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勇者は王妃の『推し』ですわ!  作者: gen.
第二章

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15/43

15. 勇者の帰還





 久々に飛ぶとやっぱり気持ちいいなあ。先代は馬貸してくれるって言ったけど、やっぱり飛ぶことにして正解だったな。でもマントとかは暖かいし、もらっといて正解だった。こっちまでくると、まだ大分日差しも温かいけど、飛んでると風が当たりっぱなしになるし。


「タクサスーどう?飛ぶの慣れた?」

「確かに慣れたっちゃ慣れましたが、足元っつーか腹の下になんにもないのに動いてるってのはやっぱ怖ぇですわ!」

「だいじょぶだいじょぶ。集中切らさなきゃ落ちないから。俺が」

「切らさないでくださいよマジで!?」


 あははは、と笑いながら俺は宙返りをしてみせる。その様子に口の端を引きつらせながらもタクサスは俺の風魔法に体を預けてくれていた。他のみんなは慣れた様子で、そんな俺たちを見ながら笑ってる。

 グレイ伯爵領を出発してから、二日が経っていた。

 

「――――あ、見えてきたよ」


 夜は飛ぶなと師匠から口酸っぱく言われてたのもありさすがに休憩を挟んだが、それなりの速度で日中飛び続けた甲斐もあり、二日目の日が傾くころには南方神殿の特徴的な反り返った瓦屋根が見えた。

 南方神殿はグレイ領と丁度担当ダンジョンを挟むような形で建っている。途中のモンスター発生地帯を飛んで抜けられたのも大きかっただろう。

 俺たちは石畳の参道が見える、人目に付かない木陰を選んで着陸した。


「あー……地面だ……」


 タクサスのしみじみした声に笑いつつ、俺たちはフードを被る。

 今回の俺たちの仕事は、一応南方神殿とグレイ領の機密に関わることなので、人目に付くのを避けるべき、というタクサスの助言だ。

 俺は正面から行こうとしてたけど、吟遊詩人の件もあるとヴィオたちにも止められたので結局みんなの意見に従うことにした。

 そんな俺の懐には、グレイ領の正式な使者であることを示す書状がある。……うん、ある。念のため落としてないか確認したけど、ちゃんとある。


「行こう」


 もう日が落ちかけてる。いちおう六つの鐘が鳴るまでは神殿には入れるけど、暗くなってからの訪問は明るい時よりやっぱり警戒されやすいから。

 なにより今回は、確認するべきことがことだから。余計な摩擦は、少ない方がいいに決まってる。

 俺たちは道行く行商人や冒険者、参詣客の間をすり抜け、表参道の建物の裏道を通りつつ神殿へと急いだ。



「――――書状、確かに拝見いたしました」


 結局日没と同時、滑り込むように入ってきた俺たちの応対にあたってくれたのは、ほかでもないグレイ領の調査に当たったという上級神官だった。

 これは思いがけない幸運だと思ったけど、同時に俺は領地を出るときの先代の様子を思い出して表情を引き締めた。


「先代様は貴神殿にお任せした調査の結果に従い、現在北の森への立ち入りを制限されています。しかしながら北の森への出入りはグレイ領の越冬に欠かせないもの。何時頃まで、どこまで立ち入りを制限すればよいのかの確認を、先代様はご希望です」


 みんなで考えた口上を口にしているのは、俺ではなくてカイドウだ。

 なにを隠そう、カイドウはこの手の演技、というか対応がめちゃくちゃ上手いのである。雑技団で習うようなものじゃないし、多分カイドウ自身の生い立ちにそういうのを学ぶ機会があったんだろうけど、カイドウはその手のことをあまり話さない。俺も深く聞いたことはない。それでも任せられることは知ってるので、今に至る。

 カイドウの口上を聞いた神官は深くうなずき、自身の眉間の皺を揉むような仕草をした。


「……先代様のご懸念は理解しました。ご尤もなことかと存じます」


 しかしながら、と手を下ろした彼の顔には、苦渋の色が浮かんでいた。


「回答を待っておりますのは、我々もなのです」

「と、申されますと……」

「国内での瘴気発生はただの異常では御座いません。中つ国という国を揺るがす大事。ゆえに我々の独断で処理することはできず、貴領での調査結果を中つ国の王都へ早馬で送り、瘴気発生地点を含む北の森の処遇を如何とすべきか、国王陛下のご判断を仰いでいる次第なのです」

