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五章19〜“コートに臭いを…”

 〜エイルーナ視点〜


 とりあえず渡された白いコートを羽織る。

 前のボタンまでしっかり留めて体を隠す。


「…それで仕事とは?」


 正直まだ体に痛みはあるが、それよりミシェイルが気になる。

 レイスはまぁ大丈夫な気がする。


「レオリス・アストラルの仲間3人を助け出す、これが俺の仕事だ」

「……他の2人は?」


 誰からの依頼なのか、一瞬考えた。

 レオリスの仲間を…つまりはレオリスは助ける必要がないが、自分で私達を助けに動けない状況にある。

 そう判断して話を進める。

 つまりこの男に依頼したのはレオリスだろう。

 私達を襲撃したということで言いたい事もある。

 だがそんな事よりミシェイルが心配だ。


「…2人は地下に奴隷用の牢屋があるからそっちだろうな」


 なぜ自分と違うのかとも考えたが、先程の2人の話を思い出す。

 確かボスが私に手を出すつもりで…つまりはそう言う事なのだろうと勝手に推理しておく。


「わかりました…地下ですね」


 凍り付いている男の剣は奪えそうにないが、もう1人の亡骸から剣を拝借する。

 現状で満足に振ることは出来ないかもしれないが、念の為に持っておいた方がいいだろう。


「…名前は?」

「エイルーナです」


 簡単にそう答える。


「俺はルシエル・ノーバルギア、よろしくな」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 2人でまとまって敵のアジトを進んでいく。

 そこまで広いとはいえない建物だと思うが、数人の見張りなどもいた。

 だがルシエルは圧倒的だった。

 私の負傷察しているからか私に一切の手出しはさせずに敵を発見すると一瞬で距離を詰めて、一撃で殺害していた。

 こう見ると、やはり私達を襲撃した時は手加減していたのだとわかる。

 それはそれで悔しい気もするし、私を足手纏い扱いするなと言いたい気持ちもあるが、今はルシエルの動きをよく見ておくことにする。

 常に剣主体の私やレオリスと違い徒手空拳のルシエル。

 大きめの長剣を背中に背負っているが、恐らくこの場所に適していないから使わないのだろう。

 魔装を使っているのかわからないが手刀で貫いている事が多い。

 さっきのような魔法はあまり使っていない。


 見れば見る程にこの男が強いのだと理解できる、そしてその足運びを、反応された時の対応をしっかり目に収めておく。

 徒手空拳もいざという時の為に出来るに越したことはないし、必ず剣でも活用出来る事はあるのはず…なのでしっかり盗める可能性のある術もそれ以外も見ておく。


 地下の扉には、私の予想以上に早く到着した。


「見惚れるほどに魅力的か?」

「調子に乗らないでください」


 私の視線にそんな軽口を投げてくるが相手にはしない。

 地下の扉を開けて階段を降りると、悪臭が充満しているのがわかる…鼻が曲がる…長く居ると体が悪くなりそうな臭いだ。

 周囲を見回すと牢屋の中にはレイスやミシェイルの姿があった。


「エイルーナ!」

「ルーナちゃん!」


 ミシェイルが私に気付いて声を上げる。

 それに反応してレイスも続いてくる。


「遅くなりました」


 すぐに歩み寄って牢屋を確認する。

 外で見張りの骸から回収した鍵で扉を開く。

 中にはレイスやミシェイルの他にも捕らえられた子供達がいた。


「みんなもう大丈夫だ」


 しかしミシェイルの一声で子供達は緊張の糸が切れたように泣き出す子もいた。


「でもルーナちゃんはどうやって逃げられたのさ?」


 私の状態を見て確認。

 怪我をしているのも察したのだろう、ミシェイルには気付かれてない。

 子供の事もあるし治療はまた後でもいい。


「あの人…が…」


 後ろを振り返るとルシエルが居なかった。

 さっきまでそこに……。

 気配を探ると地下の入口で待っているのがわかった。


「…私達を襲撃した男が助けてくれました」

「……なんで?」


 レイスも不思議そうに問いかけてくる。

 私もそうだったがやはりすんなり飲み込めるわけではない。


「…細かい事はわかりませんが、恐らくレオリスが手を回したのだと…」


 レイスは少し考えるような素振りを見せるが、納得いったのかわからないが結論を出したようで、1人で数回頷いた。


「ミシェイルちゃんには俺から説明するからとりあえず今後の事聞いて来て貰える?」

「…わかりました」


 私もなんとなくこれ以上関わりたくないが、そう言うわけにもいかないらしい。

 とりあえず装備を回収したい。


 階段を登ってルシエルの待つ扉の前に戻ると、武器などが集められていた。


「…私の剣も……」

「どうでもいいけど臭い…」

「私が臭いみたいな言い方はやめてください」


 どうやらこっちの思考を読んでか先回りされていたようだった。

 自分の装備を回収して、レイスやミシェイルを確認し、一目でわかったレオリスの装備も回収しておく。


「…この後は?」

「街に戻るだけだ、道中の危険も特にない…明るいしな」


 つまりルシエルが認識している限りの見張りは始末したという事なのだろう。

 そう言うとルシエルは先に歩き始める。


「何処へ?」

「外だよ…臭くて嫌だね」


 足を止めてそう悪態を吐くとそのまま歩きだそうとするが、数は歩いて立ち止まる。


「そうだ……コートに臭いをつけるなよ?」

「……」


 あの場所にこのコートを捨ててきてやろうか。

 真面目にそう思った一言だった。

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