第一話 帰還
その後、ベルフォードには黎明の翼から数名の隊員が到着した。
街の警戒と影狼についての調査を彼らに引き継ぎ、僕たちは黎明の翼へ戻ることになった。
戻った頃には、空が茜色に染まり始めていた。
「帰ってきたー!」
そう言ってアリスが大きく身体を伸ばす。
「アリス先輩も報告あるだろ。」
「分かってるって!早くご飯食べたいし、先に報告済ませてくるねー!」
アリスはそう言い残すと、報告部の方へ駆けていってしまった。
「報告部には俺から報告しておくけど、ノエルはどうする?」
「ついて行くよ。まだ分からないことばかりだから。」
「私も行きます。何か進展があるかもしれません。」
「分かった。じゃあ一緒に行こう。」
僕たちも報告部へと向かっていった。
──────────
報告部へ入ると、中では何人もの隊員が行き交っていた。
任務を終えた隊員たちが報告をしたり、職員が書類を整理したりしている。
「ここが報告部……」
「来るのは初めてか?」
「うん。」
カイルは慣れた様子で受付へ向かうと、職員に声をかけた。
「ベルフォードから戻った。任務の報告をしたいんだけど。」
「お疲れ様です。ベルフォードの件ですね。」
職員は手元の書類を確認する。
「先ほどの報告はこちらにも届いています。詳しいお話を伺いたいので、奥の報告室へお願いします。」
「分かった。」
職員に案内され、僕たちは奥へと進んでいく。
通された部屋には、一つの机と向かい合うように椅子が並べられていた。
「それでは、こちらにお掛けください。」
僕たちが席に着くと、職員も向かい側へ腰を下ろす。
「では、ベルフォードで起きたことについて、改めて詳しくお聞かせください。」
「分かった。まずは──」
カイルが、ベルフォードで起きたことを順番に話していく。
街で出会った、僕の名前を知る謎の青年。
噴水広場に突然現れた影狼。
そして、その個体が通常よりも明らかに強かったこと。
職員は時折確認を挟みながら、一つ一つ記録していった。
「なるほど……ではこちらからも情報を提示しますね。」
職員は端末を器用に操作すると、画面が空中に浮かびあがった。
「影狼の出現場所ですが、裏路地ではないかと考えています。」
「裏路地?」
カイルは眉をひそめる。
「最も早い目撃情報が、噴水広場から少し離れた裏路地です。」
「それだけじゃ、裏路地に出現したと断定するには早いだろ。」
「それが……」
職員の表情が曇った。
「それ以前の目撃情報が今のところ報告されていません。」
「街の外でも目撃情報はないのですか?」
「……残念ながら。」
「では、本当に街中で突然現れた可能性があるということですか?」
「まだ断定はできません。ただ、その可能性はあります。」
職員は端末の画面を閉じた。
「もしそうだとすれば、普通ではありえないことです。少なくとも、これまでに同様の事例は確認されていません。」
「一体だけだったことといい、妙に強かったことといい……やっぱり普通の影狼じゃなかったってことか。」
「現在、現場に残された痕跡も含めて調査しています。ですが、今のところ原因までは……」
コンコン──
不意に、報告室の扉を叩く音が響いた。
「入るぞ。」
「セ、セレス総司令官……!」
報告室に入ってきたのは、セレスだった。
カイルは緊張からなのか、背筋を伸ばす。
「任務終わりだろう?気を楽にしていい。」
セレスは僕たちの傍まで歩み寄る。
「大変だったみたいだな。」
「うん。初任務でこんなことになるなんて思わなかったよ。」
「今回は異例の事態だった。だが、よく対応してくれた。」
「みんなのおかげだよ。」
「……そうか。」
セレスは小さく笑みを浮かべた。
「ベルフォードの件は私のところにも報告が来ている。」
セレスは近くの空いている席に腰を下ろした。
「街中に現れた影狼については、引き続き調査を進める。それと──」
セレスの視線が僕へ向けられる。
「お前の名前を知っていたという青年のこともな。」
「……うん。」
青年の姿が脳裏に過ぎる。
柔らかな笑み。
穏やかな声。
道を尋ねてきた普通の旅人だった。
だけど、確かに僕の名前を呼んだ。
曖昧な記憶を探っても、やはり何も出てこない。
「その方は見つかりましたか?」
「いや。報告された特徴をもとに情報部で照合しているが、まだ該当する人物は見つかっていない。」
セレスは小さく首を振った。
「あぁ、そうだ。もう一つ報告しておかないとな。」
カイルが僕を見る。
「ノエルの光のことだ。」
「光?」
職員が聞き返す。
「影狼と戦ってた時、ノエルから金色の光が出たんだ。それも、かなり強い光だった。」
「……また出たのか。」
セレスが静かに呟く。
「うん。でも、前とは全然違った。」
僕は自分の手のひらへ視線を落とした。
「あの子を守らなきゃって思った瞬間、勝手に身体から溢れてきたんだ。」
自分の手のひらをそっと握る。
そしてセレスに視線を向けた。
「前に言っていたよね。あの光は、僕だけが持つものだって。」
「……あぁ。」
「なら……あれは僕の力なの?」
セレスはすぐには答えなかった。
「……カイル。」
「はい!」
カイルは改まって、姿勢を正す。
「悪いが、席を外してくれるか。」
「……わ、分かりました!」
カイルは少し上擦った声で返事をした。
「君もだ。ここから先は私が引き継ぐ。」
「承知しました。」
二人は椅子から立ち上がる。
「……じゃあ、俺は先に飯でも食ってるよ。」
「うん。今日はありがとう。」
「礼はいいって!ノエルも初任務、お疲れさん。」
軽く手を上げて、カイルは職員と共に報告室を出ていった。
扉が閉まり、報告室に静寂が戻る。
残ったのは、僕とリリア、そしてセレス。
「……」
ふと隣を見ると、リリアが僕の手をじっと見つめていた。
「リリア?」
「……あ、すみません。」
リリアは小さく首を振る。
「少し、考え事をしていました。」
「……そう。」
セレスはそんな僕たちを静かに見つめていた。
やがて、小さく息を吐く。
「やはり場所を変えよう。」
「え?」
「話すことがある。」