「では、その早馬の返事が」

「来ておりません。当初は何事かあったのやもしれぬと、もう一便飛ばして確かに届けたらすぐに戻るよう依頼し、そのうえで便が戻ってきたのも確認しているのですが……」

「ちなみに、初めての馬を送られたのは何時頃のことでしょう」

「夏の初め……六つの月を数える頃には」

「調査を行われて、すぐのことですな」

「はい」


 カイドウは唸り、神官もまた困り果てているという表情で目の前にある先代からの書状を見下ろした。

 彼の言うことが真実なら、俺たちが登城した時点で王城には二通の報告書が届いているはず、ということになる。しかし俺たちが王城で知らされたのは、南方領で瘴気が発生している、というただそれだけだ。

 もし南方領の詳細な状況を王様がすでに知っていたのなら――――そして返事をしていたなら、「瘴気が発生し手が付けられない」という風な言い方ではなく、南方神殿へ対応を任せているが、という言い方になったのではないだろうか。あるいは、お城の方から調査団を派遣して、自分たちであらためて調査していたとか。


「誰かが嘘を吐いている――――」


 南方神殿参道の宿屋の一部屋で、タクサスが続けた。


「――――か、誰もが本当のことを言っている」

「本当のこと?」

「つまり、第三者の介入ってやつです」

「書状を握りつぶしている輩がいるかもしれん、ということだ」


 え、と目を丸くした俺に、腕を組んだカイドウが視線だけを投げてよこす。


「驚くには値せん。グレイ領を見ただろう。あれは相当に豊かだ。おまけに領主も賢明ときている」

「つまりー……嫉妬?敵いっぱい?」

「いっぱいかどうかは知らんがな。グレイ領が潰れて喜ぶ輩がいる――その可能性もあるという話だ」


 ベッドに腰かけていたゼニラが、ふうん、と鼻を鳴らした。

 その隣で黙っていたヴィオが、思いつめたような声で呟く。


「……先代様の状態も、それなら説明がつくよね」

「ヴィオ……」

「わかるの。僧侶の治癒はそもそも病気を治せないけど……でも、あれはただの病気じゃない。あの魔猪や指輪と同じ気配が、先代様からもしてた……!」


 先代から正式に調査依頼を受けたときに、ヴィオがした質問。それは先代の杖がただの老齢によるものではなく、なにかしらに起因する体調不良を抱えているためではないかというものだった。

 そして先代は体調不良を理由で代替わりしたことを認めながらも、病の原因は解っていない、都にいた時働き過ぎたせいかもしれないと、医者には言われたと、そう言っていた。

 だが、その晩にヴィオはあの指輪に感じた違和感と同じものを、先代からも感じる、と俺たちに告げていたのだ。

 ただ問題は、その違和感をヴィオ以外が感知できないことだった。


「瘴気を利用して、人を傷つける人がいるなんて、私そんなの絶対許せない……!」

「まぁまぁ落ち着いて、まだ可能性の話です」

「でもッ」

「ヴィオ、大丈夫。誰もお前の判断が間違ってるなんて思ってない。ただそれを詳しく調べるには、いまは材料が足りないってだけだ」


 以前も考えたことだけど、あの指輪と先代の体調不良が同じものなら、ヴィオと同じ神聖魔法に通じた僧侶や神官たちならそれに気づいて浄化や治療の目途がたつかもしれない。

 ただそれには彼らをあの指輪があるところまで連れていく必要がある、ということでもあり、ヴィオ並みの浄化魔法を扱える人や実際に調査をする人、つまり人手が必要になる。

 俺たちにそこまでの人間を動かす力は、ない。


「さて、どうするか」

「んん-……やっぱり」

「やっぱりー?」

「――――王様、かな」


 全員の視線が集まるのを感じながら、俺はぴ、と人差し指を立てた。



 グレイ領と南方神殿は、全力で飛ばして二日の距離だった。俺たちは再び二日を費やしてグレイ領に取って返すと、南方神殿での神官の証言を伝えたうえで、先代にこう提案した。


