暴魔戦①
黒鎖を行使しながら二階のバルコニーをレイズは跳ぶ。寸前まで彼の居た場所が次々と土煙を上げて爆発していくが、当然爆弾が仕掛けられている訳ではない。
破壊兵器の様なプギーマンの追撃が、バルコニーの柱だろうが椅子だろうが関係なく粉砕していく。
「プギャハハハハハハハハハ!!!!!!!」
「しつこいぬいぐるみが! 落ちろ!!」
レイズは左手の黒鎖で掴んだ柱を支点とし、柱をぐるりと一周すると眼前にプギーマンを捕らえる。右手の神槍から銃撃を放ちながら加速し、首元に踵落としを一閃。一階の床に突っ込んだプギーマンに丸い形状の魔導式手榴弾を投擲し、離れながら再び銃弾の追い打ちをかける。
今の彼ができる最大級の猛襲を仕掛けるレイズ。
攻撃こそ最強の防御であると信じ、全神経を攻撃一点に集中させる。
眼下で手榴弾の爆発が起きた。魔力の波が散らばった瓦礫を消滅させていくが、数秒と経たず空間を切り取ったように爆風ごと失せてしまう。
爆心地の中心にはステッキを振るったプギーマン。攻撃は喰らったものの致命傷になど一切至っていないと言わんばかりに嗤っている。
「攻撃は当たってるはずだ……なぜ倒れない……?」
苛立つレイズはバルコニーから銃口をプギーマンに向け銃撃を繰り出す。が、弾道など見えているとばかりに奇怪な調子で躱し、回ったり跳ねたりとまるでダンスでも楽しんでいるように弾丸を持て遊んでいる
。
「プーギャプーギャ!!!」
「舐めた真似を……」
彼は怒りを込めて黒鎖を放った。左側からの薙ぎ払う一閃は飛び跳ねて躱されることとなったが、それでいい。本命はニ撃目、空中のプギーマンを頭上から叩き落とす縦の一閃である。
「羽根は付けてもらえなかったか!? この駄作が!!」
いくら化け物染みた強さを誇っていても飛行手段を持っていない以上、空中ではなにもできない。それは人間でもプギーマンでも同じことである。
黒鎖の一閃をプギーマンはステッキを盾に防いだが、そのまま床に叩き付けられた。
そしてその攻撃にはもう一つの策が括り付けてあった。
プギーマンの上に覆いかぶさった黒鎖に何か、赤く点滅する丸い物体が。
「プギャ??」
「消滅しろ!!」
手に握られたスイッチを押すと、魔術の檻が展開され魔術爆発が起こった。メインボイラーを粉砕したあの爆発である。
内部を粉々にする重低音が広間に響き、振動により風化した壁が散っていく。
ゼロ距離爆破、逃げる暇もなかった筈だ。
「やったか――?」
一瞬、慢心したレイズだったがその油断は最悪の形で払拭されることとなる。
彼の首元を目に止まらぬ速さで何かが掠めたのだ。
爆心地から飛来した棒状のそれは背後の柱を貫通し壁に突き刺さる。振り返るとそこには黒いステッキが喰い込んでいた。
絶句するレイズ。もしあと五センチ狙いがずれていたら喉に風穴が空いていたかもしれない――、と。
しかし追い打ちはそれだけでは終わらなかった。背後から強烈な殺気を感じ取り前を向くと、黒鎖を足場に一直線で向かってくるプギーマンが目前に迫っていた。
「この化け物がぁ!!」
片手の神槍から銃撃を繰り出すが、プギーマンは両手を顔の前でクロスさせ頭部を守りながら突進してくる。
このままでは直撃を喰らう――間に合えっ――!!
一度神槍を頭上に放り、空いた片手をフォルスターのポケットに忍ばせた。
ある物を取り出すと同時に眼前に迫るプギーマンに投げ付ける。と、胴体に接触した瞬間に火炎の渦がプギーマンを包み込んだ。
円筒状の小型焼夷弾。それも魔術爆弾や閃光弾と同様に執行官支給の物品であるため威力は強烈、当然魔術的な力も付与されている。
「まだだ!!」
レイズは放った神槍を再び手に収めると、さすがに怯んだ様子のプギーマンに弾丸を連射する。
「プギィィィイイイイイイ!!!!!」
炎が身体を焼き、顔面には銃撃の応酬。
悲鳴と取れる鳴き声を確かに響かせた暴魔は渡ってきた黒鎖をよろけながら下がっていく。
「逃がさない!! お前はここで俺が殺す!!」
勝機を垣間見たレイズ。
絶えず銃撃を繰り出し次々と白い頭を赤く染めていく。
しかし暴魔の名を関するプギーマンはその程度では倒れない。細い両手で足元の黒鎖を掴み――。
「プギャ!!」
一気に左に振るった。
黒鎖を放出したレイズの視界がズレる。
プギーマンを中心として扇を描くようにレイズの身体が引きずられ、瓦礫を蹴散らしながら柱を砕き、バルコニー端の壁に叩き付けられた。
「が……」
呼吸が止まり、代わりに真っ赤な血を吐き出した。床に引き摺られた右腕からも血が溢れ、シャツを赤く染め上げていく。
黒鎖の持つデメリットが最大限に作用した結果だった。
床に伏した彼は黒鎖をずるずると引き戻しながら痛みに悶絶する。そしてまたそこにあの鳴き声が届いた。
「プギャプギャ」
力付くで左腕を立て、血を垂らす顔を上げる。睨み付けた先では身体中が焦げ、落書きの顔面を真っ赤にしたプギーマンが立っていた。両手で穴だらけの顔面を掻いている。
「……銃弾も効かない。爆破しても炎で炙っても倒れない。いったいお前には何なら効くんだ? 化け物が。教えてくれよ」
ふら付きながら彼は立ち上がる。辛うじて手放さなかった神槍をフォルスターに戻し、代わりにジャケットから二刀の暗器を取り出した。その得物をベアウルフと対峙した時と同様に逆手に構える。
「生憎、もう俺にはこれくらいしかないんだよ。効きそうか?」
「プギャハハハハハ」
そこで初めて、レイズとプギーマンは共に笑った。だが同じ笑いでも意味は全く逆。
殺す者の嗤いと殺される者の笑い。
互いの笑い声が収まった瞬間、両者は攻撃に出た。




