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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第四章 初任務
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第五話 実戦

黒い影が、一瞬で距離を詰める。


「っ!」


反射的に剣を抜いた。

振り下ろされた鋭い爪を、剣で受け止めた。


ガキンッ!


激しい衝撃が腕を伝う。


「くっ……!」


重い……!

訓練とは違う。

一撃を受けただけで、それが嫌というほど分かった。


「離れろ!」


カイルが影狼(シャドウウルフ)へ剣を振るう。

しかし、影狼(シャドウウルフ)は地面を蹴り、一瞬で後方に跳んだ。


「大丈夫か?」


「ありがとう……」


剣を構え直し、影狼(シャドウウルフ)を見据える。

速い。

クロウとの訓練を思い出すほどの速さだった。

けれど、動きがまるで違う。

四本の脚で地面を蹴り、低い姿勢から一気に間合いを詰めてくる。

次にどこからくるのか、読みづらい。


「ノエルさん!カイルさん!」


リリアの声が飛んでくる。

振り返ると、彼女は逃げ遅れた人たちを広場の外へ誘導していた。


「私が皆さんを避難させます!」


「頼む!」


住人はリリアに任せ、僕とカイルは影狼(シャドウウルフ)と向き合う。


「ノエル、俺たちはこいつを広場から出さないぞ。」


「分かった。」


剣を握る手に、自然と力が入る。

ごくりと唾を呑み込み、影狼(シャドウウルフ)を見据えた。

訓練とは違う。

一歩間違えれば、本当に傷つく。

それでも、ここを通すわけにはいかない。


「ノエル!俺が奴を引きつける!挟むぞ!」


「うん!」


カイルが正面から駆け出す。

それに合わせて、僕は反対側へ回り込んだ。

影狼(シャドウウルフ)の視線がカイルへ向く。

今だ!

地面を蹴り、剣を振るう。

しかし──


「っ!」


剣先が黒い毛を掠める。

影狼(シャドウウルフ)は身を捻るようにして僕の一撃を躱していた。


「おらぁ!!」


続くカイルの攻撃も、横へ跳び躱される。

速い……!


「能力強化(エンハンス)!」


突然、淡い光が身体を包んだ。


「これは……?」


身体が少し軽い。

剣を握る腕にも、先ほどまでより力が入る。


「身体能力を高める補助魔法です!長くは続かないので気をつけてください!」


これが補助魔法……

自分の身体なのに、さっきとはまるで違う。


「ありがとう!」


剣を握り直し、再び影狼(シャドウウルフ)へ向き直る。


グルルルル……


影狼(シャドウウルフ)が低く身を沈める。

来る。

地面を蹴る音と同時に、黒い影が視界から消えた。


「右だ!」


「っ!」


すぐさま振り向く。

先ほどなら反応できなかったはずの動きが、今度は見えた。

横から迫る爪に合わせて剣を振るう。


ガキンッ!


爪と剣がぶつかり合い、火花が散った。


「くっ……!」


重い。

それでも、今度は押し負けない。

剣を振り抜くと、影狼(シャドウウルフ)が大きく後方へ跳んだ。


「ノエル!」


「うん!」


今度はこちらから地面を蹴る。

距離を詰め、そのまま剣を振り下ろした。

影狼(シャドウウルフ)が横へ跳ぶ。

けれど──


「そこだ!」


身体を捻り、逃げた先へ剣を振るう。


ギャウッ!!


剣先が黒い身体を捉えた。


「当たった……!」


初めての手応えが、剣を通して伝わってくる。

クロウの時のように油断はしない。

僕は影狼(シャドウウルフ)に切っ先を向ける。

影狼(シャドウウルフ)は距離を取ったまま、低い唸り声を上げている。


「……?」


何かおかしい。

その瞳は、僕たちを見ていなかった。


「ノエルさん!」


リリアの切迫した声が響く。


「あそこに、まだ子どもが!」


「え……?」


視線を向けると、広場の隅に小さな子どもが一人取り残されていた。


グルルル──


影狼(シャドウウルフ)が低く身を沈める。

まさか──

次の瞬間、影狼(シャドウウルフ)が子どもへ向かって駆け出した。


「待て!!」


考えるより先に、身体が動いた。

地面を蹴り、影狼(シャドウウルフ)を追う。

身体が軽い。

今までよりも速く走れている。

だけど、届かない。


「くそっ……!」


子どもはその場に立ち尽くしたまま、迫る影狼(シャドウウルフ)を見つめている。

必死に手を伸ばす。

守らないと。

もっと速く。

もっと──!


「逃げて!!」


その瞬間。

胸の奥が、熱くなった。


「……っ!?」


手のひらから、眩い金色の光が溢れ出す。


「なっ……!?」


光はまるで意志を持っているかのように、子どもの元へ伸びていく。

そして、金色の光は子どもの身体を包み込んだ。


キィィィン──!


澄んだ音が広場に響き渡った。

影狼(シャドウウルフ)の爪が光へぶつかる。

けれど、その一撃は子どもに届くことはなかった。

それどころか、金色の光が一際強く輝く。


ギャウッ!?


影狼(シャドウウルフ)の身体が大きく弾き飛ばされた。

そのまま地面を転がり、噴水の近くでようやく止まった。


「な、何が……?」


僕は思わず自分の手のひらを見る。

そこには、まだわずかな金色の光が残っていた。


「今の光……」


リリアも驚いたように僕を見つめている。


あの時と同じだ。

目を覚ました日の夜。

手のひらに灯った金色の光。

でも、今のは──


「ノエル!」


カイルの声が響く。


「今のうちにその子を!」


「っ!……うん!」


僕は子どもの元へ駆け寄る。


「大丈夫だからね。」


泣きじゃくる子どもの頭を優しく撫でた。

リリアとカイルも駆け寄り、子どもを庇うように影狼(シャドウウルフ)と向き合った。

先ほどの光を警戒しているのか、影狼(シャドウウルフ)は一定の距離を保ち、威嚇する。


その時だった。

影狼(シャドウウルフ)の頭上に、赤い光が灯った。


「……?」


一つ、二つ。

次々と現れた炎は形を変え、鋭い剣を形作っていく。


「何、あれ……?」


次の瞬間──

炎の剣が一斉に降り注いだ。


ギャウッ!?


炎が広場を照らす。

やがて炎が消えると、影狼(シャドウウルフ)の身体は影に溶けて消えていった。


「……何が?」


「ふぅ、間に合ったー!」


不意に、頭上から明るい声が聞こえた。


「上……?」


声につられて顔を上げる。

広場に面した建物の屋根の上。

一人の女性が、こちらを見下ろしていた。

鮮やかな赤い髪を高い位置で結び、風になびく長い髪が炎のように揺れている。

燃えるような紅色の瞳。

身に纏っているのは、僕たちと同じ黎明の翼(アルバ)の隊服だった。

その手には、炎を纏った片手剣が握られている。

けれど、その表情には先ほどまでの戦いが嘘のような、明るい笑みが浮かんでいた。


「みんな、怪我はない?」

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