極悪組織
「レイズー、入るよ」
ドアの向こうから聞こえたベルルの声に咄嗟にどうぞ、と返すと彼はシェリアに小声で呟いた。
「この話はここで終わり。いいね?」
シェリアが頷くと扉が開きベルルとロゼの二人が入ってきたのだが、ロゼの身体の八割は包帯でぐるぐるに巻かれていて、頭部の間から飛び出した金髪を見るまでは誰なのか分からなかった。
「えーっと……ロゼさん?」
「気に喰わねぇ。同じことやったってのにレイズは頭だけじゃねぇか。気に喰わねぇよ」
「初犯!! 大量前科持ち!! 全然違うわ!!」
首元にチョップを喰らわせようとするベルルを必死で止めるロゼ。
「ちょ! ちょ待った!! 勘弁だって! また全部開いちまうよ!!」
溜息をつき寸前のところで手刀をしまった彼女は、壁際の椅子に腰掛けながらレイズとシェリアに向いた。
「二人で何話してたの?」
「あ、えっと……記憶! まだ思い出さないのって話です!」
「記憶かぁ。まぁ別に心配いらねぇだろ。しばらくすりゃあ嫌でも思い出すさ」
椅子を前後逆にして座り、背もたれに腕を置きその上に顎を乗せたロゼはいつも通り楽観的だ。
「……うん。繊細な問題だから長い目で見た方がいいと思う」
珍しくロゼの意見にベルルが同意した。彼女はどこか思いつめたようにも見える。
その横でレイズが思い出したように口を開いた。
「そういえば、街にメア様が来ていたと聞きましたが……」
「ああ、それレイズが起きたら話そうと思ってて。私たちも聞いただけなんだけどホントみたいだよ!」
ベルルは少し興奮気味だ。それだけ珍しい案件であることがシェリアにも覗える。
「こんな辺境の街にナイトメア級がなんの用だったのでしょう? ……まさか、例の神槍をもう嗅ぎ付けたとか?」
「神槍……?」
首を横に振ったロゼは聞きなれない単語に首を傾げるシェリアに構わず、髪を掻きながら話し出した。
「街の西部にある旧鐘塔跡を犯罪者グループがアジトにしてるって情報が入ったのよ。んでメア様が本部から遠路はるばる執行官一個小隊を引き連れてきたってわけ」
「たかが犯罪者グループ程度で本部の執行官、ましてやナイトメア級がこんなところまで出向くなんて珍しいですね。よほど片付けたい案件だったとか?」
「なんでも構成員全員に執行状が出てる極悪組織だったらしいぜ? まあそんだけでもメア様が出張って来るこんなんて無ぇだろうから、まだなんか裏があんだろうなぁ」
レイズの知るところだと、ナイトメア級の執行官は通常の執行官に告知されるような任務に出てくることは少ない。なにかしらの特異性を孕んだ案件か、機関上層部、もしくは各国々の王族クラスから秘密裏に要請された、機関内にも広報できないような極秘案件を単独で取り扱っているとされている。
そんな孤絶の高官が下級の執行官と小隊を組み参上したことを考えれば、ロゼの言う通り相当な極悪組織だったのだろう。
「結局その犯罪組織は執行出来たんですか?」
「いや、ちょいと遅かったらしい。どっかから情報掴んで事前にとんずらだってよ。メア様が押し掛けた頃にゃ蛻の殻だったってさ」
ロゼの言葉にレイズは驚きを隠せない。
「……情報が漏れていたと?」
「ああ、極秘の任務で必要最低限の人間にしか情報回ってなかったらしいからなぁ。僚内に内通者か、裏切りモンがいやがるだろうな。メア様も相当ご立腹だったらしいぜ?」
笑うロゼをベルルが叱咤する。
「こらロゼ! 笑い事じゃないでしょ!? それだけの能力持った組織がまだそこらへんにいるかもしれないんだからね!」
いやそこら辺にはいねぇだろ、というロゼのツッコミは鮮やかにスル―された。
「街に来たメア様が誰だったのか私達には知らされなかったけど、ぺッスンと面識があるみたいだったから一緒に街のレストランでフルコース平らげて帰ってったらしいよ。深夜に料理長叩き起こして作らせたって」
「はは、ぺスさんらしいですね」
唐突に、少し強めにドアをノックする音が耳に届いた。
「レイズ様! レイズ様はおられますか!」
ドアの向こうから聞こえたのは支部に務めるメイドの声だった。かなり急いでいることが声色から聞いて取れる。
レイズが返事をすると、ドアの向こうのメイドは急かすように呼びかけた。
「昨晩の件でアダムス様がお呼びです! 急ぎ支部長室へお越し下さいませ!」




