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勇者は王妃の『推し』ですわ!  作者: gen.
第二章

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17/43

17. 王妃の戦い





 吹き込む木枯らしが、わたくしの纏うマントの裾をはためかせる。

 季節はすっかり冬の始め。色鮮やかだった正門前広場や植え込みの葉もすっかり枯れ落ちて、寒々しくなった。日差しはあっても、それ以上に風が、空気が冷たい。

 ふう、と吐き出した吐息が白く色づくのももうすぐだろう。


「……今日も、来ないのかしらね」


 朝の散歩の後、こうしてバルコニーへ来るのはすっかり日課となってしまった。

 ここは正門前広場がよく見える。正門前広場から繋がる跳ね橋と、城門、城下町への坂道も。

 陛下からの伝令が来るなら、昼時か夕刻か、いずれにしても明るいうちだろう。

 だが日が昇っている時間はどんどんと短くなりつつある。だからわたくしは、昼や夕刻だけでなく、こうして朝もバルコニーへ立つようになった。

 三週間。待ち続けるなか一度も来ない伝令が来たなら、真っ先に見えるだろうこのバルコニーに。


「ッ……」


 ぞく、と背筋に走った寒気に、思わず肩を竦めた。マントの中で自身の腕を摩るが、それでも嫌な寒気が纏わりついて離れない。

 ああ、いやだ。いつまでたってもこの寒気は、不快な思いにさせてくれる。

 まるで楽しい、幸せな記憶を掻き消していくかのような、お前のそれらはすべて夢幻だったのだと思わせるかのような――――


「――――やはりこちらにいらっしゃいましたか。妃殿下」

「……」


 わたくしは振り向かなかった。相手もそれが解っているかのように、ゆっくりとした靴音を響かながらわたくしの方へとやってくると、そのままわたくしの隣に並ぶ。

 視界の端に、その長い黒髪がちらついた。


「長時間、こうも寒いなかお外に立たれますのは、お体に障りますよ」


 心からわたくしを案じていると言わんばかりの、穏やかに言い聞かせる声。

 陛下が出立されてから、否が応にも毎日のように聞くようになった。


「朝議は終わったのかしら、摂政」

「滞りなく、妃殿下」


 宰相――いまは摂政だが――トリスタンは、昔からわたくしの態度がどれだけ刺々しくてもいつだって穏やかなままだった。


「なにか変わりはあって?」

「お耳を煩わせるようなことはなにも。今年も各地方からの徴税滞りなく、いずれも王城へと届いております」


 そして、わたくしのことを政治のできない女子供扱いすることもなく、こうして朝議の内容を報告してくる。

 ただ、朝議の報告のために出向いてもわたくしがいない時、こうしてバルコニーまでやってくるのは今朝が初めてのことだった。

 わたくしの隣に並び立つことも。


「そう。ならお忙しい摂政を寒いなか引き留める理由もないわね」

「恐れながら妃殿下、その理由がございまして」


 そこで初めて、わたくしの視線が動いた。

 モノクルをかけた、わたくしがいうのもなんだが年若い――とても、一国の宰相から摂政まで上り詰めたとは思えない――青年が、困ったように眉尻をさげつつ微笑んでいる。


「理由がある……?」

「御身です。殿下」


 わたくしの目がぱちりと瞬くのを見て、その微笑みを深くした摂政は、静かに自身の左胸へ手をあてる。


「私は陛下より妃殿下をよくお支えし、お守りするよう命を受けた身です。その妃殿下をこの寒中へ立たせたまま見過ごしたとあっては、陛下にお顔向けができません」

「……そうやって陛下の名前を出せばわたくしが言うことを聞くとおもっているなら、大間違いよ」

「存じておりますとも」


 至って穏やかなままの彼に、ふう、と観念したような息を吐いてみせた。

