大地震
大型の魔物を裕に吹き飛ばす魔術陣の爆発が起こった。あたりのコンテナも巻き込んだ爆発はすでに生き絶えたベアウルフの死体を転がしていく。
レイズは頭上の鉄骨に黒鎖を巻きつけ被害を受けないところまで上昇した。黒鎖は出したり引っ込めたりすることでこのような芸当も可能である。
爆風でゆらゆらと揺れる中でもう片方の腕に握る神槍を眼下の爆破跡に向けると、数カ所からガサガサと動きがあった。
「やっぱり全滅ってわけにはいかなかったか…… さすがにしぶとい!」
バラバラになったコンテナの瓦礫の中から這い出たベアウルフは三頭。ほぼ無傷に等しい体を見るとおそらく爆発を察知し咄嗟に逃げ果せたのだろう。
「選りすぐりが残ったなぁ。どうしかけるよ?」
気が付くとロゼが頭上の鉄骨に着地していた。神槍を肩に置きしゃがみながら眼下を睨みつけている。
「残りはたった三頭です。奇策の類はいらないと思います」
黒鎖を縮め鉄骨の上に乗るとロゼに語りかけた。
「そうだなぁ。四の五の考えず実力行使で終わらせるのがてっとり早ぇか」
眼下で揺らぐ六つの眼を二人は睨み付ける。
「さぁて、どうすっかねぇえ……」
次の瞬間だった。
ずどおおおおおおおおおおおおおん!!!と、大きな衝撃が二人を貫いた。
空間全体に響き渡る轟音とともに二人の視界が大きく左右にズレたのである。鉄骨の上に立つ二人は大きく体制を崩され咄嗟に近くの手すりへ手を伸ばししがみ付いた。全身を預ける鉄骨は傾き、辺りからは鉄が破断する音やぶつかる音が反響し耳を劈いた。
「な、なんだよこの揺れ!! 何がどうなってやがる!?!?」
突然の出来事に狼狽する二人は正常な判断ができない状態に陥った。とにかく鉄骨からの落下だけは避けるよう必死に手すりにしがみ付く。
「地震です!! 滅茶苦茶な強さだ!!」
二人を突如襲った現象は地震だった。それもまともに立って居られないほどの大地震だ。
考えられない程の不運。廃墟の中心で地震に遭遇すること自体ツイていないのにここは地下数百メートルの錆びついた廃空間。頭上から鉄塊一つ落ちてきて身体に命中すれば即死もありうる。
レイズは自分が伏せる鉄骨が音を立てて軋んできているのを感じ取り声を荒げた。
「う……動かないと!! ここに留まっていたら危険です!!」
「分かってるっっ! でもどこ逃げればいいんだよ!?」
両手で手すりにしがみ付くロゼは、眼下に我先にと散っていくベアウルフを確認した。こんな状況になってはもう戦いどころではないと魔物も判断したようだ。
二人は揺れる視界の中、辺りを見渡すが決定的な逃げ口がまるで見つからない。下ってきた階段は脆くも途中で折れ曲がりただの鉄屑と成り果てているし周囲の壁にも出口に使えそうな扉は見当たらない。
地上に続く光の糸口はない――、とレイズが歯噛みした時だった。
「上だっ!! もう上しかねぇ!!」
隣で立ち上がろうとするロゼが吼えるように言い放った。
その言葉が上手く理解できないレイズは頭上を見上げると、少しだけロゼの言わずとしていることがわかったような気がした。
二人の頭上には所々に掛けられた足場、揺れで傾く鉄骨、暴れる鎖やロープの類。その言わば廃施設の残骸のような物が不規則な感覚で《《地上へと続いている》》。
「……これを登って地上に上がるんですか? そんなの――」
「泣き言言うんじゃねぇえ!! 死にたくなきゃあ気合見せやがれレイズ!! それともここで串刺しになるかよ!?!?」
ロゼは何かに縋るように問いかけるレイズを一蹴し目線を合わせて強い口調で問いかける。まさかこんなところで死ぬ気ではないだろ? と、臆した後輩を鼓舞しているのだ。
ロゼの強い瞳にレイズは考えることも無く首を横に振り無理に笑って見せた。
「そんなのお断りですよ……! 俺も執行官です。この程度、乗り越えられます!」
「よぉく言ったぁ!! さぁ、地上まで駆け上がってやろうぜぇ!!」
ロゼは汗が滲む顔を上げニィと笑い左手を掲げると一気に黒鎖を放出。鉄骨に擦りながら最長の長さまで延ばし切る。同時にレイズも左腕から黒鎖を放出し手すりを支えに立ち上がった。




