五章6〜“俺の女性免疫にステ振りは…”
ナンパ……見知らぬ人に声をかける所から始まる。
ナンパナンパと聞こえが悪いが俺たちはあのお姉さんとどうにかなりたいわけじゃない。
情報を引き出したいのである!
具体的な目的は安全・楽・早い…この条件に出来る限り当てはまるルートを教えてもらうこと!
素直に地図通りでもいいんだけど、山道っていうのは素人が思ってる以上に複雑に出来ている…、つまりナメてると迷子…この場合遭難か。
今回はクリスやアルフリードが探しに来てくれるわけじゃないので念には念だ。
そして魔物やもちろん山賊的な奴ら、さらには軍やお偉いさんの関係やらで立ち入り禁止区域や避けた方がいい場所なんてのはあるかもしれない。
ここは他国である。
言葉が通じるとは言え異種族の文化である。
つまらないいざこざで揉め事を増やすわけにはいかないのだ。
あとは護衛や案内役。
店主は人でもなんでもって言ってたって事は、信用出来る優秀な冒険者とか傭兵を紹介してもらえるかもしれない。
とりあえずリズまででもいい。
腕のある護衛がいるのは心強いことだからな。
「レオ行ってよ…」
「ええええっ!」
肩においた手を払いのけられて、少しテンションの低い声でそう告げるレイス。
「俺やだよ?さっきやったじゃん!レオまだしてないでしょ?いけるよいける!」
よほどさっき冷たくされたのが響いてるらしい。
言葉だけでなく、目からも訴えるような意思を感じられる。
「いや、でも…」
俺はDTなのだ、いやレイスもそうかもしれないけどさ、生きてきた年数が違うわけよ?
子供の頃は誰だって怖いものがなかったりするじゃん?
俺なんて昔は虫を素手で捕まえたは、ポケットに入れて帰って、母親によく怒られたものだ。
だが成長するにつれて、虫は気持ち悪く感じ、さらには恐怖も感じるようになる。
最終的にはゴキブリが出たら妹の方が強いくらいのレベルだ。
え、軟弱だって?最近の男はそんなもんよ!
「レオ!こんな事で臆してちゃいけないと思うんだよね…、レオは剣聖の名を継ぐんでしょ?」
「え、そんな事今回と関係なくね?」
「あるんだよっ!」
あるの?納得いかない。
「さっき店主と話してたみたいですが収穫はありましたか?」
ウジウジしている間にエイルーナ達が寄ってきた。
俺とレイスは一瞬固まる。
すぐに同時に頷いた。
俺の女性免疫にステ振りするのはまたの機会になりそうだ。
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〜エイルーナ視点〜
「お時間…よろしいですか?」
ナタリアの前の椅子に腰掛ける。
「…なんだガ…」
「仕事のお話です」
ナタリアが遠ざけようとする前に私はすぐに本題を振る。
子供嫌いらしいという情報は聞いているし、話しかけたら一言目で遠ざけるように声を荒げるのはレイスの時に行われたと聞いていたので予想していた。
ナタリアも少し表情が固まるが、先程より顔付きが変わった。
「まずはこれを…」
私は懐から銀貨1枚をテーブルの上に置く。
この辺ではどうか知らないが、情報屋というものに情報を聞き出す時のマナーだと義兄から教わった。
「……何が聞きたい?」
ナタリアもその銀貨を懐にしまう。
つまり交渉のスタートということだ。
「私達はリズを目指してます、欲しい情報は経路、あと他所者なのでこの国で旅するのに気をつけるべき事も教えて頂きたいですね」
そう言って私は懐から小さな地図を取り出し、広げて見せる。
「…そうか、まずはルートの基本は地図通りでいいだろう、メインの山道を外れなきゃ魔物ともそんなに出くわさねぇよ」
地図を指先で指し示しながらそう語っている。
記憶力には自信がある、
「この地図通りで行けば、トンネルを抜ける事になるがこのトンネルは最近事故があって潰れちまってる…」
そこは通れないとなると迂回するしかない…。
「早く進みたいならここらで下山して麓のルートを通った方が早い…」
「……代わりに危険だと?」
