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受信

 ハッとしたように二人は目線を合わせる。


 「受信……? 俺たち以外から!?」


 「もしかしたら……!」


 彼等が装着した無線機はあくまで近距離連携用のものであるため、通信可能範囲は遮蔽物等の存在を想定した場合せいぜい二百メートル程度とされているが、この廃墟に空いた空洞という状況下では倍近くまで伸びることも考えられる。


 ノイズが響く無線機に耳を傾けると――。


 「……ザザ…ゼさ……ザ…さん…ザザ…ロゼさん……!」


 ロゼを呼ぶ声が確かに聞こえた瞬間、二人は歓喜の表情を浮かべた。その声は間違いなく後輩執行官の声だった。


 「レイズ!! 俺だ!! ロゼだ!! 聞こえるかよ!! おい、レイズ!!」


 「ロゼさんで……ザ…良かっ……た…ザザ……聞こえ……ますか?」


 段々とノイズが収まっていき声色が鮮明になる。途切れ途切れの言葉が次第に繋がっていった。


 「ああ! ノイズがひでぇが聞こえてんぜ! お前、無事かよ!?」


 「全身ボロボロですが……大丈夫……生きてます……!」


 彼の返答に安堵する二人だったが現状は変わらない。無線機から聞こえる声の元は自分たちの遥か下、地震により地盤が歪んだいつ崩れてもおかしくない土の中なのだから。


 「そうか……良かった……! 今から俺たちがそっち行くからよぉ! それまで大人しく待ってろよ!」


 「俺たち……、ベルルさんも一緒ですか!?」


 問いかけにベルルが応じる。


 「あたしだよ! 諦めかけてたけど、よく無事だったね、レイズ。本当に良かった!


それと……【あれ】も確認したから」


 ベルルが閉じたトランクを一瞥する。


 「……本物……ですよね?」


 「間違いないよ。誰かが作った偽物じゃあそこまで《《寄れない》》から」


 「やっぱりそうでしたか……というか! そんなこと今はなんでもいいんです!」


 焦りを滲ませた声で言い放った彼は呼吸を荒くした。


 「そ、そんなことってお前……」


 ロゼが半ば呆れたように口を歪ませるがベルルが制し問いかける。


 「なにかあったの?」


 「それが……遭難者です!!」


 レイズの発した言葉の意味が理解できず二人は固まってしまった。


 「……遭難者って……? そこに?」


 ベルルが問う。そんな地の底にあなた以外の人間など本当にいるのか、と。


「そうです! 地下の広間で女性を一人発見、保護しました! 目立った外傷は無く意識もありますが記憶が混乱しているみたいです!」 


いくつかの不可解な単語を孕んだ報告を聞いた彼等は、半信半疑といった感じでお互いに顔を合わせると少し置いて再びベルルが無線機へ語り掛けた。


「だいたいの状況はわかったよ。あたしたちが今からそっちに向かうから、それまでその遭難者の人と大人しくしてて。いいね?」


 遭難者のこともレイズ自身の状況も、話で聞くよりいち早く現場に赴いた方が良いとベルルは考えたのだ。


 「わかりました! 道中崩れているところが多いので気を付け――」


 その時だった。

今まで無線機から聞こえていた彼の声が急に途絶えたのだ。


「?」


行動に移そうとしていた二人は一瞬硬直した後、通信が途絶えたのかと考えたが直ぐにまた無線機からレイズの声が放たれ、通信の異常ではない事に気が付いた。


 「……え、なに? へんなのって……どこに?」


 「レイズ、どうかしたか?」


 ロゼが誰か――おそらくは遭難者の人間――に返答するレイズに問う。


 「あ……いや、すいません、何か細長い……え?」


 何かを報告しようとした彼の言葉が一度、止まる。


 「なんか動いて……変わってる……人か?」


 「人だ? まだほかにも遭難者がいんのか?」


 「いや、そういうわけじゃ……え……あれ……なんだ……?」


 「なんだあれ――」


次の瞬間、無線機から放たれた【鳴き声】にロゼとベルルは戦慄することとなる。

 

 「プッギィィィ」


 そこで無線機の反応は途絶えた。レイズ側が故意に遮断したのだ。

 微かに、だが確かに聞こえたそのまぬけでどこか恐怖心を駆り立てられる様な鳴き声は、二人の脳裏に焼き付いた記憶を一瞬で呼び覚まし、戦闘本能を引っ張り出した。


 二人の間に沈黙が流れる。

 噴き出した頬を流れる汗を冷たい夜風が拭っていく。


 レイズの曖昧な言葉の意味こそ分からなかったが最後に聞こえた鳴き声だけである程度の事を悟った。今、彼と一人の遭難者がどういう状況に陥っているのか。

 数秒の沈黙を経て口を開いたベルルは見開いた眼で空洞を見つめながらただ一言、こう言った。


 「レイズが死んじゃう。すぐに助けに行かなきゃ」


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