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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第二章 日常
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第四話 訓練場

白い花びらが風に舞う中庭をあとにし、僕たちは次の場所へ向かっていた。


「次は訓練場だ。」


エインが前を歩きながら言った。


「昔のお前なら、一番長い時間を過ごしていた場所だ。」


「そうなんだ。」


「あぁ。それに昔のお前は俺より強かったぞ。」


「え?」


「何回ぶっ飛ばされたか。」


「僕が……?」


「安心しろ。本気で挑んだ勝負だ。別に恨んだりしねぇよ。」


エインは笑って言った。

僕が、エインより……?

エインは気さくで陽気だけど、教官を務めるほどの実力者だ。

そんな人より僕が強かっただなんて、とても信じられなかった。


「着いたぞ。」


エインが足を止める。

目の前には、広々とした訓練場が広がっていた。

隊員たちは乾いた音を響かせながら、木剣を打ち合わせている。

砂を蹴る音。

飛び交う掛け声。

誰もが真剣な顔で剣を振るっていた。


「……すごい。」


思わず息を呑む。

その奥では、青白い光が弾けた。

振り向くと、今度は魔法を放つ隊員たちの姿が目に入る。

炎が舞い、風が駆け抜け、水の魔法が的を撃ち抜いていた。


「剣だけじゃないんだ。」


「当然だ。」


エインが隣で腕を組む。


「黎明の翼(アルバ)には剣士も魔法使いも弓使いもいる。戦い方は違っても、全員が仲間だ。」


気づけば、訓練をする隊員をじっと見つめていた。

隣にいたセレナが心配そうにこちらを見上げる。


「立ちっぱなしですが、大丈夫ですか?」


「あ、ごめん。つい見入っちゃって。」


セレナは苦笑を浮かべた。


「興味を持っていただけるのは嬉しいですが、無理は禁物ですよ。」


「うん。」


その時だった。


「違う!」


乾いた音の中から叱責が聞こえた。

声の方を見ると、そこには他とは異なる雰囲気のある男性が木剣を構えていた。


「そんな剣じゃ死ぬぞ。」


男性の相手の隊員は若く、新人のように見える。

隊員が息を切らしながら、木剣を構え直す。


「もう一度打ってこい。」


「はい!」


新人は男性に向けて剣を振るった。


ガンッ!


一際大きな音が鳴る。

それと同時に、何かがこちらに飛んできた。


「ノエルさん、危ない!」


反射的に腕が動いた。

気付けば手の中に、木剣が収まっていた。


「……え?」


自分でも何をしたか分からない。

ただ、体が勝手に動いていた。


「大丈夫ですか!?」


「うん、平気。」


心配するセレナをよそに、エインはどこか嬉しそうにしている。


「体は覚えてるみてぇだな。」


体は覚えている、か。

自然と木剣を握る手に力が入った。


「……休憩だ。」


その光景を見ていた男性が、こちらに近づいてきた。

茶色の髪に長身の男性。

何よりこちらを見つめる目が怖い。


「……起きたのか。」


「えっと……」


少し返答に困っていると、エインが間に入った。


「おいおい、初日からそう睨むな。」


「エイン教官。」


男性はそう呼ぶと、もう一度視線を僕に向けた。


「……本当に覚えてねぇのか。」


「ご、ごめん。」


そう答えるしかなかった。

しばらく沈黙が流れる。

やがて男性は小さく息を吐いた。


「そうか。」


その声に怒りはなかった。

けれど、どこか割り切れないものを押し殺しているようにも聞こえた。


「紹介しとく。」


エインが男性の隣へ移動する。


「こいつはクロウ・ヴェルナー。戦闘部隊隊長だ。」


クロウは僕を見据える。


「クロウだ。よろしく……とは言わねぇ。」


するとクロウが一歩前に出る。


「記憶喪失だろうが関係ねぇ。俺が見るのは、お前がこれから何をするかだ。」


「……分かった。」


エインが苦笑しながら、クロウの肩を叩く。


「お前なぁ、もうちょい言い方ってもんがあるだろ。」


「必要ねぇ。」


クロウは視線を外して、つまらなそうな表情を見せる。


「実力は言葉より分かりやすい。」


「はいはい。」


エインはやれやれと肩をすくめた。


「……それ。」


クロウが僕が持っていた木剣を指さす。


「あ、ごめん。」


木剣を返そうとすると、クロウが一瞬だけ動きを止めた。


「あの?」


するとエインがニヤッと笑った。


「気づいたか。」


「あぁ。構えまで残ってやがる。」


その言葉に小首を傾げているうちに、クロウは木剣を受け取った。


「休憩は終わりだ。」


クロウは新人へ向き直る。


「続きをやるぞ。」


「は、はい!」


クロウは木剣を構え、訓練へと戻っていった。


「あいつ、あれで面倒見はいいんだ。」


エインが嬉しそうに笑う。


「昔のお前にも、散々食らいついてた。」


「そうなんだ。」


僕は小さく息を吐く。


「……なんだか、少し悔しいな。」


自然と手に力がこもっていた。


僕はもう一度、訓練場を見渡した。

乾いた剣戟(けんげき)の音。

飛び交う掛け声。

どれも知らないはずなのに、どこか懐かしい。

記憶は戻らない。

それでも、この場所には確かに僕がいた。

そう思えた。

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