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ノアの方舟  作者: 望月真昼
霧隠れ編
43/50

不殺の証明 その4

26話


「そこまで! 第七グループ、旅の記憶の戦闘試験を打ち切る。現在生き残っている7名は学びの門を開く資格アリと認定する」

風魔法を利用した拡声魔道具で一次試験に合格したことを伝えられるが、あまり気にしている余裕は無かった。

「一速・桜楼閃き」

己と背丈が同じくらいの少女の背後を取って奇襲をしかける。その少女は先まで共闘していた彼女だ。

「五速・五芒星(ごぼうせい)

背後をとった奇襲をあっけなく防がれる。

エクスカリバーとムラクモ、本来であれば双剣のはずの二振りが鍔ぜりあう。

瞬間、剣速によって生じた風圧で深く被った彼女のフードが暴かれる。

金髪碧眼、両の目に半月の文様浮かぶ。右手の甲側の指にEARTHと入れ墨のあるノアと同年代ほどの少女。

「ひどいなあ、仲間だと思ってたのに」

「そんな敵意丸出しでよく言うよ」

試験には合格して、本来であれば戦う必要の無い二人、純粋にどちらの方が上か、アーサーにとってノアを従えるための戦いが始まる。


「何しているんだ……、あの二人は」

既に合格を発表した知らせは届けた。届いていないわけでは無い、実際二人以外は戦いを辞めている。なのに、今からが本番だとばかりに戦い始めた少年少女にドン引く。

第七グループ、旅の記憶の監督者、ルーカスは慌てて管制室の拡声魔道具を手に取って、戦いを辞めるように伝えようとする。

「やめといた方が良いよ」

マイクを手に取ったルーカスに同じく監督者であり、上司のアストレウスが腕を掴んで制止する。

「何故ですか?」

「よく相手を見るんだ。澄んだ青い髪に、黄色い瞳。第二位と第三位、両方の親戚とかいうとんでもない貴族だ。いや、そっちは最悪良い。血統が良いだけで、実際力を持っているわけじゃないからね」

それを聞いて、確かにと自らの迂闊さを認識したルーカスだが、上司の発言からそれよりもやばいのはあの少女の方だと理解する。

金髪碧眼、見ただけで分かる上質な剣。

まさか。

「あれは、いやあのお方はアーサー・ミッドガルド、現国王の愛娘」

絶句するルーカス。

「じゃあ、私は王女様の不興を買うかもしれなかったということですか」

冷や汗と震え声で自身の状況を改めて確認する。

「言葉が逆だよ。彼女は既に襲名を終えている。王女じゃなくて、正真正銘この国の女王だ」


いきなり五速か。

種があるのか、ただの気合いか。

対面する少女は一瞬、顔を顰めただけで二呼吸で呼吸のリズムを取り戻した。

己なら出来ないことは無いだろうが、ゲロ吐いてるな。

「軽いね。こんなもん?」

整った顔立ちしてるくせに、煽ってきた。

「まさか。幻惑剣・蜻蛉!」

第六位直伝の剣技。彼が一番使用頻度の高かった技。

これを初見で無傷に防ぐのはほぼほぼ無理ゲーだ。

「こっれは強烈! 速いね、けどまだ軽い!」

その目にもとまらぬはずの速さに驚きを示すも、先と同じ五速で軽々防がれる。

「まっじか!」

完全に、動きの軌跡を追われていた。

完璧に目で追われて……、いやその先を見ていた?

「それでは第一次合格者の名を伝える」

これは拡声器、呼ばれる合格者の名の中に当然ノアル・ウェイトの名も呼ばれる。そして、最後の一人。

「アーサー・ミッドガルド」

アーサーにミッドガルドだって?

それはこの世界唯一国家の国家元首、世界の王アーサー・ミッドガルド。

それがこの固有結界内にいるということ、誰がなんて聞くまでもない。

目の前のこいつが、アーサー・ミッドガルド!

