そうなんだ。 ※ルゥイ視点
「チッ、覚えてろよ。」
男の人達がそう言って私から離れてどこかに行きました。
それと入れ替わりで銀色の髪のお姉さんが近くにやってきます。
「怪我はないかい?」
優しい声でお姉さんが心配してくれます。
それで安心したのか私は一気に恐怖を実感して身体の震えが止まらなくなりました。
(こわ……かった……。)
もしお姉さんが来てくれなかったら私はどうなっていたんだろう。
きっと無事では済まされなかったと思うのです。
それに何よりもーー。
(ペンダントがとられなくて……良かった……!)
家族になかなか会えなくなってしまった今、このペンダントは私にとって命よりも大切な物になっていました。
両親からプレゼントしてもらい、妹とお揃いで身につけている……私にとって家族を身近に感じられる品だからです。
自分の宝物を想うのと同時に、私は分からなくなります。
(なんでお姉さんは……いつもルゥイを助けてくれるんだろう……。)
前のお茶会の時も、そして今も。
お姉さんは私とそんなにお歳が違わないはずなのにすごく落ち着いています。
そして、正面から争いごとに立ち向かっていくのです……自分が巻き込まれることも構わずに……。
「な……んで……?」
私は自分でも気づかないうちに疑問を声に出していました。
その様子を見てお姉さんは私の不安を感じ取ったのか、手を差し出してくれます。
「どこか落ち着ける場所に行こう……歩けるかな?」
ふわっと包み込むような柔らかい笑顔を見せてくれます。
私は緊張と怯えを取り払うようにその手をぎゅっと握り返したのです。
◇
「はい、どうぞ。 熱いから気をつけて?」
そう言ってお姉さんが渡して来たのは茶色いパイのようなものでした。
表面がきらきらしていて、中から果物の甘い香りとお肉のジューシーな香りが匂って来るのです。
私がアニスとはぐれる前に香ってきたのはこの匂いだったと思い出します。
空腹なのもあってすぐに食べたいですが一つ問題がありました。
(どうやって食べるの……?)
ここにはナイフとフォークがありません。
手でちぎって食べるのかと思いましたが、包んでいる厚紙の上からでも熱さを感じるので、それだと火傷してしまうと思うのです。
私が食べ方が分からず困っているとお姉さんがお手本を見せるようにかぶりつきました。
「ん~~っ!!」
私はびっくりしました。 そのままパイを口に入れることにもですが、いつも大人びた雰囲気をしているあのお姉さんがすごい幸せそうな笑顔で……しかも嬉しさのあまり両足をぱたぱたさせているのです。
あのお姉さんがここまで笑顔なのを見ると当然私もその味が気になります。
作法も気にせず、お姉さんに倣ってかぶりつきました。
瞬間、みるみる顔が綻んでしまう私。
「〜〜っ。」
普段食べているご飯やおやつと違ってまったく新しい未知の味に手が止まりません。
夢中になって食べているとお姉さんがくすりと笑いながらハンカチを差し出してくれます。
「よっぽど気に入ってくれたんだね、ぼくも嬉しいよ。 ほらおいで……拭いてあげる。」
そう言って口元を拭いてくれたのです。
口いっぱいにパイ生地をつけていたことに今更気づいた私は恥ずかしさで顔が熱くなりますがーー。
「ぁ……りがと……。」
声を振り絞り、小さな声でなんとかお礼を伝えられたのでした。
◇
パイを食べ終わったあと、お姉さんは私に話を聞いてきました。
急かされることもなく、私がポツリポツリと話す内容をただ黙って聞いてくれました。
ーー不思議なのです。
ただあの時あったことを話すだけだったはずなのに、私の口はそれ以上に動いていました。
家族と幸せに暮らしていたこと。
妹とお揃いのペンダントを貰ってとても嬉しかったこと。
けれどいつからか距離を感じるようになって。
昔みたいに思うように話せなくなってしまったこと。
心の中にずっと溜め込んでいた想いを吐き出していくうちに、目からは……自然と涙がこぼれていきました。
「な……んで?」
「ん?」
「なんで……ルゥイにやさしくしてくれるの……?」
「う〜ん、なんで……か。」
お姉さんは少し考える素振りをして口を開きました。
「似てるから……かな?」
「……?」
「友人がいたんだ。 その子は周りを振り回す質で一種のトラブルメーカーだったんだ。けれど困っている人は見過ごせなくて……見返りもなしに助けてしまう程のお人好しでもあった。」
「けれど自分の事は疎かで、悩みや不安なんかを一人で溜め込んでしまうんだよ。 ずっと手を差し伸べていた人もいたのに……結局はその手に気づかず遠くに行ってしまった……。」
そう話すお姉さんは悲しさと……どこか悔しさも入り混じった顔で私の方を向きました。
「だから……独りだなんて思わないで欲しい。 きみの周りにも手を差し伸べている人が……きみの事を大切に想ってくれている人達が必ずいるはずだから……。」
「お嬢様ーっ! ルゥイお嬢様ーっ!」
「迎えが来たみたいだね。」
お姉さんが話し終えるのと同時に覚えのある声が耳に入りました。
そちらを見るとアニスと……ヘラが二人で広場まで来ていました。
「ルゥイお嬢様っ!よくぞご無事で……! 」
アニスは一直線にこちらまで走ってくると、膝が汚れるのも構わずに私を抱きしめました。
「アニス……?」
私の声に反応して抱きしめる力が強くなります。
「ほんとに……心配したんですからね……!」
そう話すアニスの身体は震えていて、しゃくりあげるような声もしました。
「アニス……泣いてるの……?」
アニスのこんな慌てる姿は見たことがありません。
そう思ったのと同時にお姉さんが話してくれた言葉を思い出します。
ーーだから……独りだなんて思わないで欲しい。 きみの周りにも手を差し伸べている人が……きみの事を大切に想ってくれている人達が必ずいるはずだから……。
「アニスは、ルゥイを心配……してくれるの……?」
「当たり前じゃないですかっ! アニスはもう、二度とお嬢様に会えないかと……!」
「そう……なん、だ……。」
お姉さんの言うとおりだった……。
私にもこんなに心配して……
泣いてくれる人がいたんだ……。
「……ごめん……ね? いっぱい心配かけて……ごめん……なさい……。」
あんなに寒かった胸の中がぽかぽかと温かくなっていくのを感じながら……私はアニスの熱に寄り添うように目を閉じていったのです。




