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特攻策と延命策

叫びにも聞こえる言葉と共に両手の神槍《ランス》から八発×八発の弾丸が、二秒と経たない間に繰り出された。

 弾丸が直撃する寸前でめり込んでいたシルクハットが壁を半壊させながら抜け、プギーマンは弾丸を浴びながらも即座に上方へ飛び跳ねた。


 全てとは言わないがほぼほぼ命中したはずだ。レイズは神槍《ランス》を胸の前で構えながら横へ跳び広間の柱の陰に身を隠し様子を覗う。


 「はぁ……はぁ……二階に跳んだが――?」


 二階の一部で土煙が上がっていることから、どうやら弾丸から逃げたプギーマンは広間の二階エリアへ着地したらしい。ただ二階と言っても細い隙間に木製の椅子が並んだ狭いバルコニーのようなエリアのため戦闘にはあまり適さないし居座るにしても攻撃の的になりそうだ。


 「直ぐに降りてくるか……?」


 その時バルコニーで巻き上がった土煙の中で赤い光が揺れるのが見えた。

 次の瞬間。


 「プギイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィ!!!!!!!」


 またあの咆哮だ。

 先ほどよりも明らかに荒々しく怒りに満ち満ちていることが感じ取れる。

 朧げに見え隠れする赤い魔力が滲み出した両目を中心に土煙が一瞬で掻き消され、怒りにニヤけ、両手を広げるプギーマンの姿が現れた。

驚くべきことにそのぬいぐるみのような身体からは赤い血が滲んでいた。弾丸を食らった場所から、さも人間のように血を流しているのだ。


 「こいつ……血流機能を持ってるのか……!」


 レイズの分析などお構いなしに、憤るプギーマンは膝を折りまたしても突進体勢をとった。

 その動きを見取ったレイズは即座に柱の陰に身を隠すが、その判断も誤りだった。


 大砲を放ったような爆発音と共に襲来したプギーマンはレイズが背を当てる直径一メートル程もある石柱をいとも簡単に崩壊させたのだ。背中に走る衝撃に吹き跳ばされ、広間の床を転がりながらもなんとか身を起こし、今度は黒鎖を別の柱に巻きつけて即座に回避行動をとる。と、一瞬前にいた場所がプギーマンの攻撃で砕かれる。


 悪夢の様な連鎖。どこかで断ち切らなければいつかその無茶苦茶な一撃がまたも自分を貫くこととなる。

 プギーマンの猛撃を何とか躱しつつフルスピードで脳を回転させ思考を巡らせる。


 ――本来打撃性に乏しい《《はず》》のプギーマンの一撃は、風化しているとはいえ石の柱を簡単に砕き、反対側にいる人間を吹き飛ばすほどの破壊圧を持ち合わせていた――。


 それはレイズの知る情報が間違っていたのか、【にやけ面】故の威力なのか、もしかしたらこの威力で打撃性に乏しいレベルだという話なのか、それはわからないがとにかく今目の前に居る暴魔は岩をも一撃で砕く攻撃力を持っていた。


 もう一度まともに食らえば立ち上がる事はできない――。

 再びの直撃は死を意味する――。


 そう考えた時、残された選択肢は二つだ。


 ――一つは無謀覚悟の特攻策、全身全霊を持って潰しにかかる捨て身の猛撃手段。

 にやけ面相手とはいえ先ほどの銃撃によりそれなりのダメージは負わせているはずだ。全身から流れる赤い血がその証拠でありそもそも逃亡を試みたところでプギーマンの神速とも言えるスピードから逃れることなど出来はしないし、最悪逃がしたシェリアまで巻き込んでしまう可能性まである。いくら圧倒的な力を持っている暴魔と言っても圧倒的要素は゛防御゛ではない。事実レイズの攻撃は効いているのだ。やられる前にやる、背水の陣を引いた決死の勝負を挑む。


 もう一つはひたすらプギーマンの攻撃を避け続け仲間の増援を待つ延命策。

 レイズは今二人の正務執行官に救助要請を出している。ここまでの道のりを考えれば断崖や暗闇の階段など進みにくいところは処々あれど迷うような道ではないはずだし、レイズが奥地まで辿り着いている事実を考えれば罠などの存在を鑑みて二の足を踏むこともあるとは思えない。それにロゼたちが広間に到着した場合、レイズと合わせて執行官が三人。先のダメージも相まってにやけ面の討伐可能な条件をクリアできるかもしれない――。


 その二つの策。


 ――特攻策か、延命策か――。


 普通に考えれば後者を選び増援を待つのが定石と言える。

 だが――。


 ガガガガガガアアアアアアアァァァァァァ!!!!!


 轟音を響かせながらレイズの目の前で石床が抉られ、クレーターのような穴がぽっかりと出来上がった。勿論それは目にもとまらぬ速さで宙から急降下した暴魔によってだ。彼は飛散した床の破片に身体を弾かれ後方へ跳ばされる。


 ――この神速、この破壊圧を目の当たりにしている場合、それが定石と言えるかと問われれば答えはノーだ。


 増援がいつ到着するかはわからないがそれまでこの猛攻を耐え凌ぎ命を繋げることは不可能、愚行とも言える非現実的な行為だった。

 地面に叩き付けたガラス玉のように砕ける石の床を目前に、彼は選び、覚悟を決めた。


 「やってやるよぬいぐるみ。ここはお前の処刑場だ。そのまぬけな身体、穴だらけにしてやる」


 煽りを受けてなのか元からなのか、更に怒り狂った様子のプギーマンはレイズに突進し、彼もまた容赦など一切なく引き金を引いた。


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