五章7〜“お誘い”
戻ってきたエイルーナから話を聞いた。
まずは俺たちの中で決めなければならないことがある!
麓の時短ルートを通るか、遠回りして安全に進むか、である。
「私は決定に従います」
説明を終えてすぐにそう告げたエイルーナ。
これは彼女なりの決め事らしい。
何度もそう言う態度はやめてもいいと話したが、今回の旅に俺の力で同行を許された。
これは彼女の中で大きな借りらしく、少なくともその借りを返すまでは同等で接する事は出来ないとか何とか言ってたとミシェイルが……。
リドルフさんもこんな風に一歩引いてたな、そういえば。
よくわからん…というよりめんどくさいと思ってしまう…。
何というか武人気質なのかもしれない。
まぁ彼女なりの決め事なので、ある程度は尊重する。
最終的に多数決になっても奇数の方がいいしな。
「俺は迂回ルートかな?急ぎの旅じゃないんだしわざわざ危険を犯す意味はないでしょ?」
「私もそう思う」
レイスとミシェイルは迂回ルートを選択。
正直俺も同じである。
ストーンタイガーとかいうAランクの魔物、つまりはジュラテッカと同じレベルというなら戦いを避けるべきだろう。
クリスもアルフリードもいない状態で出会ってしまったら、全滅の可能性だってある。
そんな危険は必要ない。
確かにあの時とは比べ物にならないくらい成長したと自分でも思う。
だが、ジュラテッカは幸運が重なって俺が仕留めることが出来た。
決して実力で倒せたなんて思っていない。
そんな慢心はするべきではないからな。
「俺も迂回ルートがいいと思う、それこそ迂回ルートの魔物でも俺たちにも危険なんだ、Aランクなんて相手しちゃダメだ」
「決まりだね」
正直始まる前から議論の意味はないだろうとは思っていた。
危険な道を通りたいなんて戦闘狂はいないだろうからな。
「次は護衛、案内役だな」
山というのは普通進んでも方向感覚を失いやすい。
レイスがその辺は大丈夫らしいが不安点はそれだけではない。
魔物だって弱い魔物ばかりらしいが、それでも夜襲われたりすると大変だ。
山の夜はもはや闇の中でしかないからな。
少しでも見張りの手が増える方がいい。
つまり雇わないという選択肢はない。
「護衛も雇う方向でいいでしょ!戦える人は多いに越したことはないし、まぁ、向こうで用意してくれる人と会ってみない事には始まらないけどね」
レイスのいう通りだ、雇うと決めればあとは会ってから決める。
「そうしようか、買い出しとかは次のタイミングまでに済ませて…少し休養にしよう」
2日間の休みが決まった。
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1人金貨1枚…これが今回の1人当たりのお小遣いだ。
それ以上必要なら要相談と…。
かなり高額なお小遣いだが、理由は簡単である。
ここはドワーフの国…俺の前世の記憶通りドワーフとは酒が大好きで、そして手先が器用なのだ。
つまり優秀な武具を調達することが出来る。
俺の剣やエイルーナの剣はともかく、防具なども調達して置くチャンスだと…。
俺は宿の庭に出る。
宿主に素振りとか簡単な運動はしていいのかと聞けば、それくらいなら構わないと言われた。
エイルーナは怒られていたのは何故だろうか?
場所?それとも無断でやっていたのだろうか?無断は良くないよ、やはり断りを入れないと!
ちなみに宿の庭といっても、マンションに備え付けの公園くらいの広さはある。
素振りするなら十分な広さだ。
キャンプしてる時もトレーニングはしていたが、やはりじっくりしてやるのとは違う。
周囲の見張りをしながらする素振りはそれ全体的に意識を向けることはできない。
愛剣を両手で握って、頭の上からしっかりと力が逃げないように意識しながら振り下ろす。
腕だけではなくしっかり足も付いてくるように…。
そういえば俺は昔からそれなりに物事は続く方だった。
逆に妹はあまり続かず、どちらかといえば飽き性だった。
エイルーナやミシェイルは飽き性じゃないと思うが、レイスは妹と同じな感じか?
こちらに歩いてくる気配を感じる。
素振りを止めてそちらへ体を向ける。
「邪魔したか?」
「いえ、どうかしましたか?」
気がつけば汗をびっしょりかいている事に気がついた。
まだ1時間も経っていないと思うが……。
「レオもルーナも凄いな、剣への姿勢が私達とは違う…」
「姿勢…ですか…」
私達とはレイスも含めるのだろうか?
しかし姿勢とは…側から見たら俺達はどう見えているという事なのか…。
「私達…いや、少なくとも私とは違う!レオ達には目指している形があるのだろう…、ただ漠然と強くなろうと修行している私とは違った明確な目標があるように見える」
そうか…それならあるな。
しかも俺もエイルーナも同じ目標を立てているだろう。
前世でもそう言われていたが、やはり目標があるとないでは変わってくるのだろうか?
