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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第四章 初任務
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第四話 旅人

青年は柔らかな笑みを浮かべながら、僕たちの返事を待っていた。

リリアが一歩前に出る。


「もちろん。どうしたんですか?」


「ありがとうございます。実は、少し道に迷ってしまいまして。」


青年は困ったように笑った。


「泊まれる宿を探していまして。どこかご存じありませんか?」


「宿か。」


僕はカイルへ視線を向ける。

この街について何も知らない僕には、答えようがなかった。


「それなら商業区の西側に何軒かあるぜ。」


カイルは広場から伸びる道を、一つ指さした。


「ここからならそんなに遠くないし、案内するよ。」


「いいのですか?」


「ちょうど街の巡回中だからな。ついでだ、ついで!」


「それは助かります。」


青年はほっとしたように微笑んだ。

こうして僕たちは、青年を宿まで案内することになった。


噴水広場を離れ、商業区の西側へ向かって歩いていく。

青年は周囲を眺めながら、僕たちの隣を静かに歩いていた。


「皆さんは、この街の方なんですか?」


「いや、俺たちは黎明の翼(アルバ)の隊員だ。」


カイルが答える。


「今日は街の巡回で来てるんだ。」


「なるほど。黎明の翼(アルバ)……」


青年はその名前を確かめるように、小さく呟いた。

僕はリリアにそっと近づく。


「やっぱり、黎明の翼(アルバ)は有名なの?」


「有名な方だとは思いますよ。」


「そうなんだ。」


自分が所属している組織なのに、知らないことばかりだ。


「各地で魔物の討伐や人々の支援をしてるからな。」


カイルも、笑みを浮かべながら答える。


「ベルフォードでも黎明の翼(アルバ)を知ってる人は多いぜ。」


「へぇ……」


「知らなかったのですか?」


「名前くらいは。何をしているかまでは知りませんでした。」


「そうでしたか。失礼しました。」


青年は一度前へ視線を戻す。


「ただ──」


青年は柔らかく微笑んだ。


「世界を救った英雄がいた。そう聞いたことがあります。」


その瞬間、青年と目が合ったような気がした。


「英雄……?」


「ええ。」


青年は何事もなかったかのように、前へ視線を戻す。


「十年前、この世界を救ったと言われている英雄です。」


十年前。

僕が眠った日だ。

偶然とは思えず、青年へ視線を向ける。

けれど、彼は何事もなかったかのように街並みを眺めていた。


「見えてきたぞ。」


カイルが前方を指さす。


「あそこが宿だ。」


周囲の建物より一際大きな木造の建物が見えた。

その付近には荷馬車が停まっており、青年と同じような旅人が数人いた。


「ありがとうございました。」


「気にしないでください。」


青年は小さく頭を下げる。


「それでは。」


そのまま宿に向かって歩き出す。


「……あ。」


青年は何かを思い出したように足を止めた。

ゆっくりとこちらを振り返る。


「また会いましょう、ノエル。」


「……え?」


青年は柔らかな笑みを浮かべる。

そして今度こそ、僕たちに背を向けた。


「……どうして。」


僕はその背中を見つめる。

僕は、名前なんて教えていない。


「ノエル。」


カイルの声から、さっきまでの明るさが消えていた。


「お前、あいつに名前言ったか?」


「……いや。」


リリアも青年の背中をじっと見つめている。


「私も……聞いていません。」


三人の間に、短い沈黙が落ちた。


「……追いますか?」


「……いや、報告が先だ。」


カイルは小さく首を振った。


「名前を知ってたってだけじゃ、何も分からない。勝手に追うのはまずい。」


そう言って腰のポーチからLINK(リンク)を取り出す。

わずかに画面が光り、通信が繋がる。


「カイルだ。巡回中、少し気になる人物と接触した。」


『こちら情報部。どうされましたか?』


「旅人を名乗る青年だ。宿まで案内したんだが──」


カイルは一度、青年が去った方へ目を向ける。


「そいつ、教えてもいないノエルの名前を知っていた。」


『なるほど……』


「そいつの特徴は──」


その時だった。


「きゃあああっ!!」


突然、遠くから悲鳴が響いた。


「……っ!」


悲鳴のする方向を振り返る。

通りの向こうから、人々がこちらへ向かって逃げてくる。


「何だ……?」


その奥で、低い唸り声が響いた。

胸の奥がざわつく。

何かがいる。


「悪い!また後で連絡する!」


カイルは通信を切ると、LINK(リンク)を腰のポーチへしまった。


「行くぞ!」


僕たちは人々の流れに逆らって、悲鳴のする方へ駆け出した。

人混みを抜けると、そこは先ほどまでいた噴水広場だった。

開けた空間の中央に、一つの黒い影が佇んでいる。


グルルルル──。


地を這うような低い唸り声。

狼に似た四足の魔物だった。

けれど、その身体を覆う黒い毛は煙のように揺らめき、獲物を捉えるような瞳がこちらを睨みつけている。

開いた口元から、鋭い牙が覗いた。


「影狼(シャドウウルフ)!?どうしてこんなところに……!」


「あれが……魔物。」


無意識に腰へ手を伸ばした。

指先に触れたのは、何度も訓練で握ってきた剣の柄。

けれど、今までとは違う。

目の前にいるのは、訓練相手じゃない。


「ノエル!」


カイルの声が響く。


「来るぞ!」


影狼(シャドウウルフ)が低く身を沈めた。

次の瞬間──

地面を強く蹴った。


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