暴魔戦④
瓦礫の中でレイズは待っていた。
ロゼとベルルの救援でもない、状況を覆す閃きでもない。
彼が待っていたもの。
それは死。
「早く……早く殺してくれ――」
結局、自分では奴に勝てなかった。これ以上苦しむくらいならいっそこの胸に空いてくれた穴から溢れる血で終わった方がマシだ――と。
意識と身体が凍っていくような感じがあった。
凍て付くヴェールが身体を包んでいくような、そんな感覚が。
――これが゛死゛か――。
その言葉が浮かんだ瞬間、脳内にある日の記憶が流れ始めた。
それはレイズが初めて支部に派遣されて来た日のこと――初々しい表情を向ける彼にロゼとベルルは笑っていなかった。
記憶――走馬灯は更に月日を遡る。
次は将校学校の昇格式――胸にリボンを付けてくれた教官の後ろに並ぶ同級生たちは、自分から眼を背けていた。
田舎街の実家に急いで帰った満月の夜――そこには天井から吊るされたロープに母親が力無くぶら下がっていた。
――何故だ? ――なぜこんなことになった?
レイズは記憶を遡る。ページを捲るように日々を巻き戻し、巻き戻し、巻き戻し。
そして――。
「――――!!」
彼は暗闇の中で眼を見開いた。
自分にはまだ死んではならない理由がある。必ず成し遂げなければならない、絶対の使命がこの身に刻印されていることを思い出したのだ。
全身を焼くような焦燥感が冷たさを払拭し、心臓に火を灯す。
そして彼は考えた。
打開策。プギーマンの殺し方に脳をフル稼働させる。
――奴は――死ななかった。身体を引き千切っても、毒で制しても、大量の血を流しても死ななかった。それは何故だ? 俺と同じくらいボロボロにされているのに――。
俺と同じ。その言葉を思った時には答えは出ていた。
――俺が死んでないのは急所を突かれていないからだ――。頭や心臓に直撃を喰らっていないから生きてる――。つまり奴の急所はボロボロになった顔面や心臓じゃないんだ――。
彼は戦いの記憶を探る。
なにかヒントがあるはずだ――なにか――。
――間抜けな帽子なんか被ってるからだ――
「!!」
水面に雫が落ちるように、言葉が蘇ってきた。
そして遂に至った。奴の、手縫いの暴魔プギーマンの急所に。
思い返してみればおかしな点が他にも思い当たった。
プギーマンが黒鎖を足場に突進を繰り出した一幕、あの時奴は両手で頭部を守っていたが先の戦いで顔面に銃弾を何発も喰らっていた。では何を守っていたのか。猛撃の両腕を防御に回してまで何を守っていた?
天秤の下敷きになったプギーマンの顔面を踏みつけた時、奴は首元を千切りながら抵抗し反撃に出たが、どこに危険を感じていた? 穴だらけの顔面か? それともまさか自ら千切った首? 当然違う。
「――帽子だ」
帽子。あの赤く長いシルクハット。あれを間抜けと馬鹿にした瞬間に奴は怒り出した。
つまりその一言がプギーマンの゛なにか゛に触れる言葉であったのだ。
習性――違う。
好みか――違うな。
ではプライドか――いや、これも違う。
それは――。
「弱点だ……!」
吐き出すように彼は呟いた。
遂に心臓部を捕らえたレイズはプギーマンの習性と能力を鑑みた上で作戦を練り、そして瓦礫を掻き分け光の下へ這い出ていった。