少なくとも俺は始まりこそ家の為にとりあえず剣士を目指すか…って感じだった。
まぁ異世界に来たら剣もやるよね〜みたいな軽い気持ちだったのも否定しない。
でも気が付いたらそれは日課になっていた。
多分何かと助けてくれるクリスがカッコよく見えた。
ミシェイルを守ろうと思って力が欲しいと思った。
身近な力の象徴が剣聖であるクリスだった。
俺はエイルーナほど明確ではないが無意識にクリスを目で追って憧れていたのかもしれない。
でもやっぱり魔法使いにも憧れているけどね…。
「俺もエイルーナも、目指すのは母、クリスですから……、それに俺は剣聖の名を継ぐって目標もあるので」
その為にはもっと学校でもっと魔法を勉強して、色んな刺激を受けて一回り強く大きくなる。
そしてクリスを見つけて、しっかり剣聖を受け継がせてもらわないといけない。
「…私ももっと強くならないとな」
ミシェイルのそんな呟きにはあえて触れない。
自分できっと実力不足だと感じているのだろう。
こんな時「そんな事ないよ」って言うのは簡単だ。
そもそもこのパーティで唯一の治癒魔法を使えるミシェイルが、足手纏いだとかそんな事を思ってる奴はいない。
寧ろミシェイルがいるから俺たちだけでの旅が成り立つのだ。
だから本心で優しい言葉をかける事は出来るだろう。
嘘偽りない言葉を使うことが出来る。
でも彼女はそれを望んでいないだろう。
自分に厳しく出来る誇り高い女の子だからな。
「そうだ!明日武具を買いに行くの付き合ってくれないか?」
「えっ?」
急に話題転換があって俺は驚きの表情だろう。
「今後の為にも装備は必要だろう?」
「いや、でも俺も良い悪いの目利きとかわからないですよ?」
これってあれだよな?
間違いなくあれだよな?
「私よりマシだろう?それとも何か用があるのか?」
「い、…いえ、無いですけど…」
「じゃあ決まりだ!」
ミシェイルは嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべてそう口にする。
「じゃあ昼ごろ宿の前に!」
そう言うとミシェイルは宿の中に戻っていった。
素振りを再開する。
これってあれだよな?
やっぱりあれだよな?
デートのお誘いだよな?
なんか俺のイメージしてたフワフワしたデートのイメージとは違うけど、確かにデートに誘われたよな?
なんだこれ…なんか緊張する。
あれ?オシャレしなくちゃいけないよな?
でもこの世界のオシャレって何?
昼ごろって事は夕食は?
なんか店とか探した方がいいの?
前世でもそんな…デートなんてした事はないのだ。
つまり俺の…2度の人生の中で初のデートなのか…。
いやいやいやいや、本当にデートか?
「…聞こえてます?」
「…うわっ!」
ひたすら考え事に熱中しながら剣を振っていたら、近くに来たエイルーナに気付かなかった。
思わず少し跳ねるようなリアクションをしてしまった。
「…剣先…ブレブレですよ?」
エイルーナに指摘された。
集中してるつもりが全く別の事ばっかり考えていた俺の剣筋は、当然のごとくブレている。
「あ、ああ…悪い…」
「は、はぁ…?…別に謝る必要ありませんが…」
そう言って首を傾げた後、エイルーナは別方向を向いて、俺と同じように素振りを始める。
基本的な型はお互い同じだ。
ドレイクからクリスに、クリスから俺たちに…受け継がれている型。
勿論振り続ければ同じ型でも個人差が出てくる。
自分の体格に合った動きで振るようになる。
俺は魔法の影響もあって片手で扱う事が多いので、エイルーナ曰く守備的な動きで、剣は速いが軽いらしい。
逆にエイルーナは上段の構えから変わらない。
まさに猪突猛進、烈火の如く攻める。
剣は勿論速いし、何より重い。
同じ型からでもこれだけ差が出るのだ…。
「…どこか違和感があります?」
俺がエイルーナをじっと見ていたので、素振りをを止めてこちらに問いかけてくる。
元々お互いに、素振りも意見を出し合う事が多い…いや、基本俺が意見を貰ってる。
力がうまく伝わってなさそうな気がしたりしたら遠慮なくお互い口にするようにしている。
「あ、いや…大丈夫!」
エイルーナはそれを聞くと再び剣に集中して素振りを再開する。
乱れていた俺の精神もエイルーナの剣を振るする姿を見てなんとなく落ち着いた。
俺も剣を集中して振り始める。
とりあえず頭を切り替えるのだ!明日の事は夜にでも悩もう!




