第二話 任務へ
工房を出ると、朝の陽射しが眩しかった。
「さて、本題だ。」
セレスがこちらに視線を向ける。
「今回の任務は街の視察だ。」
セレスは落ち着いた口調で続ける。
「具体的には、何をすればいい?」
「街全体の巡回になる。怪しい者がいないか、何か問題が起こっていないか、見て回って欲しい。」
「分かった。任せて。」
「あと、これを持っていけ。」
セレスは手のひらに収まるほどの端末を差し出した。
「これは?」
僕は端末を受け取り、手のひらの上で軽く眺める。
「LINKだ。通信や任務連絡に使う。」
「医療班でも同じものを使っていますよ。」
確かに、セレナが似たようなものを持っていたような気がする。
「もらっていいの?」
「黎明の翼の支給品だ。気にせず持っていけ。」
小さく頷いた後、僕は腰のポーチにLINKをしまった。
「今回同行するもう一人とは、街門で合流する。」
セレスはそう告げると、僕たちに視線を向けた。
「行ってこい。」
街へ向かおうと、歩き出したその時だった。
「……ノエル。」
セレスが僕の名前を呼んだ。
振り返ると、セレスは静かに僕を見つめていた。
「何?」
少しの沈黙のあと、セレスはゆっくりと口を開く。
「帰ってくるまでが任務だ。いいな。」
その言葉に、自然と頬が緩んだ。
「行ってきます。」
気づけば、そんな言葉が口に出ていた。
僕とリリアは黎明の翼を後にし、街へ続く道を歩き始めた。
穏やかな風が頬を撫でる。
腰には、十年ぶりに戻ってきた剣。
その重みを確かめるように、そっと柄へ手を添えた。
「剣、重くないですか?」
「少しね。でも、不思議と持ちづらさはないんだ。」
柄を軽く撫でる。
初めて手にしたはずなのに、どこか懐かしい感覚が残っていた。
「きっと、身体が覚えているんですね。」
リリアはどこか嬉しそうに微笑んだ。
「……そうなのかな。」
少しの間、二人で並んで歩く。
「そういえば、そのLINKのことなんですが……」
リリアは僕の腰のポーチへ視線を向ける。
「使い方はご存じですか?」
「いや、実は全然分からなくて。」
「そうですよね。」
リリアは苦笑しながら頷いた。
「大丈夫です。街へ向かいながら、説明しますね。」
リリアは内ポケットからLINKを取り出した。
「この端末は魔力を少し流すと起動するんです。」
そう言って、リリアは端末の画面を光らせる。
その様子を見ていた僕は、無意識に人差し指で頬をかいた。
「……その魔力を流すっていうのがまだ分からないんだ。」
魔力。
何度も聞いた言葉なのに、その正体はまだ曖昧なままだった。
「じゃあ、まずは魔力そのものの感覚からですね。」
リリアはゆっくりと歩きながら話し始めた。
「魔力は、誰もが生まれつき持っている力です。魔法を使うための源、と考えていただければ分かりやすいですね。」
「みんな持ってるの?」
「はい。多少の個人差はありますが、誰の中にも流れています。」
その時、脳裏によぎったのは十年の眠りから目が覚めた日の夜のこと。
手のひらに灯った、あの小さな金色の光。
あれも魔力の一部だったりするのだろうか。
僕はそっと自分の手のひらを見つめた。
けれど、あの日の光は現れない。
「……何も感じない。」
「それで大丈夫ですよ。」
リリアは穏やかに笑う。
「十年眠っていたんです。急に思い出せるものではありません。」
「そうなんだ。」
「ええ。まずは『ある』ことを知るだけで十分です。」
リリアは微笑みながら、自分のLINKをしまった。
「通信が必要になったら、また一緒にやってみましょう。」
「うん。」
僕たちはそのまま街へ向かって歩き続けた。
初めて訪れる場所。
そこで何が待っているのか、この時の僕はまだ知らなかった。
──────────
街へ近づくにつれ、人々の話し声が風に乗って聞こえ始めた。
大きな門の前では旅人や商人たちが行き交い、荷馬車がゆっくりと列を作っている。
「もう少しですね。」
リリアが前方へ目を向ける。
「あそこで待っているはずです。」
指さす先には、大きな街門が見えた。
その下を旅人や商人たちが絶え間なく行き交っている。
「おーい!そこの二人!」
そこへ近づいた瞬間、一人の男性に話しかけられた。
黎明の翼の制服を着ており、笑顔で手を振っている。
「君たちがノエルとリリアかい?」
「はい。もしかしてあなたが今回同行する──」
「そう!」
男性はリリアの言葉を遮り、自信満々に親指で自分の胸を指す。
「今回、任務の案内を任されたカイルだ!よろしくな!」
屈託のない笑顔につられ、思わず笑みがこぼれる。
「よろしくカイル。」
「君がノエルだな。よろしく!」
勢いよく手を差し出され、反射的に僕も手を重ねる。
「セレス総司令官から話は聞いてるぜ。記憶喪失なんだって?」
「そうなんだ。だから任務について教えてほしい。」
「任せてくれ!こう見えて任務経験は結構あるんだ。……まぁ、実戦は少ないけどな!」
苦笑しながらカイルは言った。
「それで、君がリリアだな。」
「は、はい。よろしくお願いします。カイルさん。」
勢いに押されているのか、リリアは少し戸惑っているようだった。
「早速、街の視察をするか!案内するぜ。」
僕とリリアはカイルの後についていき、賑わう街へと足を踏み入れた。




