第23話
王宮大広間は、あの卒業夜会の夜よりも多くの人で埋まっていた。
玉座には国王陛下。左右の壇に貴族院の重鎮たちと宰相府の面々。詰めかけた貴族たちの席は、開廷の一刻も前から埋まり尽くしていたという。無理もない。「王家記録を偽造した公爵令嬢」の公開審問。社交界がこれを見逃すはずがなかった。
「被告、入廷」
衛士の声とともに、私は大広間の扉をくぐった。
視線が、一斉に突き刺さる。憐れみ、好奇、侮蔑。一年足らずの間に二度目ともなれば、この矢の浴び方にも作法ができるというものだ。背筋を伸ばし、歩幅は変えず、顎は引きすぎず。七年の妃教育は、こんなところでばかり役に立つ。
被告席の手前で、私は一度だけ傍聴席を見た。
アルディス殿下が、いた。弁護人席ではなく、王族の席に、正装で。目が合うと、殿下はほんのわずかに頷いた。支度は整った、という合図だった。
昨夜、私たちは夜明けまで働いた。軟禁中の被告を前夜の大広間へ──その無茶を通したのは、審問の設営を文書院が預かるという古い慣例と、責めはすべて負うという殿下の一筆だった。人目を忍んで運び込まれた品々と、私があの広間で夜通し何をしていたかを知る者は、私と殿下と、あの誠実な近衛の精鋭たちだけだ。
「これより、貴族院特別審問会を開廷する」
議長の声が響き、罪状の朗読が始まった。禁書庫への不法侵入。王家記録の偽造。王家転覆の企図。読み上げられるたび、傍聴席がざわめく。
そして、告発人が立った。
「発言をお許し願いたい」
ギデオン・フォン・アルバレス侯爵。今日の彼は舞踏会の夜の柔和さを脱ぎ捨て、憂国の老臣の顔をまとっていた。
「わしは、この令嬢の才を惜しむ者の一人でありました。じゃが、才は正しく使われてこそ。彼女は王家の禁域を犯し、あろうことか偽りの記録を礎石に刻み、玉座の正統を疑わしめる大罪を犯した。──記録魔法は、王国司法の柱。その柱を託された者が柱を毒に変えたのなら、これは一人の令嬢の罪では済みませぬ」
うまい、と思わず感心してしまった。私を裁くのではない。記録魔法という制度を守るために、泣いて私を斬るのだという筋書き。これなら私に同情的な者も、頷かざるを得ない。壇上の重鎮の幾人かが、実際に沈痛な顔で頷いていた。
「よって告発人として求刑いたす。記録魔導士資格の永久剥奪、貴族籍の抹消、ならびに──国外への永久追放を」
どよめきが走った。二十年前、ヴェスパーに下されたものと、寸分違わぬ求刑だった。
同じ手口。同じ筋書き。同じ幕引き。この老人は二十年間、たった一つの芝居を上演し続けているのだ。配役だけを替えて。
「被告。罪状について、申し開きはあるか」
議長の声に、大広間が静まり返った。
私は被告席から、ゆっくりと立ち上がった。
玉座の陛下が、私を見ている。壇上の侯爵が、勝者の目で私を見下ろしている。傍聴席の何百という瞳が、破滅する令嬢の顔を見ようと、息を潜めている。
一年前と、同じだった。
あの夜も、こうして衆人の前に立たされた。筋書きを書いた者たちは、私が泣き崩れる幕切れだけを疑わなかった。そして今日の筋書きの書き手も、同じ結末を信じている。二十年間、一度も外したことのない筋書きだから。
──ならば、返す口上も同じでよろしいわね。
私は手袋の指先を軽く整え、扇を胸の前で、ぱちりと閉じた。あの夜と、寸分違わぬ所作で。傍聴席のどこかで、小さく息を呑む音がした。あの夜会にいた誰かが、この所作の意味を思い出したのだろう。
「その前に、一つだけ確認させてくださいまし」
静寂の中、私の声はよく通った。
「私に着せてくださる罪状は──以上で、よろしくて?」