 彼の目がわたくしへ注がれるのをそのままに、城門の方へと視線を戻す。


「陛下が発たれて三週間よ。今日こそ伝令が来るかもしれないわ」

「その時は必ず、誰よりも先にお知らせするとお約束いたします。ゆえにいつ来るか判らない者を待たれるのは、どうかお城の中で」

「たったいま王都の門をくぐるところかもしれないわよ。哀れな伝令を誰かが足止めしていなければ、ね」

「殿下……」


 再びの木枯らしに、わたくしは片手でマントの前を合わせた。


「――――恐れながら申し上げます殿下。ここでお待ちされるには、殿下のようなマントを纏わないものもいるのです」


 摂政の声が、とうとう諫める色を帯びた。そこでわたくしは、肩越しにバルコニーから続く小部屋へと視線を流す。

 バルコニーと小部屋を仕切る窓などはなく、木枯らしが吹き込む中、下女と侍女のエディスたちが居並んでいる。

 彼らも当然のように、わたくしがここを離れるまではその場から離れられない。

 そんな彼らのことも案じろ、という摂政の言葉は、配慮のない王妃を諫めるに十分な正しさを持っていた。


「……分かったわよ。今日はお前の勝ちね」

「恐縮です」


 差し伸べられる手に導かれるまま、踵を返した時だった。


「そうそう……陛下からの伝令は着かないけれど、最近別の吉報と一緒に素敵な贈り物が届いたのよ」

「吉報と、贈り物……でございますか?」

「ええ」


 風が吹く。しぶとくなおも枝にしがみついている散り時を知らない枯れ葉を振り落とすかのように。

 わたくしはマントを翻すその風を浴びながら、マントを抑えていた手を外し、もう一方の手を、不思議そうな顔をした摂政にも見えるように翳して見せた。


「あなたのお父上がご回復されたそうよ。そのお祝いに――――この指輪を」


 それは金の指輪だった。つる草と花房を図案化した浮彫が施された以外の装飾はない、よく言えば控えめで、悪く言えば地味といってもいい指輪。

 しかし朝日に輝くその金色を見た摂政の顔は、瞬く間に青ざめ、紙のように白くなった。

 そして次の瞬間には、彼の手がわたくしの指輪を嵌めた手を捉えていた。


「いけません!」


 捉えていた。そう、ほんの束の間だけ。

 わたくしと彼との間に突然現れた球体の水が爆発し、彼を反対の壁へと吹き飛ばしていなければ。


「妃殿下に近寄らないでくださーい」


 下女の一人、の姿をしたゼニラがわたくしの傍らへと進み出ながら言い放つ。彼女の指先に操られた水滴たちは瞬く間に再びわたくしの前へと集まり、透明な球体となってふよりと浮き上がった。

 白い壁に容赦なく叩きつけられた摂政のモノクルが外れ、硬質な音をたてる。そのなかで、彼は壁に手を突き、爆発を受けた腹部をもう一方の手で庇いながらも、なんとか立ち上がった。


「いけ、ません……殿下!その、指輪は……ッ!」

「心配なの?――――冥王の力でわたくしが発狂するのではないかと」

「ッ!?」


 乱れた黒髪の向こうで、苦痛に歪んでいた顔が驚愕のそれへと塗り替わる。


「安心なさい。木っ端のような呪いの残滓は、当代最高峰の僧侶の手で浄化されているから。気分が悪くなるのは確かだけれど」


 そう告げると、わたくしは指輪を外して見せた。きらりと光った指輪の表面にはやはり浮彫の装飾しかないが、裏側にはよくみると小さな貴石が嵌っている。美しくも妖しい、紫色の一粒が。

 すぐさまゼニラとは反対側の傍らに来た下女、の姿をしたヴィオレットが浄化魔法をかけてくれる。

 全身に纏わりついていた寒気が遠ざかっていくのを感じ、わたくしはようやく、本当の意味で一息吐くことができた。


「ふう……それでもお前に行動をとらせるには十分だったようね。摂政――――いいえ、トリスタン・グレイ伯爵」


 ゼニラの水球が動き、控えの小部屋と廊下を挟む扉を激しく叩く。途端に扉は開かれ、控えていた第一騎士団の騎士たちが立ちすくむトリスタンへと突進し、そのまま彼を拘束した。

