さよならばあや
コンコンとドアを叩き、部屋へ入る。
「ばあや、おはよう。」
――返事がない。
もしやと思い、顔を見る。
少し微笑んでいる気がした。
「幸せそう。」
布団を一旦どかし、少し窓を開けた。
部屋を出て、火を燃やす準備をする。
火葬?というもので人を神様のもとへ送るそう。
骨を埋めて墓を作る。
この行為になんの意味があるのか。
では解剖の実験にするのはどうだろうか。いや、なぜかそれは気が進まない。
墓を作ってこの心のモヤモヤがはれるなら、それでいい。
とりあえず、ばあやを外に運び出す。
火をつけ、その中にばあやを入れる。
パチパチ音を立てながら、燃え盛る火をみて、私は何を考えているのだろうか。
少しだけ何も考えない独白。
そして、燃えた体、少しだけ灰とすすがついた骨の形を見て、ばあやとの思い出が巡る。
思い出したのは最近のこと。
「リナお誕生日おめでとう。」
本をくれた。
最近は外の世界に興味を持ってほしいのか、恋愛小説や旅をする小説など主人公が誰かに連れ出してもらったり使命を持ってたびに出る小説など。
「本は高いからいらないよ。」
そう伝えた。
「いいのよ高くても、価値観が少しでも変わる体験をしてみてほしいの。それに私が小さい頃小説ばかり読んでいたの?それで色々自分なりに夢を見たり、いろんな努力をしてみたりね、読書には、価値観を変える力があると思っているの。」
そう言いながら笑ったばあや。
今のこの感情も、もらった小説に書いてあるの?
わからない。
心のなかがぐるぐるしながら、墓を作る。
ジェイルのお墓のとなりにつくった。
ありがとうって言った。
今のこの気持ちがわかりませんとも言った。
ジェイルと旦那さんと元気にしててくださいって言った。
いきなりのお別れでひどいとも言った。
それでもまたありがとうって言った。
ふわっと、優しい風が吹き、前髪が揺れる。
ちーといっしょに家に入り、なんのやる気も起きないのでベッドに入った、気がつくと次の日。
しばらくそんな毎日だった。生まれて初めて研究をする気になれなかった。
朝目覚め、朝食の生野菜をかじる。
ベッドがある私の部屋に戻る途中に、なんの気なしに今まで買ってもらった小説の棚に手を伸ばした。
ある冒険小説。
1ページ1ページ、ゆっくりと読み進める。
「あっ」
ある場面、主人公の幼馴染が、敵に殺されてしまった。
そこから主人公は、さみしくて、悔しくて、毎晩泣いている。
それでも毎朝早くに起き、敵を取るために日々訓練に励んでいる。
そんな描写。
『すごいなぁ。』
なぜかそう思った。
ばあやが死んでから、なんの行動も起こせない自分の逆だ。
本を読み始めて、気付いたらもう日が沈んでいる。
どうして主人公は、こんなに頑張れるの?
私はどうして何も行動する気にもなれない。
心にポッカリと穴が空いているみたい。
わからない。
何もわからない。
「もう一回読めばわかるかな?」
一旦本を閉じた。
もう一度最初から。
一旦本を閉じた。
もう一度最初から。
何回読み直したかわからない。
本をもう一度開く。
数ページ、水のシミがついている。
私、泣いてたのか。
生理的に流す涙じゃなく感情で?
じゃあどういう感情?
これは何?
そこである会話を思い出した。
「でも、さみしくさせてしまうと思って『愛』を知り始めたあなたなら一人でやっていけるのだろうけど、リナの成長を最後まで見届けられないことが悔しいの。さみしいの。」
「さみしい?」
「じきにわかるわ。」
今ばあやがいなくなって私はさみしいのかな。
しっくり来た。
私はさみしいのだろう。
そして怖い。
チーがいなくなるのが怖い。
一人になるのが怖い。
私を一人にしてほしくない、それは自然界には全く必要性のないエゴだ。
わがままなエゴが人間だ、居場所に名声に金に地位にすがりつく、そんなもの自然界で必要性はまったくない。
今初めて、人と動物の区別がついた気がした。
そして自分が次にやりたい実験も決まった。
実はばあやにもこの魔術があれば、助かるんじゃないかと思った。
でも、いろいろな影響を考えてやめた魔術。
今は違う。自分のわがままでそれを実現させる。




