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四章8〜“3度目の町”

 

 俺達が警戒しているおかげか…特にこれといったイベントは起きなかった。

 なんとなく森を抜け、演習通りの野営をして、食事を取って交代で眠った。

 起きてから馬に跨って再度西へ進む。


 遠目にだが建物らしきものが見えてくる。


「ペルロだね…」


 先頭のレイスが速度を落とす。

 それに並ぶように皆が速度を落とす。

 特別大きな建物があったわけではないし、これといって目印になる建物があった訳でもない。

 だが、昼夜問わず明るく騒がしい町だった。

 あの夜の悪夢さえなければ今も…。


「…レオ?」


 ミシェイルが俺の前に移動して、顔を覗き込んでいた。


「具合が悪いか?休むか?」

「いえ…大丈夫です…」


 俺にとっては良い記憶が無い町だ。

 しっかり思い出せば勿論良い記憶があるのは間違いないのだが、この遠目からの風景は特に居ないはずのその影を想像してしまう。

 そしてそこに残る人の背中も…。


 ミシェイルとレイスは少し心配そう…というか気まずそうな顔をしている。

 エイルーナはといえば、無表情である。


「なぁ…1つ予定変更していいか?」

「…何?」


 俺の呟くような言葉をしっかり拾ったレイスが答える。


「ペルロに行きたい…、危険の可能性も理解した上で…」


 ペルロの跡地にも魔物が住み着いた可能性があるという噂があった。

 だから当初の予定はペルロには近付かずに、目印にだけして北上する。

 そもそも経由する必要なんてないのだ。

 つまり俺は無駄な時間を取ろうと…。

 そういう提案をしている。

 それも自分勝手な都合だ。

 あの町で少し調べたいと思った。


「俺はいいよ、急ぐ旅じゃないしね」

「私も同意見だ」

「そう言うだろうなと思ってました」


 誰一人否定はしなかった。


「ありがとう…」


 ただ一言そう伝えてペルロに向かった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 あの明るく騒がしい町は嘘のように静かだった。


 建物は吹き飛んだ形跡があり、雨風にさらされ劣化している。


 前世で見たニュースの震災の爪痕ってこんな感じだったな、そう思い出す風景だ。

 何かの衝撃を受けてかクレーターも確認できる。

 そんな町中を俺達は馬に乗ってゆっくり進む。


「…無残なもんだね、美しいとは言わないけど嫌いじゃない町だったんだけどなぁ」


 無残か…本当にその一言が合う。


「ここに居た人々は…どうなったのだろうな…」


 一部アストラル領に流れてきた者も知っている。

 ただ冒険者などの旅人が多かった町なので根付く者はほとんどいなかった。


「とりあえず分かれて調べよっか?探し物でしょう?」


 レイスは俺の意図を理解していた。

 俺はこの町に探し物をしに来た。

 しかし、その探し物が見つかって欲しく無いと言うのが本音だ。


「そうだな…じゃあ…、エイルーナ…見ればわかるよな?」

「勿論です」


 少し厳しい目で睨まれた。


「じゃあレイス、こっち付いて来てくれ」

「えー…男同士ぃ〜?」


 そんな文句を言うレイスを無視して移動する。

 エイルーナもミシェイルを連れて逆側に進んでいった。


 崩れた木材や石材、色々な物が転がっている中で探すには少し骨が折れることだが…。


「…わかってると思うけど、ある確率は本当に少ないと思うよ?」

「わかってる…無い方がいいんだ…」


 そうだ。

 もしこの場所にあったとしても、すでに誰かが回収している可能性は高い。

 いくら危険の可能性がある場所とはいえ、5年間常に無人なんて事はないだろう。


 仮に俺の探し物があったのなら誰かが持ち去り、そして売るならなんなりしている可能性がある。

 だから無駄だとわかっている。

 それでもやっておきたかった。

 口にも顔にも出さないが、きっとエイルーナも同じなんだと思う。

 レイスも俺の姿を見て観念したようだった。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 気が付けば日が暮れ始めていた。

 俺もあらかた探し終えた。


 俺の探し物は愚か、使えそうな物はほとんどなかった。

 つまりは誰かがすでに回収済みなのだろう。


 わかっていたとはいえ、自分の目で確認出来た事で少しホッとしているのがわかった。


 エイルーナと目が合う。

 彼女は相変わらず冷たい目をしていて、何を考えているのかはわからなかった。


「付き合わせてごめん」


 全員が集まったところで俺は頭を下げる。

 レイスやミシェイルからすれば、本当になんの意味もない時間だろう。


「気にする必要はない」

「別にいいけど話は後にしようか…俺も気付くの遅れた」


 レイスの言葉に俺も含め誰も理解が追いつかなかった。


「いいから来て!」


 レイスがそう言って馬を走らせる。

 タイミング悪く陽が沈み、太陽の光を遮り暗闇を作り出す。

 土のマナを収束させてマナの渦を作り出す。

 マナが塊を成していけばそれは人の形に形成されていく。


「そういう事かよ!」


 俺もレイスの後を追い掛ける。

 後ろからミシェイルとエイルーナも付いてきている。

 形成されたのは土で作られた泥人形のようだったが、中には確かに骨が見える。


 周囲に、後ろに前に次々と泥人形は現れる。

 個体によっては人間らしきものの潰れた顔があった。

 その肉は腐り、爛れている。

 皮も肉もないその頭は白骨化した頭蓋骨があった。


 こいつらに固有名称はない。

 それは死した人の骨を触媒にして、マナを飲み込んだ骨が土を操って蘇る。

 ツノがないから魔物として扱われることは無い。

 だが、こいつらマナを求めて生き物を襲う。

 確かそんな感じだ。

 アンデットって言えばいいみたいな存在。


 ゾンビに近いなと思ったが、そんな可愛いものではなかった。

 馬に追いつかんとするスピードで走って追いかけてきた。


「レオか、ルーナちゃん前に!とりあえず真っ直ぐ!」

「エイルーナ後ろ任せる!」

「はい!」


 レイスの言葉を聞いてすぐに返事を返す。

 レイス、俺、ミシェイル、エイルーナって感じで走っていたので、俺が先頭に出る方がいいと判断した。

 俺は速度を上げてレイスの前に出る。

 視界が非常に悪い。

 剣を抜いて左手に持ち、右手で手綱を握る。

 だが、視界が悪いからと手加減してくれるわけではない。

 暗闇から突如現れるような感覚。

 泥人形が飛びついてきたのだ。

 咄嗟ではあったが体は反射的に動き、泥人形の頭を貫いた。

 その感覚は非常に柔らかだった。

 潰れるように土を撒き散らして粉々になる。


 その後も同じように闇に紛れては飛び出してくる泥人形を迎撃する。

 この硬度で走ったり跳んだり出来るのが不思議だと感じるが、そんな疑問に構ってはいられない。


 暗闇に目が慣れて来ていても、それでも視界良好とはいかないので、殆ど反応を頼りに迎撃する。


 別に問題はなかったが、何か違和感を感じた。

 振り向けば静寂の闇。

 俺はまたしても逸れた。


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