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Memory 〜時紡ぎの旅路〜  作者: Rin凜Lin
第三章 新たな一歩
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第一話 扉の向こう

朝日が病室の窓から静かに差し込む。

柔らかな光が白い部屋を優しく照らしていた。

ゆっくりと目を開く。

見慣れた白い天井。

目覚めたあの日は、この場所がどこなのかさえ分からなかった。

けれど今は違う。

少しずつ歩けるようになり、仲間と食卓を囲み、笑うことも増えた。

思い出せないことは、まだたくさんある。

それでも、この場所で過ごす時間は、不思議と心を落ち着かせてくれた。


コンコン──


「失礼します。」


扉が開き、セレナが穏やかな笑みを浮かべて入ってきた。


「おはようございます、ノエルさん。」


「おはよう、セレナ。」


「それでは少し診させてくださいね。」


セレナがそっと僕の手に触れる。

すると、彼女の手に淡い光が灯った。


「痛むところはありませんか?」


「うん。昨日より体が軽い気がする。」


セレナは優しく微笑む。


「順調ですね。」


セレナは端末を操作し、手際よく記録を残していく。


「歩行も安定していますし、今日から病室を出ても問題なさそうです。」


その言葉に一瞬、目を見開く。


「本当なの?」


「えぇ。もちろん、無理は禁物ですけどね。」


病室をゆっくりと見渡す。

白い天井。

柔らかいベッド。

朝日が差し込む窓。

何日ここで過ごしたんだろう。


「……ありがとう。」


気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。


「医療班として当然のことをしたまでですよ。」


セレナは笑顔で返した。


コンコン──


再び扉が叩かれる。


「失礼いたします。」


シリルが丁寧に頭を下げて部屋に入ってきた。


「お部屋の準備が整いました。」


「部屋……?」


思わず聞き返す。


「はい。今日から病室ではなく、ご自身のお部屋でお過ごしいただきます。」


少しだけ胸が高鳴る。

僕の部屋。

記憶はなくても、昔の僕が過ごしていた場所。


「案内してもらってもいいかな?」


「もちろんでございます。」


シリルは穏やかに微笑み、一礼した。


「では、ご案内いたします。」


セレナはそっと端末を閉じる。


「私はここまでですね。」


「ありがとう、セレナ。」


「何かありましたら、いつでも医療棟へ来てくださいね。」


「うん。」


ベッドから立ち上がり、セレナに軽く頭を下げてから、シリルと共に病室を後にした。

病室を出て数歩進んだところで、ふと足を止めた。

名残惜しかったのかもしれない。

振り返ると、セレナが穏やかな笑顔で見送ってくれていた。


病室を出てから数分。

シリルに案内されながら、居住棟の廊下を歩く。

行き交う隊員たちは足を止め、穏やかな笑顔で挨拶を交わしてくれた。


「おはようございます、ノエルさん。」


「おはよう。」


少し照れくさりながらも、僕も挨拶を返す。

知らないはずなのに。

それでも、こうして名前を呼ばれるたびに、この場所で過ごしてきた時間が確かにあったのだと感じられた。

廊下を歩いていると、向こうから見覚えのある藤色の髪が揺れた。


「あ、ノエルさん。」


リリアだった。

小走りでこちらへ駆け寄ると、ほっとしたように笑みを浮かべる。


「シリルさんから、お部屋へ向かわれると聞いたので。」


「そうだったんだ。」


「……少し気になってしまって。」


照れくさそうに微笑むリリアを見て、思わず笑みがこぼれる。


「じゃあ、一緒に行こう。」


「はい。」


リリアは嬉しそうに頷いた。

シリルはそんな二人を見て、小さく微笑む。


「お話をしているうちに、もう到着しております。」


シリルが一枚の扉の前で足を止めた。


「こちらが、ノエル様のお部屋でございます。」


目の前には木目調の落ち着いた扉。

ここが、十年前まで僕が過ごしていた部屋。

どんな時間を過ごしてきたのだろう。

静かに息を吸い込み、ドアノブへと手を伸ばした。


扉を開けると、朝日が静かに部屋を照らした。

木の温もりを感じる机やベッドが並び、使い込まれた本棚が壁際に置かれている。

初めて見るはずの部屋。

それなのに、どこか懐かしい気がした。


「お部屋は、以前のまま残しております。清掃だけは続けておりました。」


「ずっと?」


「もちろんでございます。ノエル様の帰る場所ですから。」


「……ありがとう。」


シリルは微笑みながら一礼した。

僕は机に近づき、そっと天板を撫でた。

その流れで椅子に座ってみる。

……不思議と落ち着く。


「いかがでしょう?」


僕は部屋をもう一度見渡した。

机。

本棚。

窓から差し込む朝日。

どれも初めて見るはずなのに、不思議と心が落ち着いた。

ゆっくりと息を吐く。


「……うん。」


自然と笑みがこぼれた。


「すごく気に入ったよ。」


その言葉を聞いたシリルは小さく微笑む。

隣では、リリアもどこか安心したように胸を撫で下ろしていた。

部屋にはしばらく静かな時間が流れる。

誰も言葉を発さない。

それでも、その沈黙はどこか心地良かった。


ふと、机の上に置かれていた小さな写真立てが目に入った。

僕は気になって、そっと手に取る。


「……昔の写真です。」


リリアが静かに隣へ並ぶ。


「これが今の大樹なんですよ。」


写真の中央には、まだ人の背丈しかない一本の苗木が写っていた。

あの大樹がこんなにも小さかっただなんて。

思わず、写真と外の大樹と見比べる。

……こんなにも大きく育つんだ。

写真をそっと机へ戻す。

静かな朝の空気が部屋を満たしていた。


「……よろしく。」


誰に向けての言葉なのか、自分でも分からない。

それでも、その一言は自然と口をついて出ていた。


新しい一日が、静かに始まろうとしていた。

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