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四章9〜“暗闇を抜けて”

 光の閉ざされた空間とは人の不安を煽る。

 闇に包まれた空間は恐怖を増幅させる。

 視界は悪い、周囲は敵に囲まれている。

 仲間は…いない。


「くそッ…」


 それでも泥人形の気配が近付いてくる。

 もし仲間達に何かあったのなら引き返すべきだろう。

 またもや選択肢だ。

 戻るか留まるか、それとも先に進んで待つか…。

 そんな思考中も泥人形は御構い無しに飛びついてくる。


 まぁ当たり前だ。

 襲っても良いですか?なんて聞かれても困る。

 そんな事を聞かれても答えはNOに決まっているのだから。


 飛び付いてくる泥人形を剣で薙ぎ払いながら考える。


 コイツらは弱いから大丈夫?

 この視界でなければそう言い切れる。

 だがこの視界の悪さは…。

 一瞬の隙が、油断が取り返しのつかない事になるかもしれない。


 決めた。

 引き返そう。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 〜レイス視点〜



 やらかしたぁ〜…。

 レオを先頭に送り出した後だった。

 レオと方向を確認しながら、後方の2人が付いてきている事の確認。

 そんな事に意識を持って行って油断した。


 横から飛び付いてきた泥人形に気付くのが遅れた。

 避けようと体を反らしたが回避は叶わず、そのまま馬から突き落とされてしまう。

 勿論泥人形も上から乗りかかる様に俺の動きを封じる。


 突き落とされた時に短剣を腰から引き抜いていた。

 自分の肩を押さえつける様に体重をかける泥人形の腕を斬りつける。


 軽い…。

 軽すぎるね。


 バランスを崩して転がる様に倒れる泥人形には目もくれない。


 馬はそのまま別方向に走っていく。

 やらかしたね。

 すぐに後方の2人が俺を発見する。


「レイス様!…ミシェイル様はレイス様を!」


 すぐに状況を判断したルーナちゃんが馬を追っていく。

 優秀な娘だなホント!

 ミシェイルちゃんは馬に乗ったまま目の前で止まる。


「怪我はないか?」

「大丈夫だよぉ〜!ただ矢がねぇ…」


 レオやルーナちゃん、さらにはミシェイルちゃんも剣の修行をしていたけど、俺だって何もしてなかったわけじゃない。

 魔法もしっかり磨いたつもりだけど、それよりも弓を鍛えた。


 理由はある。

 レオみたいに魔法があるわけじゃない。

 ルーナちゃんみたいに才能に溢れてるわけじゃない。

 ミシェイルちゃんみたいに勇敢でもない俺は、離れて戦える方がいい気がしたから弓を選んだ。

 そして多分才能はあった。

 元々五感は優れてたし、器用なのもあったのかもしれない。


 でもいざとなったら矢を馬に持たせたまま落馬なんてね…。


「落馬だぞ?怪我が無いなんて…」

「そんな場合じゃないよ?支障が出るわけじゃないから後回しでヨロシク!」


 すぐに立ち上がって短剣を握る。

 ミシェイルちゃんも理解したようで剣と盾を構えた。


 左手にマナを集める。

 掌に収束させていつでも放射出来るようにする。

 襲い掛かってくる泥人形は不安定な体とは感じさせない速さ。

 それでもレオ…いやミシェイルちゃんより速いくらいかな?


 さっきの感覚が正しいなら多分俺でも接近戦で戦えるはず…。

 飛び付いてくる泥人形の腕を掻い潜りながら短剣を振る。

 やはり軽い…硬度がほとんどないんだね。


 振り向きながら手に収束していたマナを頭に向かってマナの塊を放出する。

 泥人形の頭を簡単に吹き飛ばす。


 どんどん気配が増えてる気がする。

 ミシェイルちゃんも盾で攻撃をいなしながら、細剣で泥人形を貫く。

 そのまま横薙ぎに払って泥人形を倒している。


 うん、どっちかと言えばサポート寄りの2人だもんね。

 仕方ないね!


