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婚約破棄されたので、その場で証拠を上映します〜記録魔法は嘘をつきません〜  作者: 小林翼


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20/30

第20話

 その報せは、正午の鐘とともに公爵家へ届いた。


 王宮からの正式な召喚状。差出は貴族院。罪状の欄に記された文字を、私は三度、読み返した。


『セラフィーナ・ヴェルクロード。王家禁書庫への不法侵入、ならびに王家記録の偽造の容疑により、貴族院審問会への出頭を命ずる』


「──偽造、ですって」


 侵入は、まだいい。事実、正規の勅許なくあの扉をくぐったのだから。だが偽造とは。


 召喚状の下段には、告発の要旨が添えられていた。読み進めるほどに、指先が冷えていく。


『被告発人は禁書庫に侵入し、玉座の間の礎石に虚偽の残留記憶を「上書き」した。何者かが王位継承簿を改竄したかのごとき偽の記録を捏造し、これを根拠に王家の転覆を企てた疑いがある』


 完璧、だった。


 敵は私たちが「何を見つけたか」を潰しに来たのではない。「見つけた者」そのものを潰しに来たのだ。礎石の記録が本物か偽物か、検証できる記録魔導士は国内に私しかいない。その私が偽造の被告となれば、あの記録は永遠に「容疑者の捏造」のまま。


 二十年前と、同じ手口。目撃者に、罪を着せる。


「動くな、というわけですのね。……本当に、お見事だこと」



 急ぎ登城した私を待っていたのは、さらに悪い報せだった。


「殿下が、責任はすべて自分にあると申し出られました。ですが」


 文書院の老官吏が、声を絞るように言った。


「貴族院は、受理しなかったのです。『侵入の責は殿下にあれど、偽造は魔導士にしか成し得ぬ。よって偽造の被告はヴェルクロード公爵令嬢ただ一人』と。……ギデオン侯爵の、ご発言だそうです」


 殿下の盾は、最初から計算の内。狙いは徹頭徹尾、私の魔法の信用だけ。


 その日のうちに、王国魔導士資格審査会の名で通達が下りた。


『審問の結審まで、セラフィーナ・ヴェルクロードの記録魔導士資格を停止する。以後、同人の行う一切の記録再生は、法的効力を持たない』


 資格停止。


 七年間、三千件。積み上げてきたすべての土台が、紙切れ一枚で崩れた音を、私は聞いた。


 これで私が審問の場で礎石の記録を再生しても、それはもう「証拠」ではない。「被告の妄言」だ。それどころか再生そのものが「新たな偽造行為」として、罪状を上塗りしかねない。読む術を持ちながら、読むことを禁じられる。ヴェスパーが二十年前に味わった檻の形を、私は今、体で理解していた。


「セラフィーナ嬢」


 人払いした決裁室で、殿下は初めて見る顔をしていた。静かな怒り、というものを、私はこの日、初めて目にした気がする。


「申し訳ない。あなたを守ると言いながら、この様だ。侯爵は最初から、あなたの資格だけを狙っていた。私の失脚などより、よほど価値のある首を」


「……あら。今の、褒め言葉として記録してもよろしくて?」


 軽口は、半分だけ本物だった。残りの半分は、そうでも言わなければ、膝が震えそうだったからだ。


 二度目なのだ。身に覚えのない罪で、断罪の場に引き出されるのは。しかも今度は、あの夜のように懐の魔法で覆せる保証が、どこにもない。


 けれど、あの夜と決定的に違うことが一つだけあった。あの夜の私は一人で壇に立った。今は──


「殿下。審問まで、何日ありますの」


「十日です」


「結構。では十日で、盤面をひっくり返す支度をいたしましょう」


 私は扇を開いた。指の震えは、扇の陰に隠しておく。虚勢でも構わない。虚勢は、張り続ければ支度の時間を稼いでくれる。


「資格は停止されました。ですが──記録は、消えておりませんもの」


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