過去 ※ルゥイ視点
しとしとと雪が降り積もり、ぶるぶる震えちゃうような寒いお外とは違って温かいお邸の中で、私『ルゥイ』と双子の妹『ラン』が生まれました。
とある冬の日だったとのことです。
ママはお体が強くないので、私達を産むのは大変だったとパパが言っていました。
だけど、「無事に産まれてきてくれてありがとう」とも二人はよく言ってくれました。
私達はパパとママの初めての子供なので、お邸の皆からいっぱい可愛がられました。
そして、そんないつも良くしてくれる皆の為に、私も何か出来ないかなと考えるようになりました。
そうして私はお邸のお手伝いをするようになりました。
私がお手伝いをすると、皆が「大変助かりますお嬢様。」とか「お嬢様は皆のお手伝いが出来て偉いですね〜!」といっぱい褒めてくれました。
そんな時、「お嬢様がいれば、この家の未来は安泰ですね。」と言われました。
その意味が分からなかった私はメイドさんに聞きました。
そしたら、私のような子供は大きくなったら両親に代わってお家を守っていくんだよと教えてくれたのです。
そしてある時、パパが私達をお部屋に呼んで首にペンダントをつけてくれました。
「これはパパとママからの贈り物だよ、私達が二人の事をいつでも見守っているという証だ。」
そう言って私達の頭を撫でた後、優しい声でこう言いました。
「二人が心から救いを求める事があった時、このペンダントに願いを込めるといい。 きっと力になってくれる。」
そう教えてもらって私達は本当に大事にされてるんだなと思いました。
だから、パパとママとラン、そしてお邸の皆のことを守っていけるような人になりたいとこの時の私は思っていたのです。
ランがまほうを使えるようになったのは、そのすぐ後のことでした。
パパもママも、もちろん私も自分のことのように喜びました。
すぐにまほうの先生がお邸に来るようになって、教えてもらった内容を話すランの嬉しそうなお顔を見るのが私も大好きでした。
「お姉ちゃんもまほうを使えるようになったら一緒に教えてもらおうね!」とランが言ってくれるので、私もその日を今か今かと待っていたのです。
けれど、その日が来ることはありませんでした。
ランの魔法の勉強時間が多くなっていって、私達は一日中別々で過ごすことが多くなりました。
私は自分だけいつまでも魔法を使えないのが嫌で、よくママのところに相談していたのです。
「ねぇママ……。 ルゥイはどうしてまほうが使えないんだろう……。」
「そうねぇ、ルゥイと似て引っ込み思案なのかもしれないわね?」
「……ルゥイといっしょ?」
「そう。 もう少ししたらひょこっと顔を出してくれるかもしれないわ。」
「でもまほうにお顔ないよ?」
「あら? 分からないわよ〜? 私の娘みたいにとぉーっても愛らしいお顔をしてるかもね〜?」
「ママくすぐったいよ〜!」
「だから良いのよ。 ルゥイにはルゥイのペースがあるんだから、出来ることから一緒にやっていきましょう?」
「うん!」
ママは私が落ち込んでいるとすぐに励まして笑顔にしてくれました。
ランと一緒にまほうを教えて貰えないのは残念だけど、私は私の出来ることをやっていこうと思ったのです。
◇
「お嬢様何度言ったら分かるんです? これはここじゃないって前に言いましたよね。」
「ご、ごめんなさい……。」
新しく私に専属のメイドさんが付くことになりました。
パパが仲良くしているおじさんの娘で名前はヘラと言うそうです。
ヘラは私がお手伝いをすると、よく怒ります。
物を戻すのはそこじゃないと言われて、前は合ってたよと言うと、皆お嬢様に見つからないようにわざわざ戻してるだけと言っていました。
「はぁ……。 ラン様ならこうはならないのに……。」
ヘラはよくランと私を比べました。
ラン様ならこうする、ラン様ならこんな失敗をしないと私を叱りつけるのです。
それが毎日続くようになって、私はときどき胸がちくりと痛む違和感を覚えるようになりました。
この時はあまりそのことを気にしてはいませんでした。
それからしばらくすると、皆が私を見る目がいつもと違うように感じました。
はっきりとは分かりませんが私を見かけると皆が目を逸らすのです。
何か怒らせるようなことをしちゃったんだろうか?
