第二話 どっちがいい?
焼き菓子を食べ終えてからも、僕たちはベルフォードの街を歩き続けていた。
シャロは気になる店を見つけるたびに足を止めては、楽しそうに中を覗き込んでいる。
「お前、さっきから元気だな。」
「だって、せっかく遊びに来たんだよ?」
「それはそうだが……」
「ノエルお兄ちゃんももっと楽しもうよ!」
「楽しんでるよ。」
「ほんと?」
「うん。知らないものがいっぱいあるから。」
そう答えながら、通りに並ぶ店へ視線を向ける。
食べ物を売る店。
衣服を並べた店。
見たことのない道具を扱っている店もある。
どれも、前に来たときには気にも留めていなかったものばかりだった。
「あっ!」
突然、シャロが声を上げる。
「今度は何?」
「あそこ!」
「また食いもんか?」
「違うよ!」
シャロが指さした先には、小さな店があった。
店先には髪飾りや首飾り、小さな装飾品がいくつも並べられている。
その前に、一人の女性が立っていた。
赤い髪。
どこかで見たことのある後ろ姿だった。
「……アリス?」
僕が名前を口にすると、その女性が振り返る。
「ん?」
目が合った。
「……ノエル?」
アリスは驚いたように目を丸くする。
「シャロに、エインまで!何してるの?」
「遊びに来たの!」
「へえー。珍しい組み合わせだね。」
アリスはそう言って笑う。
「アリスは何してるの?」
「私?私は──」
そう言いかけて、アリスが一瞬だけ固まった。
その手には、二つの髪飾りが握られている。
「……買い物。」
「髪飾り?」
「そう。新しいの欲しいなーって思ってたんだけど……」
アリスは両手の髪飾りを見比べる。
「どっちにしようか迷っててさ。」
アリスが両手を僕たちの方へ差し出す。
片方は、小さな青い石があしらわれた髪飾り。
もう片方は、白い花を模した髪飾りだった。
「どっちも可愛いよ!」
シャロがすぐに声を上げる。
「でしょ?だから迷ってるの!」
「じゃあ両方買えばいいじゃん!」
「それができたら迷ってないって。」
アリスは苦笑すると、二つの髪飾りをもう一度見比べる。
「そうだ。せっかくだし、みんなにも選んでもらおうかな。」
「僕たちが?」
「うん!どっちが私に似合うと思う?」
「私はこっち!」
「即答!?」
シャロが指さしたのは白い花の髪飾りだった。
「だってお花可愛いもん!」
「ノエルは?」
「僕?」
「うん。どっちがいいと思う?」
「えっと……」
改めて二つの髪飾りを見る。
白い花も似合いそうだけど──
「僕は、こっちかな。」
青い石の髪飾りを指さす。
「お、ノエルはこっち?」
「うん。」
「どうして?」
「どうしてって……」
アリスの赤い髪と、青い石を見比べる。
「こっちの方が、アリスの髪に合いそうだから。」
「へえー。」
「……何?」
「いや、ちゃんと考えてくれたんだなって。」
「だって、どっちが似合うか聞かれたから。」
「それはそうなんだけどさ。」
アリスはどこか嬉しそうに笑った。
「じゃあ、エインは?」
「俺もか?」
「もちろん。」
「そうだな……」
エインは二つの髪飾りを見比べる。
「俺も青い方だな。」
「エインも?」
「ああ。白も悪くねぇけど、赤い髪なら青の方が映えるだろ。」
「……へえ。」
「なんだよ。」
「いや、意外とちゃんとした答えが返ってきたなーって。」
「お前、俺をなんだと思ってんだよ。」
「だって、こういうの興味なさそうだし。」
「興味あるなしと、似合うかどうかは別だろ。」
「……なんか慣れてない?」
「何がだよ。」
「こういうの選ぶの。」
「別に普通だろ。」
「ふーん……」
「なんだよ、その目。」
「なんでもなーい。」
そう言うアリスの口角は少し上がっていた。
「じゃあ、青が二票で白が一票だね!」
「多数決だったの?」
「違うの?」
「別に多数決で決めるとは言ってないけど……」
アリスはしばらく二つを見比べると、青い石の髪飾りを持ち上げた。
「……よし。じゃあ、こっちにしようかな。」
「青にするの?」
「うん。二人も似合うって言ってくれたしね。」
「私は白だったのに!」
「シャロの意見もちゃんと聞いたって!」
「ほんと?」
「ほんとほんと。」
アリスは商人と少し話した後、青い石の髪飾りを購入した。
「よし!」
髪飾りを受け取ったアリスは、さっそく自分の髪へ手を伸ばす。
「今つけるの?」
「せっかく買ったんだし、つけないともったいないでしょ?」
手慣れた様子で髪飾りをつけると、アリスが僕たちの方へ振り返った。
赤い髪の中で、小さな青い石がきらりと光る。
「どう?」
「可愛い!」
シャロが真っ先に答える。
「さっきは白がいいって言ってなかった?」
「青も可愛いもん!」
「結局どっちも可愛いんじゃん。」
「だって本当にどっちも可愛いんだもん!」
アリスは楽しそうに笑う。
「ノエルは?」
「僕?」
「ノエルがこっち選んだんでしょ?」
改めてアリスを見る。
赤い髪に、青い石がよく映えていた。
「うん。似合ってると思う。」
「ほんと?」
「うん。」
「そっか。」
アリスは嬉しそうに髪飾りへ触れた。
「エインは?」
「似合ってんじゃねぇか?」
「それだけ?」
「おっさんの感想なんていらないだろ?」
「それもそうだね。」
「おい、少しは否定してくれよ。」
「ふふっ。」
思わず笑ってしまう。
「ノエルまで笑うな。」
「ごめん。でも、楽しそうだなって。」
「こんにゃろ。」
「ごめんごめん。」
エインが僕の髪をぐしゃぐしゃと雑に撫でた。
「そういえば、三人はこのあとどうするの?」
「特に決めてねぇな。」
「そうなの?」
「ノエルを休ませるのが目的だからな。」
「え? 何それ。」
「最近ずっと訓練ばっかりなんだよ、こいつ。」
「へえー……」
アリスが僕を見る。
「ノエルって、結構頑張り屋さんなんだね。」
「そうかな?」
アリスは少し考えた後、小さく笑った。
「じゃあ、私も一緒に行っていい?」
「いいよ!」
「即答かよ。」
「いいでしょ?」
シャロがエインを見る。
「別に構わねぇよ。」
「やった!」
「じゃあ決まりだね!」
アリスも嬉しそうに笑う。
「ちなみに、どこに行くか決まってるの?」
「決まってないよ!」
「そこは元気よく言うところなの?」
「だって本当に決まってないもん!」
「まあ、ノエルを休ませられりゃ何でもいいからな。」
「なるほどねー。」
アリスは少し考えるように辺りを見回す。
「だったら、私が案内しようか?」
「アリスが?」
「うん。私、ベルフォードにはよく来るし。」
「いいの?」
「もちろん!ちょうど買い物も終わったところだしね。」
「やった!」
「シャロが一番喜んでる。」
「だって楽しそうなんだもん!」
「じゃあ決まり!」
アリスはそう言うと、僕たちの前へ歩き出す。
「ほら、三人とも行くよ!」
「アリス、どこに行くの?」
「それは着いてからのお楽しみ!」
アリスが歩くたび、新しく買った髪飾りが小さく揺れる。
こうして僕たちの街歩きに、アリスも加わることになった。




