――幕間の物語―― 遡った月夜
朽ちた鐘塔の一室に青白い月明かりが差し込んでいる。
ほろほろと天から降り注ぐそれは闇を照らす光であるはずだが、暗闇をより一層際立たせる禍々さを孕んでいた。錆び切った大きな鐘を最上部に携えた建物はところどころが朽ちて崩れ、茨が巻き付き、今にも周りの木々に押しつぶされそうである。
そんな廃鐘塔の中に一人、黒衣に身を包んだ男が月光の窓辺で片膝を立てて座っていた。白に近い空色の髪、藍色の瞳、まるで月光の色をその身に宿したような特徴の男は、何をすることなくただそこに座り込み夜を浴びている。暗闇と静寂の中、フードに縫われた蒼色の獣毛がキラキラと微かに揺れ、無風の月夜に瞬いた。
そこへどこからか、足音が男の方へ近付いてきた。
「戻っていたのかい――ハリア」
足音の男ははっきりとそう言った。
一歩外に出れば口にすることも憚られる人の名を。
呼ばれた男は闇に埋まる顔を少し上げ、応じた。
「――ああ。久々にアイツに会えた」
細いながらも芯のある声だった。月光に向けた口元は少しだけ緩んでいる。
「ふふ、嬉しそうだね。それで、プレゼントはしっかり届けたのかい?」
影の男――ハリアは答える。
「届けたよ。俺の思いが伝わればいいんだが――」
一呼吸おいて、彼は一人の名を呼んだ。
「――レイズ」
影の中で月光に振り返った忌み名の男は、数多の死線を乗り越えた唯一の弟へ思いを馳せた。
後ろで男が嗤う。
そしてハリアもまた、口に笑みを咲かせた。
「そう遠くないうちに《《奴》》に会えそうだ。どういう顔で再会するか考えておかないとな」