「アーサーって言うのは襲名でね。親しい者には幼名のステリアって呼ばせてる。気軽にリアお姉ちゃんって呼んでね」

「そのリアお姉ちゃんが僕になんで敵意を向ける?」

確かに、最初に攻撃を仕掛けたのは己からだが、それはこの娘から漏れ出す敵意に答えたもの、言うなればあっちから喧嘩を仕掛けてきた。

「単刀直入に、私の物にならない? 可愛がってあげるよ」

「人の下にはつかない。どうしてもと言うのなら、せめて僕より強いことを証明してからだ」

元第六位の圧倒的な強さと、ほの昏いカリスマ、後継に誘われたときに心が揺れたことは否定しない。

「ん、分かった。取り敢えず、勝てばいいんだね」

彼女は鞘にしまった刀身を再び、抜刀する。

じりじりと大気を引き裂く、ノアの産毛一つ一つを逆撫でるほどの威圧。

エクスカリバーとムラクモ、剣の質に差はない、どちらも至高の二振りだ。彼女と、ノアの実力差も関係ない。

こうも、威圧に差が出るのは、アーサーの方こそ、正当な所持者であり、ノアは裏技で使える権利を得ただけという差にある。

「一速・桜楼閃き」

今度は逆に、一瞬でギアを下げてきた!

「妖剣・玖音」

元第三位との死地に立ち会ったことで修得した九重の強化、紅孔雀こそ体得できなかったが、命をかけた死地には必ず成長の標しを見つけられる。

「二速・蒼龍」

シンプルな一振りは強力だが、九つの斬撃には打ち勝てないと途中で強引に技を変えてきた。頭おかしいんじゃないか?

「っくそ」

強引に変えた、負担も大きく、不完全な技。

それでも普通に打ち負けた!

痛手こそ喰らわなかったが、沈むなあ。

「もういい!」

仕方ない!

業腹だが、剣技では勝てないことは認めよう。だが、己には剣技のほかに魔術がある。距離を取って、ちまちま攻撃するか。

「それも視えている」

逃げるのを分かっていたかのように、追いかけてくるアーサー。

逃げられないか。だが、それなら、それでいい。

彼女の目的は圧倒的な実力差を見せつけて、己を手に入れること。

そして、性格上からも、魔術がちょいとでも使えるなら、こっちのフィールドに合わせてくれるはず。

つまり、魔術はあまり警戒しなくていい。このプロファイリングはあっている自信がある。

「その目、魔眼か?」

彼女の碧眼、その両目に浮かぶ半月の文様。

その魅力、覚えがある。それは記憶に焼き付いている元第六位の漆黒の瞳。

「ネタばらしすると私の能力は未来視、数秒先の未来を知ることが出来る」

「つまり、見えなくちゃ意味がないということだ。第三位階魔法・原初の魔術」

原初の魔術。唯一神、レインが初めに使用されたとする魔術。

それは干ばつに苦しむ村を逆に、洪水で悩ませるくらいの水を与えたという。

その逸話から、彼の名はレインと呼ばれるようになった。

「これはヤバいっなあ! 目どころか耳も奪うか!」

局所的なゲリラ豪雨、それは一寸先も見えないほどで、その雨音は当然、足音もかき消す。

この雨音だ、堂々と詠唱して、デカい一撃をお見舞いしてやる。

「№1エクスカリバー!」

アーサーに魔術の適性が無い。それ自体は正解だ。

だが、才が無くても魔術を使う方法はいくつもある。例えば、魔法陣、もしくは魔道具。

彼女の放つ光は天蓋を引き裂いた。

試験の禁止事項は固有結界の展開の禁止。目的はそれによって不殺の証明が中和されないこと。

「意味ねえだろ!」

彼女の放つ光は天蓋を突き破って、固有結界、不殺の証明、それ自体を傷つけて見せた。

ノアは勿論、監督者アストレウス、式神によって仔細を見ていた学園長も閉口を越えてブチギレ。

先までのゲリラ豪雨が嘘のようにまっさらな快晴、アーサーとノアの目が合う。

「土槍!」

「№1エクスカリバー!」

ノアの土槍は光に呑まれ、ノアの右腕が吹っ飛ぶ形で勝敗は決した。


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