かつて神童と呼ばれしモブ
俺は長い夢を見ていた。魔法が飛び交うファンタジーの世界で殺しあう夢だ。楽しかった。俺はエリートの一族の生まれで、ある日突然異世界に召喚されたときも俺が活躍することを疑わなかった。
「この人殺し!」
「悪魔!」
「クソガキめ!」
人を殺すのは楽しい。退屈そうな顔をしている人間も幸せそうな顔をしている人間も、皆殺されそうになると必死になる。面白いな。元々は僕のことを呼んだのは君達じゃないか。被害者面をするのはやめたらどうだい?
僕達のような異世界組は突然呼び出され、過酷な訓練を施された後に戦場に送り込まれた。全く、信じられないよ。雇用契約は当事者の合意で結ぶものだろ?だから、俺はある時逃げ出した。勿論、脱走兵は死罪だが、捕まらなければ良いのだ。足が速ければ大丈夫だ。俺は走れば時速600㎞を叩き出せるので軍馬の速さをしのぐ。こればっかりはこの世界の食事と訓練に感謝だ。どういうわけか、この世界に住んでからメキメキと身体能力が伸びて、体の作りも頑丈になった。これは素直に嬉しいね。
他にもこの世界は魔法が使えたり、剣で斬撃を飛ばせたりするが、所詮は見かけ倒しだ。派手な技を使えばそれだけ体力を消耗するし、隙がでかくなる。そこを勘違いしている人はこの世界ではすぐに死んだ。
いざ1対1の戦いになったときに一番大事なのは体術と咄嗟の判断力だ。勝負はそこが分かれ目だ。
人を殺すのにはナイフ一本あれば十分だ。自分の強みは俊敏性であり、不意打ちによる暗殺が得意だ。逆に膂力はないので力押しは苦手だが、その場合には爆弾を使うなど違う方法で殺害することを考える。機転を利かせて冷静に対処することが成功の秘訣だと思う。もちろん、事前の下準備で綿密に計画をし、自分の強みを生かせるような場を作ることが大前提にある。
では、俺が暗殺したいくつかのケースを紹介しよう。(失敗したケースも含む)
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-Case 1 愛情深い騎士団長-
「貴様、よくも俺の家族を殺したな!」
直情的な人間は家族を殺すと、周りが見えなくなり、ぶちぎれる。愛妻家であったり、子供を大事にしているという情報があれば必ず俺は見逃さない。家族を人質にとるかあらかじめ殺害してから勝負に臨む。怒り狂っている相手は本来の力を引き出すことができず、簡単に勝負をつけることができる。
「ははははは、てめえの娘の体は最高だったぜ。」
とりあえず、家族を貶めたりして相手の理性をできる限り無くしてやることが大事だ。鬼畜だと思うかもしれないが、この騎士団長は右も左も分からない異世界転移したばかりの女性に暴行を働き、気に入らない奴はいたぶってから殺した。異世界人のことを散々こけにしたのだ、これは復讐だ。こいつの家族も異世界人に対して外道だったので、慈悲はない。
こんな屑に正面から対等な勝負を挑むのはバカだ。まずは相手の精神を攻撃することから始める。
「てめえにもあの悲鳴を聞かせてやりたかったぜ!」
「貴様を殺す!」
そして、その直後に相手は切りかかってくる。冷静さを欠いているが、凄まじく速い抜刀だ。でも、面白いくらいに軌道が読める。一度戦いが始まったら、後はひたすら言葉もなく斬りあうだけである。次第に相手が冷静さを取り戻してくるので、その時は一旦、相手から距離を置く。
一度で殺そうとはしなかった。騎士団長は警備もかなり厳しく、簡単に暗殺できなかった。向こうも軍馬よりも早い俺を捕らえることはできない。俺は騎士団長に家族の首を送り付けるなど徐々に相手の理性を奪っていき、1か月ほど時間をかけて、弱らせた後に殺害に成功した。
-Case 2 Type1 勇者-
ファンタジーではお馴染みの勇者と俺は兵役の頃に戦ったことがある。俺はtype4のモブであり、相手は死をも克服した勇者である。勝てるわけがないと思う人が多いだろう。だが、実際に勇者が俺よりも優れているのは魔法と剣術、そして蘇生能力だけである。総合力では大きくあちらが上回るが、こちらは速度というアドバンテージがある。何よりも、相手は死んでも復活することから慢心しきった勇者である。日々、いのちがけで戦う俺と遊びで戦う勇者とでは前提が違う。
