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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第四章 初任務
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第七話 残された謎

二人の背中を見送ると、後ろから足音が近づいてきた。


「無事にお母さんと会えたみたいだな。」


振り返ると、カイルたちがこちらへ戻ってきていた。


「うん。見つかってよかった。」


「そっか。」


カイルは安心したように笑う。


「こっちも一通り確認してきた。今のところ、他に魔物はいないみたいだ。」


「よかった……」


思わず息を吐く。


「でも、安心するのはまだ早いぞ。」


「え?」


カイルの表情が少しだけ引き締まる。


「問題は、なんで街中に影狼(シャドウウルフ)が現れたのかだ。」


「……こういうことはよく起こるの?」


「いや、滅多にない。」


カイルは小さく首を振る。


「街の外ならともかく、こんな人通りの多い場所に魔物が出るなんて普通じゃない。」


「じゃあ、どうして……」


「それを調べる必要がある。」


カイルは先ほどまで影狼(シャドウウルフ)がいた場所へ視線を向ける。


「それに、あいつ一体だけだったのも気になる。」


「一体だけ?」


「ああ。影狼(シャドウウルフ)は基本的に群れで行動する魔物なんだ。」


「じゃあ、近くにまだ……?」


「その可能性も考えたけど、周辺にはそれらしい痕跡はなかった。」


「痕跡も……」


「とにかく、一度報告した方がいいな。」


カイルは腰のポーチからLINK(リンク)を取り出す。


「さっきは途中で切っちまったし。」


そういえば、あの青年について報告している途中で悲鳴が聞こえたんだった。

カイルがLINK(リンク)を操作すると、しばらくして通信が繋がった。


「カイルだ。さっきの報告の続きなんだが──」


『街に魔物が出たという情報が届きました。そのことですか?』


「お、おう……相変わらず情報が早いな。」


『それが情報部の務めですから。ですが、まだ情報が不足しています。詳しくお聞かせください。』


「ああ。ベルフォードの噴水広場に影狼(シャドウウルフ)が出た。」


『影狼が街中に?』


「そうだ。周辺も確認したけど、他の個体やそれらしい痕跡は見つかってない。」


『一体だけ、ということですか?』


「ああ。それと……妙に手強かった。」


『手強かった?』


「影狼(シャドウウルフ)と戦うのは初めてじゃないけど、あいつは一撃も重かったし、動きもかなり速かった。」


カイルは少し考えてから続ける。


「普通の個体とは、何か違った気がする。」


『分かりました。その点も含めて確認します。』


「あ、そうだ!私からも一つ!」


横からアリスが顔を覗かせる。


「私が着いたときには、その一体しかいなかったよ。街に入る途中でも他の魔物は見てない!」


「……アリス先輩、近いっす。」


「いいじゃん、聞こえた方が早いでしょ?」


「そういう問題じゃ……」


『アリスさんからの情報も確認しました。ありがとうございます。』


「はーい!」


『影狼についてはこちらでも確認します。ほかに異変がないようでしたら、引き続き周囲を警戒してください。』


「分かった。」


カイルが頷く。


『それと、先ほどの報告も途中でしたね。』


「ああ。あの青年のことだな。」


『詳しい特徴をお願いします。』


カイルは青年の姿を思い返しながら、特徴を伝えていく。


『名前は分かりますか?』


「いや。聞いてない。」


『そうですか。ほかに気になった言動は?』


「……一つある。」


カイルが僕を見る。


「黎明の翼(アルバ)の話をしてた時、十年前に世界を救った英雄の話をしたんだ。」


『英雄……』


「その時、一瞬ノエルを見たように見えた。」


「……うん。」


僕も小さく頷く。


「それから別れ際に、いきなり僕の名前を呼んだ。」


『ノエルさんの名前は、その青年には一度も?』


「教えてない。」


『……分かりました。青年についてはこちらでも該当する人物がいないか確認します。影狼の出現についても併せて調査します。』


「頼む。」


『何か分かり次第、こちらから連絡します。それまでは引き続き周囲の警戒をお願いします。』


「了解。」


カイルが通信を切り、LINK(リンク)を腰のポーチへ戻す。


「これでひとまず報告は終わりだな。」


「……」


僕は自分の手のひらを見つめる。

そこにはもう、あの金色の光は残っていない。


「ノエルさん?」


リリアが僕の様子に気づく。


「あの……リリア。」


「はい。」


「さっきの光なんだけど……」


リリアの表情が、ほんの少しだけ変わった。


「リリアは、あの光が何なのか分かる?」


「……」


「前にも出たんだ。目を覚ました日の夜に。」


「……前にも?」


「うん。あの時は手のひらに少しだけ。でも今回は、あの子を守りたいって思ったら勝手に……」


リリアはすぐには答えなかった。


「……ノエルさん。」


リリアは少しだけ考えてから、僕を見る。


「そのことは、黎明の翼(アルバ)に戻ってからセレスさんにお話ししましょう。」


「セレスに?」


「はい。今ここで判断するより、その方がいいと思います。」


「そっか……分かった。」


「ねえ。」


それまで黙って聞いていたアリスが、不意に口を開いた。


「さっき言ってた光って……もしかして、あの金色の光?」


「……見てたの?」


「うん。ここに来る途中、屋根の上から見えたんだ。」


アリスは広場の方へ視線を向ける。


「結構遠くからでも見えたから、何かあったんだと思って急いで来たんだけど……」


そして、僕を見る。


「あの光って、ノエルのだったの?」


「……たぶん。」


自分のことなのに、はっきりとは答えられない。


「僕の手から出たのは間違いないんだけど……何なのかは、僕にも分からないんだ。」


「へぇ……」


アリスは少し考えるように首を傾げる。


「だったら、ルカにも見てもらったら?」


「ルカ?」


「黎明の翼(アルバ)の研究員だよ。ああいう不思議なものを調べるの、大好きだから!」


「……大好き?」


「うん!たぶん見せたら喜ぶよ!」


「よ、喜ぶんだ……」


「アリスさん。その言い方だと少し誤解を招きますよ。」


リリアが小さく苦笑した。


「えー?でも本当に喜ぶと思うよ?」


「それは……否定できませんけど。」


「でしょ?」


アリスは満足そうに笑った。


「とりあえず、戻ったらセレスに話してみるよ。」


「はい。」


僕はもう一度、自分の手のひらを見る。


あの光が何なのか。

あの魔物は何なのか。

あの青年は何者なのか。

まだ、何も分からない。

それでも──

今日、初めて街へ出て、初めて魔物と戦った。

怖かったけれど、それだけじゃなかった。

僕にも、誰かを守ることができた。

今は、そのことを大切にしたいと思った。


──────────


街を見下ろす建物の屋根に、一人の青年が立っていた。

その視線の先には、噴水広場。


「ノエル・ルドベキア……」


青年は、その名を確かめるように呟いた。


「十年前、厄災と共に眠りについた英雄。」


青年の脳裏に、先ほど広場を照らした金色の光が蘇る。


「記憶は失っているみたいだけど……」


青年は静かに目を細める。


「君を追っていれば、いつか辿り着けるかもしれない。」


その口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「僕たちが探しているものに。」


風が吹き抜け、青年の髪を揺らした。


「そろそろ、準備を始めようか。」


青年はもう一度だけ噴水広場を見下ろすと、静かにその場を後にした。

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