「俺たち、一旦王都に帰ろうと思うんです」

「と、仰いますと……やはり」

「はい。王様に会って、直接この話を聞いてもらう。それで判断してもらう。それが一番確実だなって」

「しかし、勇者殿。あなた方に下された王命は……」

「瘴気を消すことと魔王の討伐。でも、そもそも魔王の討伐が決まった原因はグレイ領の瘴気発生からですよね?なら俺たち、こっちを解決するのが先だと思うんです」

「勇者殿……!」


 先代の杖を離れた震える手が伸ばされる。俺はその手を両手でしっかりと掴んだ。


「王妃様は間違ってなかった。まずは困ってる人を助けること。やっぱりそれが、俺たちの役目なんです」

「……っなんと、このご恩をお返しすればいいものか……ありがとう、ございます……!」


 そのあとは感激のし過ぎでか動悸がするという先代を宥めたり、王都へ向かう路銀をもらったり――まだ依頼は終わってないし、飛んでいくからいいと言ったんだけど――腹ごしらえをたっぷりさせてもらったりで、その日は終了した。

 そして次の日の早朝、グレイ領を出発してすぐ、タクサスからの提案があったのだ。


「隠密?」

「おたくら、顔知れ渡ってんのもう忘れたんですか?」


 丘陵地帯を低く飛び抜けて、ちょうど一つ目の宿場町が見えたところで俺たちは木陰に着陸していた。

 呆れ顔のタクサスに、俺たちは顔を見合わせる。


「グレイ領でああだったんだから、いま真正面から取って返したら王都でどんな騒ぎになるか知れたもんじゃないでしょ」

「でも俺たち、南方神殿でやったぐらいのことしかできないよ」

「おや、俺の職業をお忘れで?」

「レンジャー?」


 もう一つあったでしょ、とタクサスが器用に片眼を瞑って見せた。


「でっかい伝書鳩ってね」


 その日はタクサスのいう通り全員顔を隠し、タクサス主導の冒険者パーティとして客にこだわらない宿屋を選んで泊まった。その次の日も、そのまた次の日も。

 やがてゼニラがベッドとは名ばかりの藁山へしびれを切らし始めた頃、その荷馬車は朝霧を割いて宿場町にやって来た。

 荷馬車の御者とタクサスは懐から取り出したメダルを見せ合うと、宿賃を置いて出てきた俺たちに合図をした。それからなんだか見覚えのある丘道の紋章が描かれた、大きな酒樽四つに俺たちを入れると、「戻すときは人の声がしねえところでノックしてくださいよ」と言い残し蓋をしてしまった。ヴィオたちの杖に関しては布でグルグル巻きにされて詰め込まれた。

 そこから始まったのは、なかなかに過酷な四日間だった。荷馬車は高速で走るから振動がすごい。しかも樽の中という不自由な姿勢。何度も馬を替えて、荷馬車は昼夜を問わず走り続けた。外に出られるのは夜のわずかな時間だけ。茂みの向こうに飛び出していく俺たちを、タクサスは笑って見送ってた。

 そしてとうとう、荷馬車が停まる時が来た。いいっていうまで絶対動くな、と特別に念押しされて迎えた朝。ガタゴトと揺れる――それまでに比べたらゆりかごみたいなものだったけど――荷台の上で、俺は酒樽の隙間から聞こえる衛兵たちとタクサスのやり取りに、王都へ着いたのだと気づいた。そこからさらに荷馬車は石畳の道を進み、どこかのお屋敷に入ったところで、停まった。


「はい、おつかれさん」


 便所はあっちね、と蓋を外したタクサスに言われて、とりあえず全員がそちらに向かう。

 用を足し終えると、朝日の中に赤土や漆喰を塗り込んだ鮮やかな壁が印象的な、豪華なお屋敷の中庭にいるのだとあらためて気づいた。


「こっちですよー」


 タクサスの声に導かれるまま、お屋敷の中を歩いていく。すれ違う使用人の人たちはみんな朗らかで、いらっしゃいませ、または、おかえりなさいませ、と俺たちに声をかけてくれた。


