茶会
扉が控えめに叩かれる。
「お嬢様、よろしいでしょうか」
「……どうぞ」
入ってきた侍女の手には、数通の封筒があった。銀の盆の上に整然と並べられている。どれも厚みがあり、装飾も見事だ。
「本日届いた招待状にございます」
差し出される。視線を落とす。どれも似ている。過剰な装飾、整いすぎた書式、丁寧すぎる言葉。
(……同じね)
一度目も、二度目も。こうして届いて、そして
——選ばなかった。
必要ないと切り捨てた。関わらない方がいいと、決めていた。
指先で一通をなぞる。開かない。分かっている。どれも同じだ。
そのまま視線を滑らせて——止まる。
一通だけ、違う。飾りが少ない。紙質は良いのに、主張がない。
手に取る。軽い。封を切る。
短い。余計な前置きも、媚びた言葉もない。ただ、整っている。
視線が止まる。
「形式に縛られない席です。ご自身の判断でお越しください」
(……)
静かに息を吐く。カードを閉じる。
「……これにするわ」
侍女がわずかに目を見開く。
「かしこまりました」
他の封筒が下げられていく。部屋に静けさが戻る。
選んだ。初めて、自分で。
当日。
庭は整えられ、柔らかな光に満ちていた。白いテーブルクロス、並べられた茶器、控えめな笑い声。
その中心で——一人の少女が前に出る。
恐ろしいほど整った顔立ち。揺らがない視線。場を把握している静けさ。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。ささやかな席ではございますが、どうぞご自由にお楽しみくださいませ」
完璧な一礼。空気が整う。
少女——セレフィーナは自然に歩き出し、一人ひとりに過不足のない言葉をかけていく。
やがて足がこちらの前で止まる。わずかな間。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。公爵家のお方をお迎えできて光栄です」
形式通りの言葉。それだけで終わるはずだった。
「……お目にかかれる機会を、楽しみにしておりました」
視線が重なる。
(……見られている)
ただの社交辞令ではない。
「ご招待いただき、ありがとうございます。素敵な席ですわ」
静かに返す。セレフィーナは小さく頷き、次へと移る。
それだけなのに、胸の奥にわずかな違和感が残る。
席に着く。会話が流れる。穏やかに見えて、その下では探り合いが続いている。
「最近は、あまりお見かけしませんでしたわね」
声が向く。柔らかな笑み。けれど意味ははっきりしている。
(来た)
視線を上げる。周囲が静かにこちらを見る。
前なら言い返していた。あるいは黙っていた。どちらでも結果は同じだった。
「ええ、少し控えておりましたの」
静かに答える。角は立てない。でも引かない。空気がわずかに揺れる。
そこで——
「それは少々、失礼ではありませんか?」
場が止まる。視線が集まる。
セレフィーナが静かにカップを置いていた。
「出席の頻度で人を測るのは、あまり良い趣味とは思えません」
やわらかな口調。けれど言葉は鋭い。誰もすぐには返せない。
空気が凍る。
(……この人)
理解する。助けられている。
「……失礼いたしましたわ」
令嬢が形だけ頭を下げる。それで終わる。
何もなかったかのように会話が戻る。けれど、もう同じではない。
少し離れた場所でカップを持つ手が止まる。
「……先ほどは」
声をかける。セレフィーナがこちらを見る。
「助かりましたわ」
そう、言葉を口にすると、セレフィーナはわずかに目を細めた。
「事実を申し上げただけです」
取り繕いのない答え。
(……違う)
周りとは明確に。
「……また、お話しできれば」
それだけを残す。セレフィーナは小さく頷いた。
庭を後にする。振り返らない。確かに、何かが変わった。
それでも——まだ、一人だ。けれど。
「……悪くない」
小さく呟き、歩き出す。




