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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第三章 新たな一歩
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第四話 積み重ね

翌朝。

窓から差し込む朝日で目が覚める。

病室とは違う、木の香りが鼻をくすぐる。

……そうだ。

昨日から、この部屋で暮らし始めたんだった。


「痛っ……!」


体を起こした瞬間、全身が軋むように痛んだ。

昨日の訓練が、まだ体に残っている。

クロウには、一度も届かなかった。

悔しかった。

でも、その悔しさは嫌なものじゃない。

……今日は、昨日より少しでも前へ。

そんなことを思いながら、僕は制服へと着替えた。


食堂へ向かう途中、すれ違う隊員たちが笑顔で声を掛けてくれる。


「おはようございます、ノエルさん。」


「お、おはよう。」


まだ慣れないやり取りに、少しだけ照れくさくなる。


やがて、食堂から朝食の香りが漂ってきた。

焼きたてのパンに、温かなスープ。

食欲をそそる香ばしい匂い。


「……いい匂い。」


自然と足取りが軽くなる。

扉を開けると、賑やかな朝の声が迎えてくれた。

隊員たちは思い思いに朝食を囲み、あちこちから楽しげな笑い声が聞こえてくる。


「おはようございます、ノエル様。」


最初に声を掛けてくれたのはシリルだった。

いつもの穏やかな笑みを浮かべ、一礼する。


「おはよう、シリル。」


「朝食のご用意ができております。皆様がお待ちですよ。こちらへどうぞ。」


シリルが案内した先では、エインが片手を上げて笑っていた。


「おーい、こっちだ。」


「おはようございます、ノエルさん。」


エインの隣では、リリアが穏やかに微笑んでいる。


「おはよう。」


軽く手を上げて応え、席に座ろうとした。


「っ……」


椅子を引こうとした瞬間、足に鈍い痛みが走る。

思わず動きを止める。


「やっぱり筋肉痛か。」


「え?」


「歩き方を見れば分かる。」


そう言われてみれば、無意識のうちに体を庇って歩いていたのかもしれない。


「大丈夫ですか?昨日は本当に頑張っていましたから……」


「昨日の訓練で、体中が痛くて……」


苦笑しながら、椅子に腰を下ろした。


「無理はしないでくださいね。」


リリアはそう言って、焼きたてのパンが入った籠を僕の方へそっと寄せた。


「朝ご飯をしっかり食べれば、少しは楽になりますよ。」


「ありがとう。」


すると、タイミングよくシリルが朝食を持ってきた。


「今日は目玉焼きでございます。」


カリカリに焼かれたベーコンの上に、満月のような黄身の目玉焼きが乗せられていた。

あの香ばしい匂いは、このベーコンから漂っていた。

僕は両手を合わせ、小さく呟く。


「いただきます。」


焼きたてのパンは温かく、目玉焼きは胡椒が効いていて、香ばしいベーコンによく合った。


「で、どうだったんだ。」


「どう?」


「訓練だよ、訓練。やってみてどうだった?」


昨日の訓練が頭を過(よ)ぎる。

厳しかった。

痛かった。

きつかった。

だけど──


「……悔しかった。」


初めに出た言葉はこれだった。


「そう思えただけ、十分だ。」


その言葉とともに、エインは目を細める。


「昨日は実戦訓練だったんだろ?」


「うん。手も足も出せなかったよ。」


「ちゃんと手加減はしてると思うぜ。」


「あれで手加減してたの……?」


思わず言葉をこぼすと、エインは苦笑した。


「あいつなりの教え方だ。悪気はないんだよ。ちょっと不器用なだけだ。」


「そうなんだ。」


「クロウさん、昔からああいう方ですから。」


リリアは小さく微笑む。


「不器用ですけど、とても真っ直ぐな人なんです。」


昨日の訓練を思い返す──


『体勢が悪い。』


『それじゃ次が繋がらねぇ。』


『……剣を見過ぎだ。』


厳しい言葉ばかりだった。

でも、ただ振り回されていただけじゃない。

一つ一つ、僕の欠点を教えてくれていた。

あれは僕を打ち負かすためじゃない。

強くするための訓練だった。


「ま、今回は俺が見る。」


「エインが?」


「んだよ、不服か?」


「違うよ。ただ、クロウと約束したから……」


「約束?」


「『明日も同じ時間だ』って。」


「あいつらしい。」


エインは納得したように頷く。


「でも、今日は俺が担当だ。」


「急に変えたりして、大丈夫なの?」


「基礎訓練をするって言えば納得すると思うぜ。あいつは実戦で教える方が性に合ってるからな。」


そう言ってエインは悪戯っぽく笑う。


「じゃあ、よろしく。」


「おう。」


「でも基礎訓練って何するの?」


「説明するより、見せた方が早い。」


エインは立ち上がり、大きく伸びをした。


「飯を食ったら訓練場だ。」


「分かった。」


僕は残っていたパンを口に運ぶ。

今日は昨日とは違う。

焦らず、一歩ずつ積み重ねていこう。

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