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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第五章 魔法
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第三話 大書庫

翌朝。


窓から差し込む朝の光に、ゆっくりと目を開ける。


「……朝か。」


身体を起こし、まだ少し眠気の残る目を擦る。

昨日は色々なことがあった。

初めて訪れたベルフォード。

僕の名前を知っていた、謎の青年。

街中に突然現れた影狼(シャドウウルフ)。

そして──

僕は自分の手のひらを見る。


「光輝魔法(ルクス・ノヴァ)……」


十年前の僕が使っていたという、僕だけの魔法。

昨夜セレスから聞いたその名前を、もう一度確かめるように口にする。

手のひらに意識を集中させてみる。


「……」


けれど、何も起こらない。


「やっぱり出ないか……」


昨日は、あの子を守りたいと思った瞬間に勝手に現れた。

なのに、自分から出そうとしても何も起こらない。


「何が違うんだろう。」


しばらく手のひらを見つめていたけれど、答えが出るはずもなかった。


「……考えてても仕方ないか。」


今日はルカという人に、この力を調べてもらうことになっている。

何か分かるかもしれない。

そう思いながら、僕はベッドから立ち上がった。


──────────


食堂へ向かうと、席に座るリリアの姿があった。

僕に気づくと、穏やかな笑みを浮かべる。


「おはようございます、ノエルさん。」


「おはよう、リリア。」


自然と、近くの席に腰を下ろした。


「よく眠れましたか?」


「うん。でも起きてから、また試してみたんだ。」


「もしかして、光輝魔法(ルクス・ノヴァ)を?」


「うん。出なかったけど。」


「そうですか……」


リリアは少し考えるように僕の手を見る。


「でしたら、やはりルカさんに見てもらいましょう。」


「だね。」


そう答えたところで、こちらへ近づいてくる足音が聞こえた。


「おはようございます、ノエル様。」


声を掛けられ、振り返る。

シリルが朝食を乗せたトレーを運んできた。


「おはよう、シリル。」


「昨夜はよくお休みになれましたか?」


「うん。昨日の疲れもほとんど残ってないよ。」


「それは何よりでございます。」


シリルは僕たちの前に朝食を並べる。


「では、ごゆっくりどうぞ。」


「ありがとう。」


シリルを見送り、僕はリリアと一緒に朝食を食べ始めた。


「これからルカのところに行くんだよね?」


「はい。朝食を済ませたら向かいましょう。」


「そういえば、ルカってどんな人なの?」


「ルカさんですか?」


「うん。昨日アリスから研究員だって聞いたけど、それくらいしか知らなくて。」


リリアは少し考えてから口を開く。


「とても穏やかな方ですよ。それに、魔法に関する知識も豊富です。」


「へえ。」


「ただ……研究に夢中になると、周りが見えなくなってしまうことがありますけど。」


「周りが?」


「はい。声を掛けても気づかなかったり、時間を忘れてしまったり……」


リリアは少し困ったように笑う。


「そこまで夢中になるんだ……」


昨日のアリスの言葉を思い出す。


『ああいう不思議なものを調べるの、大好きだから!たぶん見せたら喜ぶよ!』


……少しだけ、どんな人なのか分かってきた気がする。


「でも、悪い方ではありませんよ。」


「それは何となく分かるよ。」


そんな話をしながら、僕たちは朝食を食べ進めた。


やがて食事を終えると、僕たちは食堂を後にした。


「ルカの研究室に行くの?」


「いえ。今は別の場所にいると思います。」


「別の場所?」


「はい。」


リリアに案内され、黎明の翼(アルバ)の中を歩いていく。

しばらくして辿り着いたのは、大きな扉の前だった。


「ここは?」


「黎明の翼(アルバ)が集めてきた、様々な資料や文献が保管されている場所です。」


「資料や文献……」


「魔法や魔物についてはもちろん、各地の歴史や古い記録も保管されています。」


リリアが扉に手をかける。


「ルカさんは、よくここで調べものをしているんですよ。」


扉がゆっくりと開く。


「……わぁ。」


思わず声が漏れた。

中には、見上げるほど高い本棚がいくつも並んでいた。

どこまで続いているのか分からないほど、数え切れない本や資料が収められている。

けれど、驚いたのはそれだけじゃない。


「……本が浮いてる。」


僕たちの頭上を、一冊の本がゆっくりと通り過ぎていく。

その後ろからも、何冊もの本が宙を漂っていた。


「必要な資料を探しやすいように、魔法がかけられているんです。」


「へえ……」


一冊の本が本棚からひとりでに抜け出し、僕たちの横を通り過ぎていく。

思わずその行方を目で追った。


「……あれ?」


よく見ると、浮かんでいる本の多くが同じ方向へ向かっている。


「リリア。あの本たち……」


「はい?」


「さっきから、全部あっちに行ってない?」


リリアも本の向かう先を見る。

すると、何か納得したように頷いた。


「たぶん、ルカさんですね。」


「これだけで分かるの?」


「ふふっ。行ってみましょうか。」


飛んでいく本を追いながら、僕たちは本棚の間を進んでいく。

やがて──


「……いた。」


何冊もの本が宙に浮かび、その中心に一人の少女がいた。

淡い水色の髪に、蒼青色の瞳。

白を基調としたローブを身に纏い、開かれた本へ次々と視線を移している。

手元にも一冊の本が開かれていて、何かを書き込んでいるようだった。


「……こっちも違う。」


少女は僕たちが近づいていることにも気づかず、別の本へ手を伸ばす。


「ルカさん。」


「……」


返事はない。


「ルカさん?」


「……ん?」


二度目の呼びかけで、ようやく顔が上がった。


「ああ、リリア。おはよう。」


「おはようございます。」


そして、蒼青色の瞳が僕へ向けられる。


「そっちがノエル?」


「うん。初めまして。」


「初めまして。ルカだよ。」


柔らかな笑みを浮かべながら、少女──ルカが僕を見る。

昨日アリスが話していた研究員は、この子のようだ。

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