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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第六章 休め!
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第一話 休日

「ノエル。今日は暇か?」


「……暇?」


エインからそう聞かれたのは、魔法の訓練を始めて何日か経った頃だった。


「午後からルカと魔法の訓練をする予定だけど。」


「……またか?」


「うん。」


エインは呆れたように息を吐く。


「お前、最近ずっと訓練してるだろ。」


「そうかな?」


「そうなんだよ。」


朝は剣の訓練をして、午後からはルカの研究室で魔法の訓練。

どちらも自分からやりたくて続けていることだから、あまり気にしていなかった。

でも、こうして振り返ってみると──


「……確かに、最近は訓練ばかりかも。」


「だろ?」


エインは肩をすくめた。


「というわけで、今日は休め。」


「……というわけで?」


「たまには訓練以外のこともしろ。」


「でも、ルカと約束してるし……」


「ルカには俺から言っておく。」


「いいの?」


「一日くらい問題ねぇだろ。」


「ルカ、楽しみにしてると思うけど。」


「お前の魔法を調べるのをか?」


「……たぶん。」


「なおさら休め。」


「……分かったよ。」


「よし。」


エインは満足そうに頷く。


「じゃあ、付き合え。」


「……何に?」


「街に行く。」


「街?」


「ああ。俺もちょうど出るつもりだったんだ。」


「それで僕に声をかけたの?」


「まあな。」


「最初から休ませるつもりだったんだ……」


「最近のお前見てりゃ、誰だってそう思うって。」


「……そんなつもりはなかったんだけど。」


「分かってるよ。」


エインはそう言って歩き出す。


「ほら、行くぞ。」


「うん。」


僕もその後を追う。

そのままエインと廊下を歩いていると──


「ノエルお兄ちゃーん!」


後ろから、聞き慣れた元気な声が響いた。


「シャロ?」


振り返ると、シャロがこちらへ勢いよく駆けてくる。


「ノエルお兄ちゃん!」


そのまま僕のところまで走ってくると──


「っと!」


シャロは目の前で急ブレーキをかけた。


「……危ないよ。」


「えへへ、ごめん!」


シャロは楽しそうに笑うと、僕とエインを交互に見上げた。


「二人でどこ行くの?」


「街に行くところだ。」


「街!?」


シャロの瞳がぱっと輝く。


「遊びに行くの!?」


「まあ、そんなところかな。」


「じゃあ、私も行きたい!」


シャロが期待するように僕を見る。


「僕はいいけど……」


そう言って、隣のエインを見る。


「なんで俺を見るんだよ。」


「エインが誘ってくれたんだし。」


エインは小さく笑う。


「別に構わねぇよ。」


「ほんと!? やったー!」


シャロが嬉しそうに両手を上げる。


「じゃあ、行こ!」


「お前が仕切るのかよ。」


「だって早く行きたいもん!」


「はいはい。」


エインは苦笑しながら歩き出す。

僕もその後を追おうとして──


「ノエルお兄ちゃん、早く!」


「あ、ちょっと……」


シャロに手を引かれながら、僕たちは黎明の翼(アルバ)を後にした。


──────────


ベルフォードの街門を抜けると、賑やかな大通りが目の前に広がった。

行き交う人々の声。

通りに並ぶ店から漂ってくる、美味しそうな匂い。

軒先には色とりどりの商品が並び、その前では店主と客が楽しそうに言葉を交わしている。

前に来たときにも歩いたはずの道。

それなのに──


「……なんだか、前と違って見える。」


「ん?」


エインが僕を見る。


「前に来たときは任務だったからかな。こんなにゆっくり街を見る余裕、なかった気がする。」


「そりゃそうだろ。あのときは遊びに来たわけじゃねぇからな。」


「今日は遊びだよ!」


シャロが僕の手を引いたまま、嬉しそうに振り返る。


「ほら、ノエルお兄ちゃん! あっちもいっぱいお店あるよ!」


「分かったから、そんなに引っ張らないでって。」


「ははっ。今日は好きなだけ見て回れ。」


エインにそう言われ、改めて大通りを見渡す。

任務でも、訓練でもない。

今日はただ、この街を歩くために来たんだ。


通りを歩いていると、ふと店先から小さな炎が上がった。


「……?」


思わず足を止める。

大きな鉄板の前で、店の人が片手をかざしていた。

その手の先に灯った炎が鉄板を熱し、その上で何かが香ばしい音を立てて焼けている。


「あれ……魔法?」


「ん?」


エインが僕の視線を追う。


「ああ。火の魔法だな。」


「料理にも使うんだ。」


「そりゃ使うだろ。」


「そうなんだ……」


その先では、水の魔法で店先を洗っている人がいる。

別の店では、風を起こして洗った布を乾かしている。

道の端では、欠けた石畳を土の魔法で整えている人もいた。


「前に来たときも、あんなふうに魔法って使われてたのかな。」


「さあな。たぶん使ってたんじゃねぇか?」


