じられる。

 アラーやマホメットのように、尊敬の念が強すぎて描けないというのがあるのだけど、世界を滅ぼしかねないほどの武が権力者たちに警戒されて、実績よりも下な扱いにされているというのもあるのだろう。

 それより指摘したい事があった。

「天使戦は剣皇、離脱していない?」

 シフォンがやれやれと言いたげにしていのは、同意見だからだろう。

 魔王戦までの絵画には剣皇の活躍が描かれている。半分以上の絵画に出番がある。しかし、バウムガルト戦死以降の天使戦の絵画に剣皇は登場していない。再登場が聖帝戦死の大壁画だというのが異常だった。

 これは剣皇の存在を無視したというより、帝国軍から離脱していたと解釈するのが無難だろう。天使戦において、帝国軍の戦死者が増えたことにも納得がいく。

「なんで、剣皇様は離脱したんだろう」

「天使と戦って、重傷を負っていたから復帰まで時間がかかったと考えるのが妥当なんだけど」

「樹は、そうだと思っていない?」

「可能性としてはそれなんだろうけど、他にも色々あると思うんだ」

 今となっては色々と黒いことを想像してしまう。

 結局のところ、聖堂では得られた情報は大きかったがパズルのピースはぜんぜん足りない。司馬懿で例えるなら、晋書が刊行されていないのに、正史三国志では立伝されていないので武帝本記などの他者が主役な部分で探るしかないといった状態になっている。

「戦争の詳細は分からない?」

「分からないね。秘中の秘になっていて、帝国の国王か剣皇教の総代筆頭しか伝えられないんだ」

 分からないことだらけではあるが、知らないからといって生けてはいける。

 ただ、気になるところが一つだけあった。

「天使戦で、巨大な化け物に赤毛の少年が立ち向かう光景の絵画があったと思うんだけど」

「赤毛の少年はショル。元は魔王軍の魔元帥だったんだけど、剣皇様に負けた後は帝国軍に加わって、天使軍と戦ったんだ」

 気になるのは少年が戦った巨大な化け物。

 あの化け物の姿は見たことがある。

 こんな都合のいい話なんてあるはずがないとは思うのだけど、彼女がとんでもない力を持っているのは明らかなので、樹としては一致すると思っている。

「シフォン。あの化け物の名前は?」

「そうだね」

 間が空く。

 その表情から言葉にできないもの、例えようもない重たさみたいなものを感じて、樹は疑念が確信に変わる。

 その時だった。

 懐に入れた魔接石から、テレパシーで音が鳴り響いたので、樹は魔接石を手に取った。

「こちら、ショーン。緊急事態が発生した。ただちに、野犬亭に戻れ」

「緊急事態ですか?」

 声こそ平静であるが、ショーンが緊急事態だというのだから、ただ事ではない事が起きているのだろう。

「とっとと走れ。でないと殺す」

 誤解の予知がないほどの明解な文句で、通信は切れる。

「いこうか」

「そうだね」


 2人はうなずくと走り始めた。



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