静寂と砂時計
図書室は、静かだった。重い扉を閉めると外の音が遠ざかり、紙の匂いと乾いた空気だけが残る。
この場所も、知っている。奥へ進む。迷わない。一度も来なかったはずの道を、ためらいなく辿る。棚の並び、窓の位置、光の差し方。変わらない。変わっていないからこそ、分かる。
机に手をつく。指先がわずかに冷える。息を吐く。ここなら、考えられる。
目を閉じる。婚約破棄、断罪、斬首——順番も言葉も鮮明に残っている。
目を開ける。近くの棚から年代記を一冊抜き取り、ページをめくる。指が止まる場所も分かっている。そこに書かれている日付を目でなぞり、自分の年齢に当てはめる。
静かに、数える。
……一つ、二つ、三つ。
指が止まる。
「——三年」
声が落ちる。
入学までの時間。
思ったよりも、短い。
息が浅くなる。けれど、そこで終わりではない。
ページを、さらにめくる。知っているはずの先を、なぞる。逃げた記憶の、その先へ。
指先が、止まる。
「……六年」
今度は、声にならなかった。
(ここで、終わる)
入学は、始まりに過ぎない。すべてが動き出す場所。そして——逃げ場がなくなる。
本を閉じる。音がやけに大きく響く。
三年で備える。六年で、抗う。
視線を落とすと、ページの端に別の文字が目に入る。年代記ではない。引用された古い記述。“繰り返し”に関する断片。
指先でなぞる。曖昧で、具体性はない。それでも完全に無関係とは思えなかった。
ある。
確信ではない。けれど、切り捨てられない。同じものが他にもあるはず。もっと古いもの、もっと体系だった記録。
本を棚に戻し、別の一冊を取る。革張りの重い本を開く。読める。問題ない。けれど求めているものではない。閉じる。次へ、また次へ。
静かな時間が流れる。外の気配は遠い。ここには音がない。だからはっきりする。
残り時間は、減っていく。
ページをめくる手が、ほんの一瞬だけ止まる。迷いが浮かぶ。前は避けた。関わらなかった。それで、変わらなかった。
違う。
ゆっくり息を吐き、目を開ける。ページをめくる。止めない。探す。知らないことを埋めるために。変えるために。
椅子を引いて座り、本を広げる。光が紙の上に落ちる。
静かな空間の中心で——時間だけが、確かに進んでいた。




