第20話
その報せは、正午の鐘とともに公爵家へ届いた。
王宮からの正式な召喚状。差出は貴族院。罪状の欄に記された文字を、私は三度、読み返した。
『セラフィーナ・ヴェルクロード。王家禁書庫への不法侵入、ならびに王家記録の偽造の容疑により、貴族院審問会への出頭を命ずる』
「──偽造、ですって」
侵入は、まだいい。事実、正規の勅許なくあの扉をくぐったのだから。だが偽造とは。
召喚状の下段には、告発の要旨が添えられていた。読み進めるほどに、指先が冷えていく。
『被告発人は禁書庫に侵入し、玉座の間の礎石に虚偽の残留記憶を「上書き」した。何者かが王位継承簿を改竄したかのごとき偽の記録を捏造し、これを根拠に王家の転覆を企てた疑いがある』
完璧、だった。
敵は私たちが「何を見つけたか」を潰しに来たのではない。「見つけた者」そのものを潰しに来たのだ。礎石の記録が本物か偽物か、検証できる記録魔導士は国内に私しかいない。その私が偽造の被告となれば、あの記録は永遠に「容疑者の捏造」のまま。
二十年前と、同じ手口。目撃者に、罪を着せる。
「動くな、というわけですのね。……本当に、お見事だこと」
急ぎ登城した私を待っていたのは、さらに悪い報せだった。
「殿下が、責任はすべて自分にあると申し出られました。ですが」
文書院の老官吏が、声を絞るように言った。
「貴族院は、受理しなかったのです。『侵入の責は殿下にあれど、偽造は魔導士にしか成し得ぬ。よって偽造の被告はヴェルクロード公爵令嬢ただ一人』と。……ギデオン侯爵の、ご発言だそうです」
殿下の盾は、最初から計算の内。狙いは徹頭徹尾、私の魔法の信用だけ。
その日のうちに、王国魔導士資格審査会の名で通達が下りた。
『審問の結審まで、セラフィーナ・ヴェルクロードの記録魔導士資格を停止する。以後、同人の行う一切の記録再生は、法的効力を持たない』
資格停止。
七年間、三千件。積み上げてきたすべての土台が、紙切れ一枚で崩れた音を、私は聞いた。
これで私が審問の場で礎石の記録を再生しても、それはもう「証拠」ではない。「被告の妄言」だ。それどころか再生そのものが「新たな偽造行為」として、罪状を上塗りしかねない。読む術を持ちながら、読むことを禁じられる。ヴェスパーが二十年前に味わった檻の形を、私は今、体で理解していた。
「セラフィーナ嬢」
人払いした決裁室で、殿下は初めて見る顔をしていた。静かな怒り、というものを、私はこの日、初めて目にした気がする。
「申し訳ない。あなたを守ると言いながら、この様だ。侯爵は最初から、あなたの資格だけを狙っていた。私の失脚などより、よほど価値のある首を」
「……あら。今の、褒め言葉として記録してもよろしくて?」
軽口は、半分だけ本物だった。残りの半分は、そうでも言わなければ、膝が震えそうだったからだ。
二度目なのだ。身に覚えのない罪で、断罪の場に引き出されるのは。しかも今度は、あの夜のように懐の魔法で覆せる保証が、どこにもない。
けれど、あの夜と決定的に違うことが一つだけあった。あの夜の私は一人で壇に立った。今は──
「殿下。審問まで、何日ありますの」
「十日です」
「結構。では十日で、盤面をひっくり返す支度をいたしましょう」
私は扇を開いた。指の震えは、扇の陰に隠しておく。虚勢でも構わない。虚勢は、張り続ければ支度の時間を稼いでくれる。
「資格は停止されました。ですが──記録は、消えておりませんもの」