「ここって、タクサスの……」

「んなわきゃねえでしょ」


 見慣れた呆れ顔が一際大きな扉の前で立ち止まる。ノックを三回。すると中から、やっぱり朗らかな声が「どうぞ~」と返ってきた。

 あれ、なんか聞きおぼえがある。


「はい、ご依頼の勇者様ご一行をお連れしましたよっと――――大番頭」

「よーくやってくれたタクサス!そしてお久しぶりです勇者様に皆様がた!無事のご到着、このファーウェイ心から光明神に感謝し、ご歓迎させていただきます!!」


 丁度一か月くらい前まで、お城の中で毎日のように顔を合わせていた御用商人さんが、机の向こうから飛んでくるなり俺たちを熱烈に抱きしめた。ゼニラはしゃがんでかわしてたので、代わりに帽子が抱きしめられてた。ヴィオは硬直してた。


「今回の隠密帰還、真にお疲れ様でした。お湯の準備をさせております。お急ぎでしょうが登城される前にお支度を」

「ファーウェイさんが、俺たちをお城に連れてってくれるんですか?」

「ええ、ええ、このファーウェイにお任せください!なにせただいまの国王陛下にお会いになるには妃殿下……いえいえそれはともかくお急ぎを、なにせ時は金なりと申しますから!」


 その勢いに押されるまま、俺たちはそれぞれ男湯と女湯に分かれた豪華な陶器の風呂に浸かることになった。おかげで、樽詰めされてる間にあちこち痣だらけになってたことに気づかされた。壁の向こうからゼニラがしみる、と文句を言ってるのも聞こえた。

 風呂から上がった俺たちは使用人の人たちにもみくちゃにされるように体を拭かれて、これまた用意されてた服に着替えた。

 装備はほとんど取り上げられてしまい、長剣と杖が目の前で絨毯にグルグル巻きにされるのを俺たちは見ているしかなかった。


「というわけで皆さま、本日の登城用の馬車でございます」


 その言葉に案内されてのこのこついていった先には――――また荷馬車が。

 ただし今度は藁が敷き詰められた正方形のものや、縦長のものとバリエーション豊かな、そして色とりどりに装飾された箱が乗っかっていた。


「もしかしなくてもこれに」

「お一人様一座席にてお願いいたします!」


 ですよね。

 もはや諦めの境地に達している眼差しのヴィオたちと目配せし――多分俺も同じ目をしてた――俺たちは各々選んだ木箱の中に潜り込んだ。姿勢を何とか整え終えると、当然のように蓋が被せられる。


「皆さま、今回真上に載せますのは異国より取り寄せたる陶磁器でございますからどうか!どうか無暗に動かされませんよう!」


 そういうことは先に言ってほしかった。

 多分俺たちの心は一つになっていた。



 荷馬車が動き出す。その速度はあの酒樽馬車とは比べ物にならないほどゆっくりと、だが確実に王城へと近づいていく。木箱の隙間から聞こえるのは、人々の話声、雑踏の足音、威勢のいい物売りの声。軽やかな吟遊詩人の歌声。それらがだんだんと遠ざかり、やがて静かな坂道に変わるのが伝わってくる。

 俺はこの道を知っている。この道を下って、王都を離れた。その時はまだ日差しも暑く、緑の匂いが濃くて――――こんな風に帰還することになるとは、夢にも思ってなかった。

 自分の、心臓の鼓動が聞こえてきた。跳ねている。いつもより早く。


(そうか……俺、緊張してるんだ)


 何にだろう。こんな風に隠れてること?王様の説得?王妃様との再会?いや、多分その全部に。

 途中、ファーウェイさんと衛兵の検問での押し問答がありつつも結局舌戦でファーウェイさんに勝てる人なんて誰もいなくて、木箱の蓋は開けられないまま、俺たちを入れた箱は一つにつき四人もの人手でお城の中へと運び込まれた。


「そっと、そっとですよ!繊細な細工物です。極力動かさずに!」

「――――なにごとなの?ファーウェイ」


 また、心臓が跳ねた。あの人の声だ。


「おお偉大なる両陛下におかれましては本日もご機嫌麗しく、今朝は特別なお品物が届きましたので是非お二方へお目にかけたく……」

「それがこの大荷物なの?一体なに?」

「そちらにつきましては――嗚呼!わたくしとしたことが、工房との秘密保持契約をしたことをすっかり忘れておりました。これは特別なお客様にのみお見せするとのお約束でして、なにとぞ……御人払いを」

