第二話 訓練
部屋を見て回ったり、本棚に並ぶ本を眺めたりしているうちに、気付けば昼が近づいていた。
「ノエル様。」
シリルが穏やかに口を開く。
「先ほど、セレス様よりお呼びがございました。」
「セレスが?」
「はい。お時間がよろしければ、訓練場までお越しいただきたいとのことです。」
「訓練場……?」
思わず呟くと、隣にいたリリアも少し驚いたように目を丸くした。
「ご安心ください。戦闘ではなく、セレス様からお話があるとのことです。」
「……分かった。すぐに行くよ。」
少し不安を抱えながらも、訓練場へ向かうことにした。
──────────
シリルに案内され、リリアと共に訓練場へ向かう。
廊下に進むにつれ、遠くから掛け声が聞こえてきた。
木剣のぶつかり合う乾いた音も、訓練場から響いている。
「毎日訓練しているんだね。」
「はい。」
リリアが静かに頷く。
「皆さん、朝の訓練は欠かしません。」
訓練場へ足を踏み入れる。
そこでは大勢の隊員たちが汗を流していた。
その中央では、クロウが隊員たちを指導している。
「踏み込みが浅い!もう一度だ!」
厳しい声が訓練場に響く。
そんな様子を少し離れた場所から、一人の女性が静かに見守っていた。
白銀の長い髪。
黄金色の瞳。
総司令官──セレス・ルミエール。
僕たちが近づくと、セレスがゆっくりとこちらを振り返った。
「来たか、ノエル。」
わずかに口元を緩めた。
「あの、話って?」
「あぁ。セレナからお前の容態を聞いた。」
セレスがじっと僕を見つめる。
「そろそろ戦闘訓練を始めてもいい頃合いだと思ってな。」
「え!?」
思わず声を上げる。
「なに、初めから厳しい訓練をしろとは言わん。」
「……本当に大丈夫なんですか?」
リリアも心配の声を上げる。
するとセレスの目が少しだけ変わった気がした。
「仲間を守るためには力が必要だ。」
真剣な眼差しだった。
自然と自分の手に視線を落とす。
守るための力……
「だから、お前にはもう一度剣を握ってもらう。」
セレスの静かな一言が、胸の奥へ深く響いた。
僕は一度、深く呼吸をする。
「……分かった。」
僕が頷いた、その時だった。
「そこまでだ。」
クロウの低い声が訓練場に響く。
隊員たちが一斉に姿勢を正した。
「ありがとうございました!」
訓練場へ力強い声が響き渡る。
クロウが隊員たちを一瞥すると、そのままこちらに歩いてきた。
「話は終わったか。」
「ちょうど今終わったところだ。」
セレスが静かに答える。
クロウの視線が僕へ向く。
記憶を探るような目ではない。
戦う者を見る目だった。
「……本当にやるんだな。」
「本人も了承した。」
セレスの言葉に、クロウは小さく息を吐く。
「そうか。」
クロウが一歩前に出る。
「なら、俺が預かる。」
「あぁ、頼む。」
クロウが僕へ向き直る。
「付いてこい。」
ぶっきらぼうな一言だった。
それでも、不思議と迷いはなかった。
「うん。」
僕はクロウの背中を追って、ゆっくりと歩き出した。
後ろでは、セレスたちがその様子を静かに見守っていた。
「……大丈夫でしょうか?」
リリアが不安そうに呟く。
「心配か。」
セレスは視線を逸らさず、小さく答える。
「はい。目覚めたばかりですから……」
リリアも視線を逸らさず、心配そうに見つめる。
「だからこそだ。」
セレスは静かに告げた。
「戦う力は、一日でも早く取り戻さなければならない。」
セレスはわずかに目を細める。
「生き抜くためにな。」
リリアは何も言えず、ただノエルの背中を見つめた。
クロウが武器棚から二本の木剣を取り出す。
その内の一本を僕に差し出す。
「使え。」
僕はそれを受け取った。
「重い……」
思っていたよりも、ずっと。
クロウは自分の木剣を肩に担いだ。
「握ってみろ。」
言われるまま、柄を握る。
……不思議だった。
初めて触れたはずなのに、手だけは迷わなかった。
自然と木剣を構えていた。
それを見たクロウは、わずかに目を細める。
「……型は残っているのか。」
小さく呟くと、自らも木剣を構えた。
「始めるぞ。」




