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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第一章 目覚め
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第二話 小さな光

しばらく白い天井を眺めていた。

規則的に鳴る医療装置の電子音。

ただそれだけが小さく部屋に響く。


空白の十年。

失った記憶。

大切な帰る場所。

頭の中で何度も繰り返す。

……眠れない。

体を起こし、ふと窓に目を向ける。

夜だった。

静かな月明かりが部屋を照らしている。

何気なく自分の手を見つめる。


「……僕って、本当に何者なんだろう。」


ふわり。


「え。」


手のひらに、小さな光が灯る。

その光景に目を見開く。

光は僕の周りをゆっくりと漂う。

まるで何かを確かめるように。

そして手の平へ戻り、静かに消える。

その瞬間、ほんの少しだけ頭の中に映像が流れる。

誰かを照らしている。

誰かを守っている。

笑顔が見えたような気がした。

でも誰かは分からない。


「今のは……?」


映像は曖昧で声も曖昧。

だけどどこか温かい。

不思議と安心する光だった。

気づけば、さっきまで胸を締め付けていた不安は少しだけ薄れていた。

もう一度、ベッドの上に身を預ける。

まぶたは自然と閉じていき、いつの間にか静かな眠りについていた。


──────────


カーテンの隙間から差し込む朝日に、僕はそっと目を開いた。

昨夜の出来事は夢だったのではないかと思った。

だが、見慣れない白い天井も、失った記憶も何一つ変わっていなかった。

……夢じゃ、なかったんだ。


コンコン──


「失礼します。」


扉が開かれると同時に、いい匂いが鼻をくすぐる。


「おはようございます。ノエルさん。」


セレナはワゴンを押して入ってきた。

その上には温かそうなスープとパン。


「朝食をお持ちしました。」


「……食べてもいいの?」


疑問の声にセレナは少し笑って返す。


「もちろん、最初は少しずつですけどね。」


テーブルの上に料理が並べられる。

美味しそうな料理を目の前にお腹が鳴る。


「……お腹って、空くんだね。」


「それだけ体が元気になった証拠ですよ。」


長い間眠っていたのに、記憶を失っているのに、それでもちゃんとお腹は空く。

僕は、生きている。

スープをゆっくり口に運ぶ。

温かさが喉を通り、冷え切っていた体に広がっていく。

どこかで味わったことのある優しい味。


「……懐かしい。」


小さく漏れたその言葉に、セレナは穏やかに微笑む。


「黎明の翼(アルバ)の食堂でよく作られていたスープなんです。」


「そう……なんだ。」


やっぱり思い出せない。


「……無理に思い出そうとしなくても大丈夫ですよ。」


突然の言葉に笑みが零れる。


「もしかして顔に出てた?」


「少しだけ。」


セレナも小さく笑った。


「一つ聞いてもいいかな。」


「もちろん。」


「昨夜、不思議なことがあったんだ。」


「不思議なこと……ですか?」


セレナに向けて手を差し出す。


「突然、この手に光が現れたんだ。まるで生きているように、僕の周りを舞っていた。」


その言葉にセレナは目を見開く。


「……その光は何色でしたか?」


「色?」


昨夜の光景を思い返す。


「淡い……金色だった。」


セレナは小さく息を呑んだ。


「金色……」


「何か知ってるの?」


セレナは少しだけ視線を伏せ、それから優しく微笑む。


「安心してください。その光は決して悪いものではありません。」


「どういうこと?」


「……すみません。今は、私からお話しすることはできないんです。」


「……分かった。」


それ以上は聞かなかった。

セレナにも話せない理由があるのだろう。


コンコン──


再びノック音が部屋に響く。


「入るぞ。」


聞き覚えのある落ち着いた声が扉の向こうから聞こえた。


「総司令官(イコライザー)。」


扉が開き、セレスが姿を現した。


「体調はどうだ?」


「昨日よりは。」


セレスは少しほっとしたかのように頷く。

それからセレナへ視線を向けた。

それに対して、セレナは小さく頷く。


「話したのか。」


「いえ、私からは何も。ただ昨夜の出来事だけは伺いました。……光を見たと。」


「そうか。」


この短いやり取りだけで、二人は互いに状況を理解したようだった。


「光を見たそうだな。」


「知ってるの?」


しばらく黙ってセレスは僕を見つめた。


「……その光は、お前だけが持つものだ。」


「僕だけ……?」


セレスは小さく頷く。


「心配する必要はない。」


「どうして僕だけなの?」


その質問にセレスは少し目を閉じる。


「それを話すには、少し長くなる。今は体を戻すことが先だ。」


そう言って優しい笑みを浮かべた。


「セレナ。少しいいか?」


「はい。」


セレスはセレナを連れて踵を返した。

自分の手に視点を落とす。

やはりあの光は現れない。

けれど、不思議と焦りはなかった。


「……また、会えるかな。」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。


──────────


病室を出たセレナは扉を静かに閉めた。

二人の足音だけが廊下に響く。


「本当に話さなくて良かったんですか?」


「……今はな。」


セレスは短く答えた。


「金色の光が現れた以上、記憶は少しずつ戻り始める。」


セレナは小さく頷く。


「リリアには?」


「いえ、まだ何も。」


セレスは歩みを止めることなく言った。


「知らせてやれ。」


「はい。」


セレナは端末を取り出し、通信を繋ぐ。


『セレナさん?』


「リリアさん。」


セレナは優しく微笑んだ。


「ノエルさんが目を覚ましました。」


一瞬、通信の向こうが静まり返る。


『……本当に?』


その声は震えていた。


「はい。」


『っ……すぐに向かいます。』


通信はそこで途切れた。

セレスは小さく息を吐く。


「長かったな……」


その呟きは静かな廊下へと溶けていった。


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