第六話 灯る
「どうすればいい!?」
手の中では、LINKが激しく明滅を続けている。
「大丈夫。落ち着いて。」
「これを見て、落ち着けると思う?」
「壊れるほどじゃないから。」
「本当に?」
「たぶん。」
「だから、たぶんじゃなくて!」
「ルカさん。」
リリアの静かな声が割って入る。
「そろそろ止めてあげてください。」
「ああ、そうだね。」
ルカは僕の手へ自分の手を重ねた。
「ノエル。さっき感じた温かさを思い出して。」
「温かさ?」
「うん。それが今も、手のひらからLINKへ流れ続けてる。」
言われた通り、手のひらへ意識を向ける。
「……本当だ。」
さっきよりもはっきりと分かる。
手のひらに集まった温かさが、少しずつ外へ流れ出している。
「それを止めればいい。」
「どうやって?」
「流すときは、温かさがLINKへ向かっていくように考えたよね?」
「うん。」
「なら今度は逆。手のひらに留めるイメージをしてみて。」
「やってみる。」
手のひらからは、今も温かいものが流れ続けている。
それが外へ出ていかないようにイメージする。
「……」
けれど、LINKは明滅を続けている。
「止まらない。」
「すぐには難しいよ。もう一度。」
「うん。」
今度は、流れていく温かさを意識する。
それまで外へ向かっていたものを、手のひらの中へ留めるように──
すると。
「……あ。」
少しだけ、流れが弱くなった。
それに合わせるように、激しく明滅していたLINKの光もゆっくりになっていく。
「そのまま。」
ルカの声を聞きながら、さらに集中する。
手のひらから外へ向かっていた流れが、少しずつ細くなっていく。
やがて──
ふっ。
LINKの光が消えた。
「……」
しばらく暗い画面を見つめる。
今度は、光が灯ることはなかった。
「止まった……?」
「うん。」
ルカが僕の手からLINKを受け取り、軽く確認する。
「ちゃんと止められたね。」
「よかった……」
思わず、大きく息を吐いた。
「壊れてない?」
「大丈夫。」
「本当に?」
「うん。」
ルカは自然にLINKの光を灯す。
「ほらね。」
そしてLINKの光を消した。
「じゃあもう一度やってみよう。」
「もう一度?」
「そう。今みたいに自然に魔力を流したり、止めたりできるまで。」
そう言って、ルカは再びLINKを差し出した。
僕は小さく首を横に振り、ポケットから自分のLINKを取り出す。
「さすがに僕のでやるよ。」
「別に気にしなくていいのに。」
しばらくLINKを使った魔力の練習を続けた。
LINKに淡い光が灯る。
「……どう?」
「少し強いかな。」
「これでも?」
「うん。」
魔力を抑えてみる。
しかし──
ふっ。
「……消えた。」
「今度は止めすぎたね。」
「難しいなぁ。」
もう一度、LINKに光を灯してみる。
先ほどよりも慎重に、ゆっくりと魔力を流すイメージで。
「……つかない。」
「弱すぎるみたいだね。もう少し。」
魔力を少しだけ強くする。
「わっ。」
再びLINKが明滅し始めた。
慌てて魔力の流れを手の中で留める。
「調整ができない……」
「慣れだよ、慣れ。それに──」
ルカが僕のLINKを指さした。
「自然に止めることができてる。」
「あ。」
言われてみれば、さっきのように慌てることなく魔力の流れを止めていた。
「少しずつ感覚を掴めてきたみたいですね。」
リリアが嬉しそうに微笑む。
「うん。でも、まだ強くしたり弱くしたりするのは難しいかな。」
「それもすぐに慣れるよ。」
「そうかな。」
「少なくとも、最初よりずっといい。」
それからも、何度も同じことを繰り返した。
強すぎれば抑えて、弱すぎれば少しだけ増やす。
初めはその加減がまるで分からなかったけれど、繰り返しているうちに、少しずつ感覚が掴めるようになってきた。
ふっ。