 自身が後ろ手に戒められてようやく我に返ったのか、トリスタンは苦渋が滲む顔でわたくしを見つめる。


「妃殿下……!私は」

「王命により、中つ国へ瘴気汚染を広げた容疑でお前を拘束します」


 しかしその言葉は続かなかった。わたくしが断ち切った。

 見開かれた緑色の瞳が、彼のそれまでの行動が、何よりの証拠だったから。

 引き立てられた彼は何事かを考え込むように黙り込んだが、その沈黙も指輪をヴィオレットへ預けたわたくしによって破られる。


「ああ、それと……国王の旅程を阻んだ容疑も、ね。もっとも、わたくしは陛下の心配などしていません。あの方にはもとより、この世で最強の守りがついていますから」

「!!ベル、グリンデ、あなたは……!まさか、最初からッ」


 そう、お前ならとっくに気づいてもいい頃でしょう。

 精霊魔法使いのゼニラ、僧侶のヴィオレットがわたくしに控えているのなら、わたくしの夫についているのは――――文字通り最強の存在だ。







 墨色の雲が低く垂れ込む曇天の夜空の下、落ち葉の舞う森中の道で剣戟の音が響いていた。

 そこには単純な剣と剣のぶつかり合いだけではなく、短矢が空を切る音やそれらを弾き返す音、そして骨と骨がぶつかり合う鈍い音も混じっている。


「――――っとに、毎度毎度数だきゃあ多いっす、ねえ!」

「どうした!もう音を上げたか!」

「じょーだん!旦那こそ息上がってんじゃないですかぁ!?」


 襲い掛かってくる覆面の刺客から弩弓を奪った騎士制服姿のタクサスが、矢を撃ち終えたそれで別の刺客を殴りつけ、蹴り飛ばす。

 その愚痴を聞きつけたカイドウは、ほとんど破れている――ただし敵の一撃ではなく、カイドウ自身の筋肉の動きによって――侍従服の残骸を翻しながら飛んできた刺客を掴み、岩のように別方向の刺客へと投げつけなぎ倒した。


「油断するな!一人でも残すとまた追加がくるぞ!!」


 ユーリヒトの一撃を受け止めた刺客とは反対方向から短剣が放たれる。それをユーリヒトは剣先を渦巻くように回し、その勢いに巻き込まれ姿勢を崩した刺客の体で阻んだ。

 呻き声を上げる刺客の背後からとどめの袈裟懸けを放ち、崩れ落ちる体を見届けることなく、侍従服を翻して彼は次へと走る。

 第三騎士団の面々もその実力に違わず奮戦はしていたが、数を減らす速度は勇者ユーリヒトとその仲間たちが圧倒していた。


「ばかな――――たかが三人だぞッ」

「そのたかが三人に何ができるか見せてやろう!」


 おそらく指揮官なのだろう。弓を構える一団の向こうで、一人の刺客が覆面を揺らしながら叫んだのを聞きつけたカイドウの背を蹴り、ユーリヒトが天高く躍り出る。

 本来弓を備えた相手に向かい、空中に出るというのは的にしてくれと言っているようなものである。

 実際、指揮官の「やつを狙え」の号令と共に、弓の一団は正確にユーリヒトへ狙いを絞り、放った。

 それが彼らの最後の一撃となった。


「せー、のッ」


 一瞬の、およそ人の目には捉えられない出来事である。振り上げた剣が曇天を伝い落ちた光を浴びたかと思うと、何かが弾ける音と共に斬撃――――それも雷光を帯びた斬撃が放たれた矢を焼き払いながら一団へと降り注ぎ、辺りが激しい光で白んだ。