「ミシェイルちゃん!走らせて!強引にでも抜けよう!」


 ミシェイルちゃんがそれを聞くと俺に手を伸ばした。

 その手を握ると引き寄せられる。

 細い手だとか思ったけど、見た目より力あるねこの子は…、俺よりありそう…。


 そんな俺たちを囲む泥人形の包囲の外からレオが突っ込んで来た。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 引き返すと決めた。

 馬を走らせる。


 泥人形が俺に背中を向けている。

 つまり泥人形の背後から俺は攻撃を仕掛けることが出来る。


「頼むぞ、俺を信じてくれよ」


 そう馬に声をかける。


 通行ルートの泥人形達を斬り払い、馬の脚で押し退けて進む。

 最初は躊躇した馬も、一度こなせば泥人形を踏み倒す事に躊躇しなくなる。

 この先には仲間がいるのがわかっている。

 じゃなきゃ泥人形は俺に向いているはずだ。


 数体蹴散らした所で人混みならぬ泥人形混みを抜けた。

 そこには暗い中でもなんとか視認できる馬に乗った2人。


「レイス!方向は?」

「そのまま真後ろ!」


 無茶させるなホントに、後でいい人参探してやるからな!

 そんな事を思いながら手綱を引いて180度方向転換する。


「俺の真後ろに貼り付けよ!」


 そう声を上げて、再び泥人形の集まる中に飛び込んで行く。

 今度は入る時のようにはいかない。

 泥人形はしっかり飛び付いてくる。


 奴ら体は脆いくせに力は強く動きも速い。

 あの脆さでなんでそんな事が…なんて思うがそんな事ファンタジー世界で考えるのは無駄なことだ。


 右から泥人形が飛びついてくる。

 バランスを崩さないように意識しながら右手を手綱から離す。


「インパクトッ!」


 拳を握ってマナを集める。

 集めたマナを収束したまま拳で泥人形を殴りつける。

 衝撃を受けた泥人形は土を撒き散らしながらバラバラになる。

 遅れて左から飛び付いてくる泥人形に、剣を突き出す。

 剣先が触れた感覚が手に伝わると同時に剣を振り抜く。

 飛び付いてくる泥人形は、自らの勢いで剣に貫かれ、そのまま剣を振り切られる事により体を維持できなくなる。


 この泥人形は一定以上の破損があると、機能を失い土に還る。

 触媒となる骨と共に。

 それを数回繰り返すと、包囲を抜けた。


「レオ!ルーナが」

「エイルーナがどうした?」


 泥人形の包囲を抜けてすぐに横に追い付いてきたミシェイルが、呼び止めてくる。


「俺の馬を追いかけて逸れたんだ、途中で見てたりしてないよね?」


 ミシェイルの後ろのレイスがさらに補足する。


「見てないな…」


 次はエイルーナか…。

 そう思ったが、焦りは無かった。

 あのレベルの敵ならエイルーナなら余裕だろう。

 そう思ったが、泥人形だけとは限らないし、この暗闇の中だとやはり何があるかわからない。


 探しに戻るか?

 だがこっちもこっちで不安だ。

 レイスとミシェイル、戦闘力だけで見るならこの2人が揃ってもエイルーナ1人の方が遥かに強い。

 また判断が難しい。

 全員で探しに戻るのが無難か…。


「怪我はありませんか?」


 そんな事を考えてた俺たちの後ろから気配を感じた。

 馬の足音も聞こえてくる。

 視認できる距離の少し手前でこちらに確認の声が聞こえてくる。


「ルーナ!よかった…」

「おかえりルーナちゃん!」


 エイルーナはレイスの馬も引っ張って帰ってきた。

 いらない心配だったようだ。


「怪我は?」

「あると思いますか?」

「いいや…」


 余裕だったらしい。

 まぁもしかしたら襲われてないのかも知れないけどね!





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