はっきりと断言する。勇者は弱い。type4のモブは糞雑魚だが、やり方次第では勇者を殺すことはできる。俺は塹壕の中で眠りについていた勇者の首を刈り取った後に、体に油をかけて完全に燃やした。そして、勇者が復活する前に底なし沼に沈めてやった。これで仮に勇者が復活しても溺れ死ぬというループを繰り返していることだろう。
-Case 3 Type 2 悪役令嬢‐
一番攻略するのに苦労した。未来予知でバッドエンドを回避してくる。死亡フラグをへし折ってくるので、なかなかうまくいかない。殺すことはできないので、心を奪うことにした。とりあえず、俺はそこそこ容姿が整っていたので、デートに誘ったり、食事を一緒にする内に仲良くなった。物理的に殺すのが困難だったので、俺の愛人にしてから、未来予知の道具として重宝した。
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このように俺は数々の相手を暗殺してきた。俺はtype4の中ではすごいのだ。実のところ俺はtype3になりたいのだが、あれは次元が違うのでなることができない。type1はそもそもあまり興味がないし、type2には転生者でなければなれないので、諦めている。
typeをチェンジするための条件はずばり普段の生活に懸かっている。普段から剣と魔法をばかみたいに使えばtype1の勇者になることができる。type3になるための条件は分かっていないところもあるが、type4がtype1を何人かぶち殺せばなれるのではないかと噂がされていた。
だから俺は「勇者キラー」として30人近くのtype1を殺していった。慈悲はない。彼らは調子に乗って好き放題していたのだ。死んで当然だ。
そんな俺の異世界ライフはある日終わりを迎える。
俺は勝手に脱走したので、雇用契約が更新されることはない。だから、俺の異世界生活は2年で幕を閉じた。
そして、俺は日本に帰ってきた。気づいたら自分の自室で目覚めた。帰還ポイントは自分の思い入れのある場所といったところだろうか。俺は家族を愛していた。だから、当然か。
昔、俺の家族は強盗に殺された。それで俺は天涯孤独の身の上だ。通報されることもなく、誰にも知られずに異世界から帰って来た。
俺は気配を隠すのが上手いので、しばらくはスリをしてせこく金を稼いで生計を立てた。退屈な日常だったが、食うには困らなかった。
俺は自分が不在だった間に何が起こったのか情報収集を行い、その結果、異世界からの帰還者が独立した国を設立したことを知った。あいつらは帰って来た後にかなり調子に乗ったらしい。そのせいでペット制度が導入され、多くの帰還者の人権が剥奪されてしまった。
そして、俺に目標が出来た。type3になり、調子に乗った豚どもを粛清してやる。俺は悪人を必ず断罪する。そのための力を得るために俺はtype1をもっとたくさん倒さなくてはならない。
しかし、物事は上手くいかない。type1の多くは異世界で王族と契約を更新するので、日本を探してもなかなか見つからない。そもそもいないからだ。type1は異世界では女をたくさん囲って四六時中盛ってやがる。帰りたいと思う奴は珍しい。そして、数少ないtype1は研究所に送られるため、出くわすこともない。
だから俺は異世界に再び戻って力を上げたいと思ったが、こればかりは無理だということがわかっていた。俺は大した実績もない。さらには逃げ出したことから俺を再雇用したいと思っているはずがない。
異世界といってもたくさんあり、その中に国はたくさんあるが、今は「カニスの変」による召喚で人口過多の状況にある。前回のような大量召還が再び行われて俺が召喚される可能性は低い。
いっそのことtype1になるというのも手だが、一度でもtypeを変更したら替えが利かないし、妥協すればtype3には永遠に勝てない。
八方塞がりだ。猫の手も借りたい。
