↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第五章 魔法
PR
30/36

第七話 英雄

それから数日。


ルカの研究室で魔法の訓練をする日々が続いていた。

魔力の流れと、魔法の発現。

どちらも自然にできるよう、ルカがサポートしてくれている。

あとは──


「なるほど。この魔力の感じは──」


ルカの研究心を満たすために。

ルカは僕の手のひらに浮かぶ光をじっと見つめている。


「……昨日より少し弱い。」


「弱い?」


「うん。何かあった?」


「何かって?」


「気分が落ち込んでるとか、身体が重いとか。」


「別にないけど……」


「じゃあ、眠い?」


「眠くないよ。」


「お腹空いてる?」


「……少し。」


「それかな。」


「そんなことで変わるの?」


「分からない。」


ルカは楽しそうに魔導書へ何かを書き込む。


「だから調べてるんだよ。」


「僕のお腹の空き具合まで?」


「必要な情報だからね。」


「本当に……?」


「たぶん。」


「またそれ……」


「あ、動かさないで。今いいところだから。」


光を動かさないように、手のひらに魔力を留める。

少し意識が外れると、勝手に光が動いていくみたいで、まだまだ練習が足りない。


「……よし。」


しばらくして、ルカが魔導書から顔を上げた。


「もういいよ。」


「終わった?」


「うん。」


僕は魔力の流れを止める。

手のひらに浮かんでいた光が、静かに消えていった。


「今日も何か分かった?」


「少しだけね。」


ルカは魔導書へ何かを書き込みながら答える。


「でも、分からないことの方が多いかな。」


「やっぱり珍しいんだね。」


「うん。だから、少し前に大書庫でも調べてみたんだ。」


「光輝魔法(ルクス・ノヴァ)を?」


「それも。」


「それも?」


ルカの手が止まった。


「……ノエルのことも調べてみた。」


「僕のこと?」


「うん。」


「何か分かった?」


「それが、ほとんど何も。」


「何も?」


「うん。光輝魔法(ルクス・ノヴァ)についても、ノエル自身についても。」


ルカは少し考えるように魔導書へ目を落とした。


「……変なんだよね。」


「何が?」


「ノエルは十年前、英雄って呼ばれてたんでしょ?」


「そうみたいだね。」


「それなのに、記録がほとんど残ってない。」


「……」


「それに──」


ルカは僕を見る。


「昔のノエルを知ってる人は、今もいるよね。」


「うん。」


「セレスも、リリアも。」


「そうだね。」


「だったら、どうしてノエルは昔の自分のことをほとんど知らないの?」


「え?」


「光輝魔法(ルクス・ノヴァ)の名前だって、セレスに教えてもらったんだよね?」


「うん。」


「じゃあ、他のことは?」


「他のこと?」


「昔どんな魔法を使ってたとか、どんな任務をしてたとか……十年前に何があったのか、とか。」


「……」


言われてみればそうだ。

僕は僕のことをあまり知らない。

十年前、ある戦いのあとに眠りについたこと。

僕が黎明の翼(アルバ)の一員だったこと。

そして、仲間たちと共に戦っていたこと。

目を覚ましてから、いくつかのことは教えてもらった。

けれど、それ以上のことはほとんど知らない。


「……詳しいことは、聞いたことないかも。」


「十年前の戦いについても?」


「うん。ある戦いのあと、十年の眠りについたってことはセレナから聞いたけど……」


「それだけ?」


「……たぶん。」


「そっか。」


ルカはそれ以上何も言わず、少し考え込む。


「何か気になる?」


「うん。」


「何?」


「ノエルのことを知ってる人は、今も黎明の翼(アルバ)に何人もいるでしょ?」


「そうだね。」


「だったら、もっと昔のことを聞いててもおかしくないと思って。」


「……」


「別に、みんなが何か隠してるって言いたいわけじゃないよ。」


ルカはそう言って、少し困ったように笑った。


「ただ、話してないのには何か理由があるのかなって。」


「理由……」


その言葉が、妙に引っかかった。

今まで考えたこともなかった。

僕が覚えていないから、知らない。

ただ、それだけだと思っていた。

でも──

僕が覚えていなくても、覚えている人はいる。


「……リリアも、知ってるんだよね。」


「うん。」


「エインも、セレスも……セレナも。」


名前を口にするたび、不思議な感覚が胸に残る。

みんな、昔の僕を知っている。

それなのに僕は、その頃のみんなのことを何も覚えていない。


「でも──」


ルカは顎に手を当てて小首を傾げる。


「それなら、どうして記録まで残ってないんだろう。」


「……」


答えられるはずもなかった。

僕自身、今までそんなことを考えたことすらなかったのだから。


「ルカは、どう思う?」


「分からない。」


ルカはすぐに答えた。


「ただ──」


魔導書へ視線を落とす。


「ほとんど記録が残ってないっていうのは、少し変だと思う。」


「……そうだね。」


英雄。

そう呼ばれていたらしい僕のことを、僕自身が知らない。

そして、その僕について書かれたものすらほとんど残っていない。

今まで気にも留めなかったことが、一度気づいてしまうと妙に頭から離れなかった。


ふと、リリアの顔が浮かぶ。


「……リリアは。」


「うん?」


「昔の僕のこと、どれくらい知ってるんだろう。」


「どれくらいかは、僕にも分からないよ。」


「そっか。」


「僕が黎明の翼(アルバ)に入った頃には、ノエルはもう眠ってたからね。」


「そっか。」


「でも、リリアがずっとノエルを待ってたのは知ってる。」


「……僕を?」


「うん。」


ルカは小さく頷く。


「いつ目を覚ますかも分からないのに、ずっと。」


「……」


僕は何も言えなかった。

リリアが僕の帰りを待っていたことは、なんとなく分かっていた。

けれど、改めてルカの口から聞くと、胸の奥に不思議な温かさが広がった。


「だから、昔のノエルのことは僕よりずっと知ってると思うよ。」


「うん……」


ふと、目を覚ましてからのリリアを思い返す。

いつもそばにいてくれた。

何も覚えていない僕に、昔の僕を押しつけることもなかった。

でも──

昔の僕とリリアが、どんな時間を過ごしていたのか。

僕は、何も知らない。


「……ノエル。」


「ん?」


「僕も気になるけど、今ここで考えてても答えは出なさそうだよね。」


「……そうだね。」


「だったら、今できることをしよう。」


ルカはそう言って、僕の手元へ目を向ける。


「昔のノエルが何をできたのか分からなくても、今のノエルにできることは増やせるから。」


「今の僕に……」


僕も自分の手を見る。

数日前までは、自分の魔力を感じることすらできなかった。

それが今は、自分の意思で光を生み出すことができる。

まだ、思うようには扱えないけれど。


「……うん。」


僕は小さく頷いた。


「じゃあ、続きをやろうか。」


「もちろん。」


そう答えてから、ふとルカを見る。


「……でも、ルカ。」


「何?」


「僕の魔法を研究したいだけじゃない?」


「……」


ルカが黙った。


「ルカ?」


「それもある。」


「あるんだ……」


「だって、まだ分からないことだらけだからね。」


ルカは楽しそうに魔導書を開く。


「ほら、もう一回出してみて。」


「やっぱり研究したいだけなんじゃ……」


そう言いながら、僕は手のひらへ魔力を集める。

ぽう、と。

小さな金色の光が、再び手のひらに灯った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。