第三話 街
街門をくぐった瞬間、賑やかな声が辺りに広がった。
行き交う人々、通りに建ち並ぶ店、子供たちの笑い声。
「この街は覚えているのか?」
「……ごめん、思い出せない。」
「じゃあ──」
カイルは僕の目の前に立った。
「ようこそ!ベルフォードへ!」
満面の笑みを浮かべて、カイルは高らかに言った。
ベルフォードという街なんだ。
「まずは大通りから案内するぜ!」
その言葉に少し胸が高鳴る。
この街で、どんな出会いが待っているんだろう。
「ここには、色んな出店が並んでいるんだ。」
カイルが大通りを歩きながら説明する。
「焼きたてのパンはいかがー!」
「採れたての果物だよ! 甘いよー!」
「今日獲れた新鮮な魚だ! 安いよ!」
あちこちから威勢のいい呼び込みが響き渡る。
焼きたてのパンの香ばしい匂いに、甘い果物の香り。
人々の笑い声も重なり、大通りは活気に満ちていた。
「すごい……」
すると、一人の商人がこちらに向けて手を大きく振る。
「リリアちゃんじゃない!」
「こんにちは。」
店へ近づくと、甘い香りが鼻をくすぐった。
「ちょうど新作のクッキーが焼けたのよ!味見してくれないかしら?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん!リリアちゃんの感想は参考になるから!」
リリアは星型のクッキーを受け取る。
そしてそのまま口へと運んだ。
「美味しい……!」
「蜂蜜を練り込んだ生地に、星砂糖を使ったクッキーなの!」
「それで星蜜クッキー……絶対、人気になりますよ!」
「そう言ってもらえて嬉しいわ!」
すると、商人はこちらにも星蜜クッキーを差し出してくれた。
「あなたたちもどうぞ!」
「いいんですか?」
「もちろんよ!」
星蜜クッキーを受け取った。
焼きたての香ばしさと、砂糖の甘い香りが鼻をくすぐる。
さくり。
一口かじると、軽やかな食感とともに、優しい甘さが口いっぱいに広がった。
「……美味しい。」
「でしょ!」
商人の笑顔につられて、僕も笑みをこぼした。
「うまっ!!」
カイルもクッキーに目を輝かせていた。
「私、この店のクッキーが大好きなんです。紅茶ともよく合うんですよ。」
「そうなんだ。またゆっくり見てみたいね。」
「その時は、私のおすすめを教えますよ。」
「楽しみにしてるよ。」
「はい。」
リリアは嬉しそうに頷いた。
「さ!仕事に戻るぞ!」
「頑張ってね!」
「ありがとうございます。」
商人に見送られながら、僕たちは再び大通りを歩き始めた。
「……任務中に良かったのかな。」
「街の人たちとの関わりも立派な任務だぞ。だから気にすんな。」
するとリリアがくすりと小さく笑った。
「どうしたの?」
「いえ。昔のノエルさんも同じことを言ってたなと思って。」
リリアは懐かしそうに目を細める。
「『任務中にいいのかな』って気にしていました。」
「……そうだったんだ。」
少しだけ胸が温かくなる。
思い出せなくても、昔の僕は今の僕と変わらなかったのかもしれない。
そう思うと、少しだけ嬉しかった。
「ベルフォードは広いからな。」
カイルは大通りの先を指さした。
「今歩いてるのが商業区だ。店や出店が多くて、一番人が集まる場所なんだ。」
周囲を見渡す。
食材を抱えて歩く人。
子どもたちを追いかける親。
荷物を運ぶ商人。
どこを見ても、人々の暮らしで溢れていた。
「この先には噴水広場がある。」
「噴水広場?」
「あぁ。待ち合わせや休憩によく使われる場所だ。」
「もうすぐ見えてきますよ。」
少し歩くと、視界が開けた。
「ここが噴水広場だ。」
広場の中央では大きな噴水が陽の光を受けてきらきらと輝き、水音が心地よく辺りへ響いている。
ベンチでは談笑する人々や遊ぶ子どもたちの姿があり、穏やかな時間が流れていた。
「落ち着く場所だね。」
「休憩にちょうどいいんですよ。」
「おいおい、休憩はまだ早いぞ。」
その言葉に思わず僕たちは笑い合った。
本当にいい街だ。
昔の僕も、この景色を見ていたのだろうか。
この街を歩き、笑い合う人たちを見て、同じように穏やかな気持ちになっていたのだろうか。
答えは分からない。
それでも、この景色を好きだと思う気持ちだけは、今の僕自身のものだった。
「……すみません。」
不意に後ろから穏やかな声が聞こえた。
振り返ると、一人の青年がこちらに歩いてくる。
黒い髪に、深い紫の瞳。
どこか旅人のような身なりをした青年は、柔らかな笑みを浮かべていた。
「少し、お尋ねしたいことがあるのですが。」