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暫くネットを使って情報を集めた。その中に気になる情報があった。さあて、調べてみるとDDPF(ディフェレント・ディメンション・ポリス・フォース)と呼ばれる組織が数多くの帰還者たちの捕獲に携わっているらしいことを知った。俺はこの組織に入る気はさらさらない。だが、俺は帰還者たちの情報を集めるために、あの組織の人間を尾行し、場合によっては獲物を横取りしようと思う。
俺は野良帰還者を助けるつもりはない。GPSを首に埋め込まれており、きちんとした施設で外さないと大動脈を傷つけるリスクが高く、俺の存在もばれるというリスクがある。だから、諦めた方が良い。
暫くはあの組織の中にいる人間を探りつつ、もしtype1が組織の中、あるいは野良帰還者の中にいた場合には、殺そうと思う。
そして、俺はあの組織の人間の実行部隊の尾行をした。大抵はtype4の屑ばかりであったが、実行部隊の中でも数人はかなりの実力があると一目で分かった。そして、組織のある一人の男だけはtype3と見紛う強さであった。
名前は如月神。異世界から帰還した勇者の捕縛にも携わっており、かなりの強さであった。本当はtype3ではないかと思ってしまった。隔絶した強さだった。なぜこの男がこのような組織にいるのか疑問だった。
俺は奴のことを調べることにした。それだけの価値がある。
如月神24歳。身長192cm体重87キロ
筋肉質・容姿はカミソリのような目をした精悍な顔立ち。非常にモテそうだ。意外なことにペラペラと良く話す。任務の際は相手のことをわざと一回逃がした後に、野外で捕まえて、相手に組織に入るように勧誘する。この際、相手がどのように逃げるかを監視して、もし、相手に見込みがあるなら勧誘する。使い物にならないようなら勧誘もなく問答無用で殺す。
先日、メタボな男が奴から走って逃げるのを見た。あの体であれだけ動けるのは中々の者だ。あのデブは頑張ればtype1になれるだけのポテンシャルはあった。殺すのは実に惜しいと見ていて思った。戦うのが嫌いだからという勿体ない理由で人生を棒にふってしまった不幸なケースだ。たとえ素質のある人材でも仲間にならなかったのでデブは殺された。
奴はほとんど隙がない。俺のことも薄々感づかれている可能性が高い。時折、チラチラ周囲の様子を見ている。少しアホなのか、かなりあからさまである。ふざけているようにしか見えないが、本人の表情は極めて真面目であった。
もっと詳しく知りたいので、俺はあの男の家族構成を調べた。あっさりと調べられた。奴は5人兄弟の長男だった。それに加えて苦学生でもあり、国立の最難関大学のT大学に通っていたらしい。4年前に異世界に飛ばされ、今から2年前に帰って来たという。ここら辺の情報は企業のホームページに書いてあった。さすがに嘘はついていないだろう。唯でさえDDPFは信頼性が低いのに、経歴を詐称していることがバレたら大変なことになる。
それに、あの男は四六時中家族に使い魔を飛ばして護衛している。かなりの魔力が使われているはずだ。ここまでのことをしているのだから、家族であることは疑いの余地もない。
見ていて思ったが、こいつはかなり歪んでいる。家族を非常に大事にしつつも、戦うことを楽しんでいる。いわば、戦闘狂だ。敵と認定した相手には容赦しない。こいつの家族にちょっかいを出した馬鹿は確実に報復されている。時には行方不明者も出ているようだが、政府はこいつの有用性を理解しているので、手出ししていない。いや、できないと言った方がよいか。
まるで、type3のようだ。それだけにこいつがなぜDDPFみたいなケチ臭い組織に所属するのか分からない。周囲の人間を虐殺して、自治国家を作り、家族を養うことぐらいできるはずだ。こいつの戦闘力は最新鋭の戦闘機数十機分に相当する。type4である訳がない。
俺はこいつとは正面から関わりたくないと思う。暫くは遠くから様子を見つつ、経過を観察したい。それが今の俺のできる最善手だと思う。




