鉄と煉瓦の街
白煉瓦の街を黒衣の四人が歩く。そのうちの三人は執行服を、一人は黒のカーディガンと長めのスカートを心地よい風に靡かせている。
左側には腰ほどの高さの塀を挟んで川が流れており、石畳の道を挟んで右側には白い煉瓦で形作られた建物が隙間なく立ち並ぶ。所々に青色、黄色、白色の魔導灯が設けられ、夜になればそのコントラストは眼を見張る光景を作り出す。
裏通りの人数は少ない。
「凄い街……。どういう構造になってるんだろう……」
目を輝かせながら言ったのは黒いカーディガンを羽織ったシェリアだった。興味深そうにきょろきょろと街を見渡す姿はまるで都会に来た子供のようだ。
「珍しいでしょ! 川で囲まれた中心部だけ建物が鉄で作られててね。煉瓦の建物とか植物はここら辺にしか無いんだぁ」
シェリアは興味津々といった感じで聞き入っており、ベルルもまた機嫌が良さそうだ。
ここ魔鉱都市ディゼルは名前の通り多くの魔石発掘と魔導技術で栄えた百ヘクタールを有する円形産業都市である。魔導具開発や魔石の研究を長年続けた結果、多くの企業が集まり都市化してしまったのが起こりとされている。乱立する建物の六割以上が魔導絡みの技術を生業とした企業の建物とそこに務める人間の宿舎で民家は比較的少ない。
街全体の造りが企業用に寄ったものとなっているため、特別好みが偏った人間以外は住もうなどとは思わない街なのかもしれない。
「やっぱり女はこういうのが嫌いなのかねぇ」
「ロゼさんはこういう街が好きなんでしたっけ?」
「おうよぉ。狭さと暗さがちょうどいいんだ」
フードを被ったレイズといつものヘッドバンドのロゼは、楽しそうな前の二人を見ながらボヤく。
ロゼの言った通り、辺りの道は狭く馬車がギリギリ通れる程度の幅しかなかった。
「お前はどうだ、レイズ。この街好きかよ?」
彼の方を向いたロゼが問う。
「俺は好きですよ。守られてる感じがするし、何より俺を受け入れてくれた街ですから」
「そう思うならそのフード取っちまえよ。もう一年経つんだから誰も気にしねぇよ?」
少し下を向きながら意味深に言った彼をロゼが促す。今更お前を怖がる奴なんていねぇだろ、と。だが彼は頑なに首を横に振った。
「いや、それはやめておきます。無駄に街の人たちを困らせたくないので」
街の人たち、という言葉の中には他でもない自分達も含まれているのだろうと察したロゼは、溜息をつくと少し不機嫌そうに空を見上げた。
「まぁ、お前がそう思うんなら止めねぇけど。あんま気にし過ぎんなよ」
はい、と返事を返した彼も少し気不味そうである。
二人のそんな会話など全く気に留めていなかったベルルが声を上げた。
「ほら! そろそろ大通りだよ!」
言葉に導かれ二人は前を向くと、目の前には多くの人々が行き交う広い通りが見えた。この街一番の大通り。多くの店や露店商が立ち並ぶ活気の溢れる場所だった。
ただ街の習性上、行く人来る人は皆作業着や正装をした人ばかりだ。
「わぁあ。賑やかなところですね」
シェリアが手を胸の前で組みながら辺りを見渡した。
大通りに出ると一気に気配が変わり人々の話す声や楽器の音色がどこからともなく聞こえてくる。裏通りと大通りの境目に立ち止まる四人は街の様子を見渡し、先にある市場を目指して大通りに歩を進めた。
「いろいろなお店があるんですね。みんな楽しそう」
「ここに来ればなんでも見つかるんだよ! ほら、あそこにあるのはあたしの行き着けの髑髏グッズ店!」
シェリアはベルルが指差す方を向くと、そこには何かの巨大な頭骨が飾られた禍々しい雰囲気を放つ店が目に入った。頭から生えた巨大な二本のツノがねじれるようにして天に伸びている。
そんな光景を前にした彼女は気圧されてしまう。
「あたし超ウルトラプレミアム会員なんだぁ。入ってみる!?」
「えぇ! い、いやまた今度でいいです!」
必死に拒む彼女に、「何で?」と首を傾げたベルル。
困ったようにロゼが言い放つ。
「頼むからお前の悪趣味をシェリアちゃんに押し付けるのはやめてくれ。変態集団になっちまうよ」
「悪趣味でも変態でもないもん! 歴としたオシャレだもん!」
プンプンと怒るベルルをてきとうに流した彼はシェリアの肩に手を掛ける。
「シェリアちゃーん、あんなおっかねぇのよりヘッドバンドどう? 俺すっげぇ似合うと思うんだけどなぁ」
彼はニヤつきながら髑髏グッズ店の向かいの店を指差す。そこは自分の愛用するヘッドバンドが売られたヘッドバンド専門店だった。
「ほらこの赤ぇのとかどうよぉ? 俺プレゼントしちゃう」
「んなぁにがプレゼントしちゃう、よ! シェリアちゃんの髪にはもうあたしチョイスのリボンがあんの! 変な布巻かないでよね!」
「ガイコツを帽子に引っ付けてる奴に変とか言われたかねぇよ!」
またしても喧嘩し出した二人の間で必死に止めようと頑張るシェリア。すでに少し慣れてきている様子だった。
宥められた二人を後ろに、レイズはシェリアと並んで歩き出すと彼女が何かに気付いたように問いかけてきた。
「さっきから通り過ぎる人、私達に会釈してるね。何でかな?」
彼女の言う通り、行き交う街の人々は一行を見るや軽く頭を下げているようだった。
「みんな執行官を敬ってくれているんだよ。仕事柄怖がられることも多いんだけどこの街の人たちはすごく友好的なんだ。支部長とかロゼさん達が街の人に良くしてる証拠だね」
「へぇやっぱりレイズくん達ってすごいんだね」
シェリアの言葉に少し俯いた彼は自信無さげに呟いた。
「俺はどうかわからないけどね……」
「?」
フードの中に顔を隠した彼を伺うようにシェリアが不思議がる。と、その時露店の脇から一行に声が掛かった。
「執行官御一行様! 新しいの入ったんだ! 見てって下さいよ!」
四人が目を向ける。そこにはナイフなどの武器や魔石が埋め込まれた魔導具がいくつも並んだ露店の前に、気の良さそうなおじさん店主が立っていた。
「お、新作の魔導具入荷したかよおっさん! どれどれ……」
興味を持った先輩執行官二人が一緒に露店に向かいテーブルに並んだ物を吟味する。
「……道具屋さん?」
「道具というか武具屋さんだね。俺たちが一番重宝する物って結局戦いに使うものだからさ。露店街に来ると必ず寄るんだ」
レイズの説明にへぇ、と頷くシェリアは先程までより興味が無さそうだ。当然と言えば当然である。
「ほら、レイズのあんちゃんも見てってよ! そっちの綺麗な子は彼女さんかい!? いいねぇ!」
「か、彼女!? ち、違いますよ!」
大慌てで否定する彼の頬は真っ赤である。それを見てシェリアも少し照れてしまうがそれがまた武具屋の店主を笑わせる羽目になってしまった。
その店主の呼びかけを皮切りに辺りからレイズたち一行を誘う声が上がり始めてきた。
ここは装備品の立ち並ぶエリア。
お目当ての食材に辿り着くにはまだ少しかかりそうである。




