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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第四章 初任務
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第一話 剣

目を覚ましてから、約一ヶ月が経とうとしていた。

あっという間だった。

リハビリに始まり、エインとの訓練、クロウとの実戦。

毎日が慌ただしく過ぎていき、気づけば体も少しずつ思い通りに動くようになっていた。


「朝早くから精が出ますね。」


今日もいつものように自主訓練をしていると、不意に聞き慣れた声が届く。


「今、お時間ありますか?」


「もちろん。どうしたの?」


「セレスさんから、ノエルさんと一緒に中庭に来てほしいと連絡がありました。」


「セレスが?」


「はい。」


どうしたんだろう。

でもここ数日、セレスの顔を見ていない。


「じゃあすぐに準備するよ。」


僕は木剣を片付けるために、早足で武器棚へ向かった。


──────────


穏やかな風が頬を撫でる。

中庭に踏み入れると、中央に立つ大樹が真っ先に目に入った。

初めてここに訪れた日と変わらず、どこか全て見守るように静かに枝を広げている。

その木の下で、白銀の髪をなびかせたセレスがこちらを待っていた。


「セレス。」


セレスに向けて片腕を上げる。


「来たか。」


「はい。何かお話があると聞きました。」


セレスは小さく頷く。

そして僕の前に立つ。


「今日、お前に初任務を命じる。」


その言葉に、思わず息をのむ。


「……初任務。」


「内容は街の視察だ。危険度は低い。だが、現場を知るには十分だ。」


「分かった。」


セレスはリリアに視線を向けた。


「リリアには同行をお願いしたい。」


「はい。でも、二人だけですか?」


「いや、もう一人いる。そいつとは現地で合流するよう命じた。任務経験も豊富だ。分からないことがあれば遠慮なく聞け。」


「分かりました。」


セレスは静かに頷く。


「……だが、その前にお前に渡すものがある。」


「渡すもの?」


「武器だ。」


思わず息をのむ。

実戦用の武器。

それは、アルバの一員として認められた証なのかもしれない。

目を覚ましたばかりの頃は、歩くことさえままならなかった。

そんな僕が、今こうして武器を手にしようとしている。

胸の奥で、小さな期待が膨らんでいった。


「ついてこい。」


僕はセレスの後について歩き出した。


──────────


黎明の翼(アルバ)本部の別棟。

そこでは、作業着を着た人たちが忙しなく働いていた。

金属を打つ甲高い音が建物の外まで響き、熱気を含んだ空気が辺りを包んでいる。

セレスは金属製の扉を開いた。


「入るぞ。」


中へ足を踏み入れる。

炉の熱気が肌を包み、鉄の匂いが鼻を突いた。

壁には大小様々な剣や槍、棚には整然と並べられた武器が置かれている。

奥では真っ赤に熱した鉄を打つ音が、一定のリズムで響いていた。


「すごい……!」


思わず声が漏れる。


「ここが黎明の翼(アルバ)専属の工房だ。」


セレスは静かに言う。

これが工房……!

工房の中を見回していると、部屋の奥で槌を振るっていた人物がこちらに気がついた。

長い白髭を蓄えた、小柄ながらも逞しい体つき。

ドワーフ族だ。


「セレス様!」


満面の笑みを浮かべると、ドシドシと床を鳴らしながら駆け寄ってくる。


「お待ちしてました!……それにノエル君!」


こちらを見る琥珀色の瞳は、嬉しそうにきらきらと輝いていた。


「やっと顔を合わせられたよ!」


「……ごめん、まだ思い出せていないんだ。」


するとドワーフは大きく笑う。


「気にしなくっていいよ!思い出なんて、これから作ればいいんだからさ!」


その笑顔に少し肩の力が抜ける。


「紹介しよう。」


セレスは僕へ視線を向けた。


「鍛冶師のフィンだ。」


「よろしくね、ノエル君!」


勢いよく差し出された手に、思わず笑みがこぼれる。


「よろしく、フィン。」


大きなその手に僕の手を重ねた。


「うんうん!聞いていたより、元気そうで安心したよ!工房のみんなも『いつ来るんだろう』って待ってたんだから!」


フィンが工房の奥へ振り返る。


「兄貴ー!来たよー!」


「兄貴?」


金属を打つ音が止む。

炉の奥から、一人のドワーフがゆっくり歩み寄ってくる。

長い白髭を胸元まで蓄えたその姿からは、長年工房を支えてきた職人の風格が漂っていた。

無駄のない足取りで僕の前へ立つと、一度だけ僕を見つめる。


「……ノエルか。」


低く落ち着いた声だった。


「工房長のガロンだ。」


セレスが軽く紹介をすると、ガロンは小さく頭を下げた。


「……よろしく。」


「こちらこそよろしく、ガロン。」


ガロンは静かに僕を見つめる。


「兄貴!それだけ!?」


「……十分だ。」


「もー!だからみんな最初は怖がるんだよ!」


ガロンは何も言わず、ただ小さくため息をついた。


「ガロン。例のものは?」


「……持ってくる。」


ガロンは再び工房の奥へと入っていった。

しばらくすると、何かを持って戻ってきた。


「……十年。お前が帰ってくるのを信じて、手入れを続けてきた。」


ガロンは一本の剣を、両手で静かに差し出した。


「これがお前の剣だ。」


「僕の剣……」


恐る恐る柄へ手を伸ばす。

指先が触れた、その瞬間だった。

胸の奥で、言いようのないざわめきが広がる。

懐かしいような、切ないような。

初めて触れるはずなのに、不思議と違和感はなかった。

ゆっくりと握り締める。

まるで、この手に馴染むことを知っていたかのように、剣は自然と収まった。


「……。」


思い出せない。

それでも、この剣だけは僕を覚えていてくれた。

そんな気がした。

静かな重みが、手の中に確かにあった。


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