21
本署に立ち寄った俺は、拳銃を保管庫から取り出していた。
実弾を拳銃に込め、肩から掛けたホルダーに入れる。
「行くぞ!」
道中で拾ったタクシーに戻り、神社へ向かう。
神社に向かうと、相変わらず人の気配はない。
「やっぱりいない……」
大学生とともに再び、本殿の中に入り、階段を下りていく。
「……いますよ。隠れているだけです」
失踪していた大学生は、確信するかのように俺に言う。
俺たちは本殿の下の階につき、再び両開きの扉を開ける。
「これは!」
あの長方形の台の上に、失踪した社会人女性が戻っている。相変わらず白い服を羽織り、うつろな目でこっちを見て仁王立ちしている。
周りには、彼女を囲むようにたくさんのろうそくが円になって並んでいる。
どこからともなく声が聞こえてくる。
「さぁ、儀式を始めましょう!」
部屋の奥からぞろぞろと人々が現れる。神社の神主筆頭に、あの、両目の黒目が左右離れている男、自宅近くのスーパーの店員、医者、様々な人々が現れる。
「お前たち、全員動くな!」
俺は、拳銃を取り出し人々に向かい銃口を向けた。奴らの群れは、拳銃にもビビらず俺たちにじわじわと近寄ってくる。
「止まらないと撃つぞ!」
俺は大声で叫び、再び警告する。
「なぜ私たちの邪魔をするのです? あなたも望んでいたことでしょう?」
神社の神主は、俺たちに近寄りながら訳の分からないことを言い出す。すると、失踪していた大学生は叫んだ。
「母を返せ!」
唖然とした俺は、叫んだ大学生を見る。大学生は、近寄ってくる神主を物凄い形相で睨んでいる。
「あなたの母は、私たちの救世主となったのです。あなたの父も喜んでくれております」
「お前たち、その女性に何をしたんだ!」
俺は、神主に台の上に立つ失踪していた社会人女性のことを尋ねる。神主たちは動きを止める。
「あなたは、よく戻ってきてくださいました……あの方もお喜びです」
「何……?」
「雨が降っていたでしょう?」
そういえば俺は、この神社に行く度に雨に見舞われていた。
「あれは、あなたをお迎えしているのです。ささ、あなたもあの女性の方と同じように……」
神主は、簡単に俺を失踪していた社会人女性の元へと案内する。
「行っていいのか……?」
すると、失踪していた大学生が叫んだ。
「行くな!」
物凄い剣幕で、神主を睨んでいる。
「あなたは邪魔をしてはいけませんよ? これを見なさい」
神主が後ろを向く。すると、後ろに立っていた人々が前に出る。
みんな、失踪した大学生の大学で見かけた人々だった。
「そんな……お前たちまで……」
「彼らも私たちに尽くすようになりましたよ? あなたも尽くしなさい。それが賢明な判断です」
どうやらこの宗教の信者はこの国にたくさん存在しているらしい。
「さぁ来てください……」
神主は、俺に女性の元へ行くよう促す。項垂れている失踪した大学生を後にして、俺は女性の元へ向かう。
失踪していた社会人女性の元に向かうと、女性は、両手を広げ白目を剥き、何やらぶつぶつ呟いている。
「ブッディヤスヴァ。アハン 、ヤジュニョースミ……」
俺は声をかけてみる。
「おい」
「ブッディヤスヴァ。アハン 、ヤジュニョースミ……」
「おい」
「ブッディヤスヴァ。アハン 、ヤジュニョースミ……」
「おい」
「ブッディヤスヴァ。アハン 、ヤジュニョースミ……」
「おい!」
瞬間、ぶつぶつ呟いていたのが止まった。今度は両目を元に戻し、一言呟く。
「来た……」
瞬間、とてつもない地響きが起こった。辺りがぐらぐらと揺れだし、そして収まる。
再び、地響きが起こる。そして、すぐに収まる。
それが、何回も起こり続ける。俺は気づいた。
「何かが、こっちに来てる……」
俺の目の前の暗がりに、何かとてつもなく巨大なものがこっちに向かって近寄ってきていた。
周りの人間たちが歓声を上げる。
「我々の言葉に応えてくださった!」
「ああ神よ! 我々を救いたまえ!」
瞬間、大きな銃声が起こり、俺は後ろを振り向いた。
目の前で、神主が血を出し倒れていた。
「うっ……ぐふっ」
胸から血を流し、うつぶせに倒れている。
「逃げろ!」
銃口から硝煙を出している改造拳銃を構えながら、失踪した大学生が叫ぶ。俺は頷き、無理やり失踪していた社会人女性を抱きかかえた。
「待てぇー!」
「逃がすなぁー!」
瞬間、周りにいた人々が大声を上げて逃げる俺と大学生に走り寄ってくる。すると、再び地響きが起こった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
何かの鳴き声だった。それと同時に、物凄く速い音で何か大きい物が近寄ってくる。
俺たちは唖然とした。
そこに、下半身が蛇になった、巨大な半裸の長い髪の女がいた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
女は、俺たちの目の前に現れると、俺と女性を捕まえようと右手を振り落とす。俺はそれを何とかよけ、一心不乱に後ろにいる大学生の元へ走っていく。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
女は叫んでいる。目の前にいるたくさんの人間たちが邪魔だったのか、両手で人間たちを左右に吹っ飛ばしていく。そうしながら、走って逃げる俺たちを追ってくる。
尻尾みたいになった下半身を引きずりながら、俺たちを一生懸命追ってくる。
何とか、部屋の両開きの扉にたどり着き、扉を閉める。しかし、扉は閉まらず、諦めて俺と大学生は階段を上る。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
女は、俺たちを追ってくる。失踪していた大学生は逃げながら叫んだ。
「母さん! やめて!」
どうやら、あの体が尻尾だけの化け物は、失踪した大学生の母親だったらしい。
「もういいだろ! こんなことしないで!」
走りながら、叫び続けている。
地上に出て、真っ先に本殿を出る。そして、社会人女性を下ろし、二人で賽銭箱を持ち上げ、階段入り口を賽銭箱で無理やり塞ぐ。
ドン!と音が数回したが、賽銭箱は壊れず、何もかもが静かになる。
「……」
抱きかかえていた社会人女性は放心状態のまま、きょとんとした顔で賽銭箱を見つめている。俺たちはその場に倒れ、息も絶え絶えにごろんと仰向けになる。
「なんなんだあれ……」
俺は、安堵しながら呟いた。