ナタリアは頷いた。
急ぐ旅でもないが、個人的には早く進む方がいい…危険だからとかで遠回りするというのは性に合わない。
もちろん私に決定権があるわけではないけど…。
「もちろん安全なルートもある、遠回りすりゃ2週間ほどでトンネルの裏側まで辿り着くさ」
2週間…、かなり長い…。
トンネルの裏側という事はその後再び正規ルートに戻るという事になる。
リズまで4週間くらいか、逆に私の見立てでしかないが麓のルートは半分でいける。
信頼できる護衛がいるならこっちの方がいいでしょう。
私はさらに銀貨を1枚テーブルに置く。
ナタリアも自然にそれを回収する。
「この辺に現れる魔物は決まってる、ゴーレムやトレント、夜にはアンデット系、コイツらは雑魚だ…、お前らの力量はわからねぇが、そこそこの傭兵でも余裕で対処できんだろ!」
ゴーレム…恐らく来る時に遭遇した泥人形だろう…、トゥレントもそうだが地域に依存するタイプの魔物…、私やレオリスの敵にはならないでしょう。
そもそも難しい問題だ。
私やレオリス、レイスやミシェイルのレベルがどれぐらいなのか…。
この人のいうそこらの傭兵のレベルとは…。
私は自信がある!そこらの奴らに負ける気はしない。
私にたまに土をつけるレオリスも負けないでしょう。
ゴーレムを基準にするならレイスやミシェイルは厳しいのかもしれないけど…。
「麓のルートの危険とは?」
「ストーンタイガー…ギルドではAランクとして張り出されてる魔物でな、そいつの目撃情報が増えてる」
ストーンタイガー…聞いたことがある。
巨大なツノを持つ灰色の虎。
速さと力を両立しつつ、大地の魔法を操る魔物。
「元からこの辺には居なかった魔物だな、黒竜事件以降ゼレーネの方から流れて来たんだろうな」
話には聞いていた。
黒竜事件以降魔都と呼ばれるゼレーネから強力な魔物が増えた事、そしてその魔物の生息域が広がっている事。
「これだけ冒険者がいるのに野放しですか?軍だって放置するべきではないはずです」
「お前の言い分はもっともだ、まずここの冒険者のレベルは低い…、グリンダムは魔物も少なく弱い、冒険者からすりゃ儲からねぇんだ」
たしかに主な魔物がゴーレムやトレント、夜にはアンデットというならアストラル領と変わらない。
山でそのレベルならかなり安全な国だろう。
「冒険者なんかに頼らなくても軍が仕事するしな、さらに言えば国境を越えれば迷宮都市アマルもある、まともな奴らならそっちに行く」
たしかにそうだと思う。
しかしならば軍がストーンタイガーを狩ればいい。
弱い魔物じゃないし被害が出るかもしれないが、そんな事仕事なのだから仕方ないだろう。
「この国は鉄壁だ、だが内側はそうはいかねぇ…もうすぐ国王が死にそうなんだとよ…つまり、あとはわかるだろ?」
理解した。
王族や貴族、軍を動かす権力者達はストーンタイガーが国の端を縄張りにしてるなんて事に気を向けている場合ではないという事になるのでしょう。
「わかりました、…あと、信用出来る冒険者…傭兵でも構いませんが仲介して頂けたりはしますか?報酬は勿論紹介料も払います」
とりあえず最低限の情報は手に入れた。
みんなに伝えて選択しなければならない…特にどっちのルートで行くか…。
それ次第では護衛も変わってくるし…。
「そうだな…ちょっと確認取らなきゃならねぇが、なんとかなると思うぜ?」
「わかりました、貴女とまた連絡を取ろうと思えばどうすれば?」
「3日に一度はこの場所に…午前中はいるぜ?、その時に顔出せよ、…次はさっきの剣聖のガキも一緒にな!」
レオリスの方はバレてるようだ。
まぁ家紋もあるしわかるだろう…、レイスやミシェイルの方はバレるとなにかと面倒だが、こっちは構わない。
「わかりました、御丁寧にありがとうございます」
そう言ってもう一度銀貨を1枚テーブルに置いた。
さりげなくそれを回収すると、ナタリアは片手を上げてヒラヒラと手を振った。
私も立ち上がり、冒険者ギルドを出た。




