生まれたときの話。
ばあやが寝たきりになって、4ヶ月がたった。
そのおかげと言っては何だが、料理や掃除、今までしてもらっていたことが自然と自分でしなければいけなくなってしまい、割とできるようになった、まだばあやには敵わないけれど。
そんなことを考えながら、ばあやが眠っている部屋の扉を開ける。
「ばあや、朝ごはんのリンゴとミルクだよ。」
「ありがとう、ごめんね。」
「別にいい。今までしてもらってたし。」
「そうかい。そうだリナ、言わなきゃいけない事がある。」
食べかけていたリンゴをテーブルの上に置く。
ばあやの顔を見ると、今までにないくらい真剣な表情な気がする。
「どうしたの?」
ばあやは一旦一息つき、口を開いた。
「あなたが生まれたときの話をするわ。あなたが生まれたときに――」
そこから私が生まれたときの初めて打った魔術のこと。
おそらく族長が企んでいることがある。
実験の様子や魔術の成長具合を族長に報告する義務があったこと。
――ということなの。黙っていてごめんなさい。」
「そうだったんだ。」
「驚いた?」
「うーん、特に何も感じないかも。」
「なら良かったわ。言えずに死んだりしたら怖いもの。あと最後に、この森のことが冷たい場所だと感じたなら、この森を出ていって自由気ままに生活してみるのもいいんじゃない?あなたなら森の外でもうまくやっていけるだろうし、いろいろなものに触れることで魔術の幅が広がるみたいなこともあるかもしれないわね。でも、この森でずっと暮らしていくっていうのもいいんじゃないかしらね。あなたの人生だもん自由にしなさい。」
なぜこんな話をしたのかわかった。
――もうお別れが近い。
「ばあやは、死ぬの怖くないの?」
「死ぬのは怖くないわ。だって大好きなあの人が先に待ってくれているの。あなたを残して死んでしまうっていうのはもちろんさみしいけれど、きっと死んだあとの世界も幸せだと思うから。」
「私はそうは思わない。死ぬっていうのはもう研究とか好きなこととかできなくなるし、ちーと私をおいていくのはさみしくない?」
「それはね、怖いしさみしい。でも期待もしているの、あなたがこの世界をどう生きるのか。ただあなたは将来大きいことを成し遂げる。それがあなた個人だけの成果だとしても私は見ている、生きていたら体が動かせなくなって実験成果を見られないでしょ?それに足枷にもなりたくないの。」
少し目をうるうるさせながら、話すばあや。
死というのは自然界では当たり前の事象だ。
誰かの死でこの世界は成り立っている。
だから、今頃身近な人の死でどうこう思わないはず。
なぜか胸がムズムズする。
ジェイルが死んだときと同じ。
よくわからない。
もやもやするときは魔術の実験をしよう。
「魔術の実験をしてくるね。」
そう言いながら、ばあやの方を見る。
優しい目で、こちらを微笑んでいる。
少しだけ居心地が悪かったので、早足で部屋をでて、自分の部屋に戻った。