淡い光が灯る。
今度は消えない。
点滅することもなく、静かな光を保っている。
「どうかな?」
「うん。ちょうどいい。」
「……できた。」
「じゃあ今度は、自分で止めてみて。」
「分かった。」
温かい魔力を手のひらに留める。
すると、LINKの光が静かに消えた。
「問題なさそうだね。」
「これで、魔力を使えるようになったってこと?」
「使えるようになった、というより──」
ルカは少し考えてから答える。
「やっと自分の魔力を動かせるようになった、かな。」
「まだそこなんだ……」
「でも、大事な一歩だよ。」
「そっか。」
僕は手の中のLINKを見る。
最初は何も感じられなかった。
それが今は、自分の中にある温かさをはっきりと感じることができる。
「じゃあ、次は?」
「そうだね。」
ルカは少し楽しそうに笑った。
「今度は、その魔力を魔法に変えてみようか。」
「魔法……」
「大丈夫。ここからは意外と簡単だよ。」
ルカは人差し指を立てた。
「自分のやりたいことをイメージするんだ。」
すると、指先に小さな水滴が浮かび上がる。
水滴はゆっくりと膨らみ、小さな球体へと形を変えた。
「あ。」
「僕なら水。」
ルカは指先に浮かぶ水の球を眺める。
「こういうものを作りたいってイメージして、そこに魔力を流す。」
「それだけ?」
「基本はね。」
「簡単そうに見えるけど……」
「僕は慣れてるから。」
ルカは指先に浮かんでいた水の球を消した。
「じゃあ、ノエルもやってみようか。」
「僕も?」
「うん。ノエルは光の魔法を使うんだよね?」
「……そうみたいだね。」
「なら、まずは光を出してみよう。」
「光……」
僕は自分の手のひらを見る。
「さっきと同じだよ。まずは魔力を手のひらに集めて、そこから出したいものをイメージする。」
「やってみる。」
目を閉じ、手のひらへ魔力を集める。
さっきまで何度も繰り返していたからか、温かさはすぐに感じることができた。
十年の眠りから目を覚ました、あの日の夜。
手のひらに灯った光を思い出す。
小さくて、温かな金色の光。
それを思い浮かべながら、ゆっくりと魔力を流していく。
すると──
ぽう、と。
手のひらに、小さな金色の光が灯った。
「……出た。」
「……」
「ルカ?」
「すごい。」
ルカが僕の手元へ顔を近づける。
「え?」
「これがノエルの魔法なんだ。」
さっきまでとは明らかに違う声だった。
ルカは目を輝かせながら、僕の手のひらに浮かぶ光を見つめている。
「色は金色……形も安定してる。それに……」
「ル、ルカ?」
「触ってもいい?」
「えっ。」
「あ、でも先に温度を──」
「ルカさん。」
リリアの声が割って入る。
「ノエルさんが困っています。」
「あ。」
ようやく我に返ったのか、ルカが顔を上げる。
「ごめん。」
「……そんなに珍しいの?」
「珍しいというか──」
ルカはもう一度、僕の手のひらへ目を向けた。
「僕は、こんな魔法を見たことがない。」
そう言いながら、どこか嬉しそうに笑う。
「……面白いなぁ。」
「光輝魔法。」
「え?」
「この魔法の名前。昔の僕は、そう呼んでたらしい。」
「光輝魔法……」
ルカは確かめるように、その名前を口にする。
「初めて聞いた。」
「やっぱり?」
「うん。」
ルカはしばらく、僕の手のひらに浮かぶ光を興味深そうに見つめていた。
「……リリア。」
「はい?」
「しばらくノエル借りてもいい?」
「え?」
リリアは少し驚いたように目を瞬かせる。
「私は構いませんよ。」
「もちろん、ノエルがよければだけど。」
ルカが僕を見る。
「僕はいいけど……何するの?」
「魔法の訓練。それと──」
ルカは僕の手のひらに浮かぶ光へ目を戻した。
「その光輝魔法、もっと見てみたいからね。」
その目は、やっぱり楽しそうに輝いていた。