「……下がっていいわ」


 疎らな足音が出ていく音がする。扉が――閉められた。


「それで?特別なお客様以外に見せたら爆発でもする細工物でももってきたの?」


 呆れ交じりの声に、荷解きの音が重なる。


「まあ当たらずしも遠からずといったところで御座います。まずお目にかけますのは異国から取り寄せました陶磁器のティーセットでございます。あ、ちょっとおまちを全部取り出しますので……」

「日が暮れそうね」

「そうおっしゃらず。これでもわたくし必死になってお届けに上がった次第でして」


 ティーセットが載せられてたのは俺の箱だ。カチャカチャと並べられる音が途切れ、蓋が取り払われる。

 眩しい。そう思ったのも一瞬で、片眼を瞑ったファーウェイさんが上から退くと、俺はそれを合図に箱から立ち上がった。


「え――――」


 隣からは大皿を退けられたヴィオが。ポプリ壺を退けられたゼニラが、そして縦長の箱からは、蓋をほとんど蹴飛ばすようにしてカイドウが出てくる。

 朝日の中で、王様と王妃様は寄り添い合うように長椅子に座っていた。目を丸くした王妃様と対照的に、王様は眉間にしわを寄せて目を細めている。

 俺たちはすぐさま箱を出て、謁見の間でそうだったように、まずは深く頭を下げた。


「ご無沙汰しています。国王陛下、王妃殿下」

「あなた、ほんとうに勇者……!?これは一体」

「どういうことだ」


 顔を上げた俺に、二人の視線が突き刺さる。王様は低い声だったけれど、そこには俺たちの意図を探るような静けさがあった。


「王命に従い瘴気散滅のため旅立ちましたが、その瘴気の発生について至急陛下にお聞きいただきたいご報告があり、帰還しました。訳あって人目を避けなければいけなかったため、このような形での参上となったことをお許しください」

「聞こう」


 王様の返事は端的だ。俺は左胸の鼓動が強まるのを感じた。

 隣から、その向こうから、みんなの視線も感じる。


「中つ国南方はグレイ伯爵領内の洞窟で、瘴気の発生元とその原因と思われる魔法陣を発見しました。ですがこのことは、六月時点で南方神殿から陛下に対し、どうするべきかをご相談する早馬を飛ばした、と調査に当たった神官が言っていました。陛下は、このことをご存じだったでしょうか?」

「――――なんだと……」

「瘴気の、発生元……!」


 今度こそ、王様――陛下の声が低く、唸るようなものになった。妃殿下も目を見開き、すぐさま隣の陛下を見る。

 膝の上で拳になってた陛下の手に妃殿下が触れると、眉間の皺を一層深くした陛下が何かを堪えるように眼を瞑り、開いた。


「……そのような報告は、受けていない。一切な」

「早馬は二回飛ばされ、うち一回は確実に届けたと神殿側に報告があったそうです」


 陛下は俺の言葉に躊躇なくこう返した。


「至急、城の出入り記録を確認させる」

「!」

「どうした。……ほかにも報告があるのか」

「あ――原因と思われる魔法陣ですが、中央に鍵と思われる指輪がありました。ヴィオ――僧侶の義妹(いもうと)いわく、その指輪と先代グレイ伯爵の体調不良に関係があるかもしれない、と。ただ魔力感知ではその関係性はつかめず……」

「僧侶、または神官の調査がいるということだな」

「は、はい!」


 陛下はまるで俺の頭の中を読んだかのようにそう言うと、深いため息を吐いた。


「あの……」


 その姿に、気づけば声がこぼれていた。


「なんだ」

「信じて……いただけるんですか?」


 俺の心臓は、相変わらず早鐘を打っている。余りにも、上手くいきすぎている気がして。

 陛下はそんな俺の目をじっと見つめた後、「そうだな」と短く答えた。


「この世には如何に信じがたいことであっても、それが真実であると証明されるときがある。私はそう知っている……故に」


 陛下の薄青い瞳が、俺たちを順繰りに見渡す。


「王命である。そなたたちにはいまから、この世界の一つの真実を知ってもらう――――ベルグリンデ」

「はい、あなた。……少し長い話になります。あなたたち、立ってないでこちらにきて、腰を下ろしなさい――お前もよ、ファーウェイ」


 思わず振り返った俺たち全員の視線を受けて、こっそり扉に向かおうとしていたファ ーウェイさんがぴしりと背筋を正し回れ右をした。





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