好き……? ※ルゥイ視点
「礼儀がなっていないようですし、わたくし達が貴族同士が仲良くなるための挨拶というものを教えて差し上げますわ。」
お庭の隅っこで女の子達に囲まれた私は、ぐしょぐしょに濡れた服を乾かすこともままならないまま責められていました。
なんでこんな目に遭っているのかも分かりません。
だけどアンと呼ばれた女の子が私の服装について怒っているのだけはなんとなく感じます。
でもこの服はヘラが用意したものです。 突然行くことが決まったお茶会に「今回の催しは無礼講のようなものです。 ドレスの指定なんてありませんからお嬢様に一番お似合いの物を着ていきましょうね〜?」と言っていたので着てきたのです。
アニスにも聞こうかと思いましたがヘラのいいつけで出掛けていたので今日はまだ話せてもいなかったのです。
(なんで、こんなに怒ってるんだろう……。)
こんな目に遭わされている理由を聞きたいのに言葉は出てきません。
当然でした。 だって表向きは優しくしてくれるお邸の皆とすら話すことが出来なくなっているのです。
初めて会った人達大勢に睨まれているこの状況で声を出すのは、それ以上に怖かったのです。
妹ならもっと上手くやれたのでしょうか。
それこそ、目の前の女の子達とも仲良くなって、お家にとって良い繋がりを作ることもできたかもしれない。
(ああ、なんで私はこんなに駄目なんだろう……。)
妹よりあと少し生まれるのが遅ければこんな惨めな思いをしなくて済んだのかもしれない。
後継として期待されて……皆に失望されるあの胸を刺されるような思いをしなくて済んだだろうか。
(今ごろになって考えても……そんなの意味ない、よね……。)
もし妹と産まれる順番が逆でも、優秀な姉と不出来な妹と言われていたと思う。
私がいる意味ってなんだろう。
使用人の皆からは腫れ物みたいに扱われて。
パパやママとはずっとお話してない。
妹より不出来な自分が惨めで、ランとももう目を合わせることも出来ない。
じゃあ私が生きている意味ってなに……?
目の前の人達が私に追い打ちをかけようとしたとき、ひどく透き通る声が耳を通り抜けました。
「ーーやあ、随分楽しそうだね。」
◇
「使って?」
目の前に差し出されたタオルとその人を見て、私はまだ何が起こったか理解できていませんでした。
自分もビショ濡れなのに私の顔や髪の毛を優しく拭いてくれています。
そう、自分もビショ濡れなのにです。
この少し前にお姉さんは皆がびっくりするようなことをし始めたのです。
「せせせせせセルティス様ぁ!?」
私にお茶を浴びせた女の子がとても慌てふためいているのが見えました。
その驚きも当然だと思います。
だって透き通るような声で私達の中に割って来た銀色の髪のお姉さんは、アンと呼ばれていた女の子と少し話すといきなり自分の頭にティーポットを傾けてお茶を浴び始めたのです。
綺麗な艶をしていたその頭になみなみとお茶を飲ませている光景はあまりにも異常でした。
そして、お姉さんはびっくりして口が開いたままのアンに向けて言い放ちます。
「だってきみが言っていたじゃないか、貴族同士が仲良くなるための挨拶だって……ね?」
表情は笑っていましたが、目はこう訴えていました。
ーーお前が始めたことだろ。と……。
そこから先はよく覚えていません。
突然スイッチが入ったかのように自分の衣服を濡らし始める女の子達と、それを見て顔色を悪くする男の子達。
それだけは記憶に残っていました。
そして、もしかしたらお姉さんは私を助けてくれたのかな……?とも思いました。
けれど、この記憶も一瞬で飛んでしまうほどの出来事がこの後に起こりました。
ーーちゅっ……。
「おおおおお嬢様なにやってんですかっ!?」
お姉さんのお付きのメイドさんが叫ぶ声で私もハッと我に返ります。
(いいいいま、私、ち、ちゅーされちゃった…………!?)
メイドさんがお姉さんに何か怒っているような気がしますが突然の出来事にわたしはビタッと固まってしまいます。
でもお姉さんが私の方に振り返るとその綺麗な橙色の瞳で見つめてくるのです。
(あ……あぅ……うぅ〜っ!)
急に顔の熱さと恥ずかしさが湧いてきて、私はそのまま逃げ出してしまいました。
そして逃げている最中にもさっきの出来事を繰り返し思い出してしまいます。
(そう言えば……パパとママも、いつもほっぺにちゅーしてくれてた……。)
その時にパパが「頬へのキスは親愛の証なんだよ、大切な人にするものなんだ……。 特に……家族とかね?」と言っていたのを思い出します。
(ということは……もしかしてお姉さんは……。)
私の頭の中にある考えが浮かびました。
(ルゥイの事が……家族になりたいくらい……好き……?)
◇
それから数日後、私はお邸の部屋の中にまたこもっていました。
人と会うのが苦手なのもありますが、それ以上にお姉さんの事が気になって仕方なくなっていました。
ご飯を食べてるときも、お風呂にはいってるときも、ふとしたときに思い出しては顔が熱くなってしまうのです。
私が枕を抱きしめて足をパタパタさせていると、それを見て心配したアニスが街に連れていってくれました。
本当なら人がいっぱいいるところに居るだけで足がすくんでしまうのですがアニスと手を繋いでいると自然と緊張しないのです。
そうしていくつかのお店を回っていると、広場の先からおいしい匂いがすることに気が付きました。
私がそっちに向かうと通りの人混みにぶつかってしまいアニスとはぐれてしまったのです。
「……っ。」
アニスを呼ぶために声を出そうとしましたがやっぱり声は出ません。
なので一回人混みを抜けて待っていようと通りから出ました。
すると、さっきの明るい街とは正反対の暗く湿った路地に入ってしまったのです。
「あん? ぼんぼんのガキがこんな所に何の用だ?」
私は急に声を掛けられてびくりとしました。
そして、大人数の男の人達が私の周りに集まってきたのです。
「首にさげてるそのペンダント、この辺りじゃ見ねえ代物だな。」
「きっと高く売れるぜ、この嬢ちゃんと一緒にな?」
男の人達は私の首についているペンダントを欲しがりました。
でもこれはパパからもらった大事な……初めての贈り物なのです、絶対に渡したくありません。
「チッ、いいから渡せって!!」
「ゃ……!」
嫌がる私に怒った男の人が手を伸ばそうとしたその時でした。
「きみはいつ見かけても絡まれているね。 そういう体質なのかな?」
少し前にも聞いた、あの透き通るような声が湿った路地に響いたのです。
「誰だっ!?」
男の人が振り返るのと同時に私もそちらを見ました。
声の主は前にも出会った事がありそして同じように声をかけてくれた、あの銀色の髪のお姉さんでした。