「っと」


 ユーリヒトが着地したときには、一団と指揮官のいた場所にはえぐれた地面と、焼けこげ、あるいは両断された人の残骸しか残っていなかった。

 人間離れした跳躍と、魔法と剣技の合わせ技。それを呼吸のように繰り出す存在と相対せる刺客というものが、一体この世にどれだけ存在するというのか。

 指揮官の撃滅を目の当たりにした刺客たちが即座に逃亡へ転じるのを許さず、辺りに散らばる短剣を拾い上げたタクサスがその背中を狙い撃っていく。


「引き際見極めてんのは立派立派――――雇い主さえ間違えなきゃなあ」


 同じく逃亡する相手を前に攻勢に転じた騎士たちだったが、彼らの本来の目的は主君の護衛である。

 逃げ散る刺客たちをなおも追おうとするユーリヒトに対し、その守護の指揮官たるブリンが声を上げた。


「深追いするな!」

「でも――――」


 残せばまた増援を呼んでやってくる。それがこの旅路でユーリヒトたちが経験したことだった。

 そして自分たちなら奴らを追い詰められる、という自覚もあった。

 しかし、それでもブリンは厳然として首を横に振った。


「いまは先に進むことが肝要だ」

「――――ブリンのいう通りだ」

「陛下!お怪我は」

「ない。皆、よくやってくれた」


 馬車の側戸が開き、彼らの守護対象であり、刺客の抹殺対象でもあった国王、エゼルレッドが姿を現す。


「勇者。君たちの脚なら奴らに追いつけるだろうが、その取って返してくる時間の分だけでも、いまは進まなくてはならないんだ」

「……分かりました」


 惜しむように刺客たちが逃げ去った方を見ていたユーリヒトだったが、エゼルレッドの言葉にようやくその剣を納めた。その背中を、カイドウがぽんと叩く。


「よし、負傷者の手当を急げ――隊列を組み直す。夜明けとともに森を抜けるぞ!」


 ブリンの号令に第三騎士団の面々から声が返る。

 刺客たちの奇襲は毎回無傷とはいかなかったが、それでも彼らの士気は高く維持されていた。

 そんな騎士たちを眺めながらエゼルレッドも一つ頷くと、倒れ伏した刺客だったものの覆面をはぎ取った。騎士の一人が明かりを掲げ、彼の見ようとするものを照らし出す。


「……やはり黒の手か」


 これまでの道中でエゼルレッドたちに襲いかかってきたのはただの野盗ではない。黒い手の模様を額に刻まれ訓練された暗殺者集団は、この表世界の闇の一部として、そしてエゼルレッドにとっては反乱時や、のちに聞かされたお家騒動の陰に見え隠れしていたものだ。