「……僕が気づいてなかっただけ?」


「そういうこともあるだろ。」


「そっか……」


僕は手のひらを見つめる。

魔法を使えるようになって、まだ何日も経っていない。

だからなのか、街で当たり前のように使われている魔法が、どれも新鮮に見えた。


「ノエルお兄ちゃん!それよりあれ食べたい!」


「え?」


「あれ!」


シャロが一つのお店を指さす。

視線を向けると、店先には小さな焼き菓子がいくつも並んでいた。

焼きたてなのか、甘い香りがここまで漂ってくる。


「美味しそう……」


「でしょ!?」


「食べてみようか。」


「ほんと!?」


「うん。」


そう答えて、懐に入れていた財布へ手を伸ばす。

ベルフォードでの任務を終えたあと、僕にも報酬が支払われていた。

目を覚ましてから、自分で買い物をするのはこれが初めてだ。


「……」


そこで、ふと手が止まった。


「どうしたの?」


「いや……」


店先に書かれた値段を見る。


「これって、高いの?」


「え?」


シャロが目を丸くした。


「僕、お金の感覚もよく分からなくて……」


「……そこからか。」


エインが呆れたように笑う。


「値段が三百リルって書かれてるだろ?」


「書いてあるね。」


エインが一枚のコインを取り出す。

そのコインには百を示す数字が刻まれていた。


「こいつが一枚百リルだ。つまり?」


「えっと……このコインを三枚出せばいいんだね。」


「そういうこと。」


「じゃあ、三百リルは高いの?」


「これくらいの菓子なら、まあ普通だな。」


「普通……」


「お前、本当にそこから覚え直しなんだな。」


「仕方ないでしょ。覚えてないんだから。」


「ははっ、悪い悪い。」


「じゃあ、三百リルなら買っていい!?」


「え?」


「今、普通って言ったよね!」


「お前が払うわけじゃねぇだろ。」


「ノエルお兄ちゃんが買ってくれるもん!」


「……いつ決まったの?」


「さっき!」


「そうだったかな……」


でもいい機会かもしれない。

僕は店の方へと近づく。


「いらっしゃい!」


商人が明るく出迎えてくれた。


「あら?あなたは……」


商人が僕の顔をじっと見つめる。

僕もその商人には見覚えがあった。


「リリアちゃんと一緒にいた子よね?」


「あ、はい。」


「やっぱり!」


商人は大きく笑った。

任務の時に、星型のクッキーをサービスしてくれたあの商人だった。


「今日も任務?」


「いえ、その……」


「ノエルお兄ちゃんと遊んでるの!」


シャロが横からぴょこっと飛び出す。


「あら、シャロちゃん。いらっしゃい。」


「こんにちは!」


「今日はずいぶん賑やかなのね。」


商人はそう言って、僕たちの後ろにいるエインへ視線を向ける。


「そちらのお兄さんも一緒?」


「ああ。」


「エインおじさんがノエルお兄ちゃんを連れ出したんだよ!」


「おい。言い方。」


「だって本当でしょ?」


「まあ、本当だけどよ……」


エインは困ったように頭を掻いた。


「それで、今日は何にする?」


「これ!」


シャロが迷うことなく焼き菓子を指さした。


「一つ三百リルのやつ!」


「はいはい。シャロちゃんはそれね。」


「ノエルお兄ちゃんも同じの食べよ!」


「僕も?」


「せっかくだもん!」


「じゃあ……二つください。」


「あら。今日はあなたが払うの?」


「はい。初めてなので、ちゃんとできるか分かりませんけど……」


「初めて?」


「買い物するのが。」


「まあ。それじゃ、六百リルよ。」


「六百……」


財布の中から、百リルの硬貨を一枚ずつ取り出していく。

一枚、二枚、三枚──


「ノエルお兄ちゃん、慎重だね。」


「だって、初めてなんだから。」


「間違えても俺たちがいるから大丈夫だって。」


「それでも間違えたくないよ。」


六枚の硬貨を確認して、商人へ差し出す。


「これで合ってますか?」


「ええ、ぴったりよ。」


「……よかった。」


「ははっ。お前、随分緊張してたな。」


「仕方ないでしょ。」


商人から焼き菓子を受け取り、その一つをシャロへ渡す。


「はい。」


「ありがとう、ノエルお兄ちゃん!」


シャロは嬉しそうに受け取ると、さっそく一口かじった。


「んー!美味しい!」


「そんなに?」


「食べてみて!」


僕もまだ温かい焼き菓子を一口かじる。


「……美味しい。」


甘い。

それに、焼きたてだからなのか少し温かい。


「だろ?」


なぜかエインが得意そうに言う。


「エインが作ったわけじゃないでしょ。」


「細けぇことはいいんだよ。」


「ノエルお兄ちゃん、次はあっち行こ!」


「もう?」


「まだいっぱいあるよ!」


シャロが残った焼き菓子を手に、大通りの先を指さす。

その先にも、たくさんの店と人が見える。

さっきまで知らなかった魔法の使い方。

きっと、この街にはまだ知らないものがたくさんある。


「ほら、ノエル。行くぞ。」


「うん。」


焼き菓子を片手に、僕は二人の後を追った。

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