 金で動く玄人の集団。しかしそれをこれほどまでに動員するとなれば、その代償は相応のものとなる。


「……なにが君を、そこまでさせるんだ」


 エゼルレッドの問いかけに答えられる存在は、今この場にいない。

 それはすべてが上手くいったなら――あの愛しくも強かな妻ならそうしているだろう――たどり着けるやもしれないものであり、今問うべきことでもなかった。

 死体の検分を終えたエゼルレッドは、何事もなかったかのように立ち上がるとブリンへ端的に命じた。


「死体は道脇に退けておけ。焼かなくていい」

「はっ」


 エゼルレッドが馬車に戻れば、その後ろをユーリヒトがついていく。

 いまのユーリヒトたちはエゼルレッドの護衛を第一任務とし、負傷者の手当などは自分たちにまかせるように、と最初の襲撃時にブリンから言われてのことだった。

 側戸を閉じれば、一旦外のざわめきが遠ざかる。幸いといっていいのか、襲撃を受けても馬車は致命的な損傷を追うことなく、精々車体に矢が刺さる程度で済んでいた。

 向き合って座り直したユーリヒトとエゼルレッドの間に沈黙が落ちる。車窓の外を何とはなしに眺めていたユーリヒトへ、エゼルレッドが声をかけた。


「――――不満か?」


 はっと振り返ったユーリヒトは一瞬それが何に対しての言葉なのか考え込んだが、すぐに先ほどの敵の処理に関してのことだと考え至った。


「いえ、陛下たちのご判断は正しいと思います。俺こそすみません。陛下のそばをあまり離れるなって言われてたのに」

「構わない。私が冒険者だったなら同じことをしていた。寝込みを何度も襲われてはかなわないからな」

「陛下が冒険者……?」


 曇天が静かに過ぎ去ろうとしていた。外の松明の明かりを取り込んだ車窓に照らされたエゼルレッドの顔が、ふ、と緩む。


「知らなかったか。私は二一まで主もなく戦場を渡り歩く遍歴騎士だった」

「ええッ……し、知りませんでした」


 最初から王様なのかと、と独りごちるようにつぶやいたユーリヒトへ、最初から王者である者はいない、と返しつつ、エゼルレッドの顔が外の松明へと向けられる。


「君はいまいくつだったか」

「一八です。あ、今年で一九だったかな……」

「ならベルグリンデと同じ年ごろということか」

「あ、やっぱりそうなんですか」

「ああ、結婚したときは一〇歳だった」

「え」


 先ほどとは違う種類の驚きで硬直したユーリヒトに、エゼルレッドの笑みが苦みを帯びる。


「政略結婚、というやつだ。絵にかいたような、な」

「そ、そうでしたか……」


 ユーリヒトはそれ以外の言葉が見つからなかった。一〇歳。自分が一〇歳のころは何をしていただろうか。魔法の修行がひと段落して、師匠から本格的に武芸を仕込まれていたころだったかもしれない。その時にはヴィオも一緒に暮らしていた――――


「一〇歳の少女とどう接していいか解からず、私たちは八年たっても他人と他人のままだった。そこに現れたのが……君だ、勇者」

「え……俺、ですか?」


 再びエゼルレッドの目がユーリヒトへ向けられ、彼は一つ頷いた。


「ああ。ベルグリンデは君という存在を知って、明確に変わった。王妃の仕事をこなし、君たちの存在を世に広め、そして君たちの旅立ちを祝福する王妃になった」

「…………」


 『推し』、というのはいまだによくわからないのだが、と今度はエゼルレッドが独り言のように呟いたが、ユーリヒトにもそれはよく解らないので黙っていた。


「最初は戸惑いこそしたが、結果的に彼女はより強く、自分というものを持った王妃へ成長し、そしてあらためて、私の妻になることを選んでくれた。そのことに対する礼を、いつか君に言わねばと思っていた」

「え、いや、お礼なんて」


 と口にしかけたユーリヒトがはっと口元を抑える。その様子に小首をかしげたエゼルレッドに対して、わずかな沈黙を挟み、ユーリヒトはゆっくり手を下ろした。


「お礼なんて――――俺の方が言いたいくらいです」

「君が……?」

「俺、妃殿下に叱られたんですよ。『感謝の気持ちを軽く扱うな』って」

「……言いそうだな」


 苦笑するエゼルレッドに、へへ、と頬を掻いたユーリヒトが、その日を懐かしむように目を細める。


「叱られたのなんてひさしぶりで、でも殿下の言ってることは正しくて……俺が知らないうちに手放してた大事なものを突き付けられた気がしました。俺には……何かを倒すことは、本当に簡単だったんだけど」


 自身の手のひらを見つめていたユーリヒトが、その手を拳に変えてエゼルレッドを見やった。


「だから俺、旅立った後も殿下に言われた通りにしたんです。困ってる人を助けてあげなさいって……そうしたら色んなことが起こって、魔王――――『要の一族』のことも知ることができました。それまでの俺だったら、そのまま倒して終わってた。俺にはきっとそれができるから。でも……」

「…………」

「もう俺には、『倒す』だけじゃなくて、『助ける』ことができるって、解った。解ってよかったです。だから、ありがとうございます」


 外では、雲が過ぎ去り月明りがあたりを照らし始めていた。青白い光と松明の明るい光の差す車内で、ユーリヒトはその頭を深く下げた。

 エゼルレッドはそんな彼が顔を上げるのを待ってから、静かに微笑んだ。


「……その礼は、私ではなく本人に伝えてやるといい。会議から戻ったあとでな」

「――――はい!」





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