私がそう聞くとヘラは笑いながら言いました。
「皆気まずいんですよ、なにせラン様は既に初級程度の魔術を習得してるのに、お嬢様はまだ使える気配すら見えないんですから。」
「……。」
「皆言ってますよ、後継に相応しいのはラン様だって。」
「え……?」
お家を守っていくのは私だよってメイドさんが言ってたのに……。
「なんで……? だってルゥイがいればこの家は大丈夫って……。」
「表立って言えないでしょう? だってーー。」
ーー妹より劣っている姉なんて見苦しくてかないませんもの。
ちくりと胸が痛みました。
「言ってない、皆そんなことルゥイに言ってなかったよ……?」
「だからぁ、面と向かって言えるわけないじゃないですか。 一応は気を使ってるんですよ、その証拠に皆さん目を合わせてくれないでしょう?」
確かに最近は誰も目を合わせてくれません。
「それに意味無いでしょう? 御家を継げない方のご機嫌取りなんかしたって。」
「え……?」
「あれ、気づいてませんでした? み〜んな言ってましたよ、お嬢様が周りをうろついて邪魔で仕方ないって。 これじゃ仕事にならないって。」
また胸が痛みます。
「お部屋でジッとされてた方が良いんじゃないですか? 本当に皆の事を思うなら。」
「……もん。」
「はい?」
「言ってないもんっ! 皆そんなひどいこと言わないもんっ!」
そう言って私は部屋を飛び出しました。
部屋からでる時に少しだけ見えたヘラの顔は、なぜか笑っていました。
◇
部屋を飛び出した私はたまたま目に入った扉を開けて中に入りました。
中は真っ暗でお掃除に使う道具がいっぱい置いてあります。
部屋の隅っこに座った私はヘラに言われたことが悲しくてめそめそと泣いていました。
「本当なのかな……? ルゥイが今までやってきたことは全部おせっかいだったのかな……?」
考えれば考えるほど胸の痛みがひどくなります。
「ママのところに行こ……。」
そう言って部屋を出ていこうとした時でした。
扉の外からこちらに近づいてくる足音が聞こえたのです。
ここに居るのがバレたら怒られると思った私はとっさに隠れました。
そして、ヘラの言った言葉が本当だったと知ってしまうのです。
「それにしてもルゥイお嬢様はいつ魔法を使えるようになるんですかね〜?」
「そうねぇ……噂だとまだ兆候もないらしいし。」
「何やらせても不器用だしなぁ……、案外、妹に才能を全部持ってかれてるんじゃないか?」
「こら! 大きい声で言わないの。 聞かれてたら何言われるか……。」
またちくちくと胸が痛むんです。
「だって本当のことだろ?」
痛いんです。
「まぁ正直疲れるのよね……ただでさえ忙しいのにつまらない話を延々聞かされて。」
痛い。
「まあまあ給金は良いんだし、ご機嫌取りも仕事の内だろ。」
痛い。
「ゔ……えぇ……っ!」
「ん……? えっ、お嬢様!?」
「なんでこんなところに……!?」
「今の話、聞かれて……。」
胸の痛みに耐えられなくなった私は、その場で吐いて気を失いました。
その後のことは分かりません。 気付いたら私はベッドの上にいました。
ぼやけた意識の中でいろんな人が部屋に入れ替わりで入ってくるのを、ただぼーっと見ていたような気がします。
そうして私は部屋から一歩も出ない日々を送るようになりました。
時々外に出ようと考えることはあります。
ですがその度にあの時の光景を思い出しては吐いてしまうのです。
そしてみるみる身体が衰弱していく中で私は泣きながら繰り返しました。
「ママに、会いたい……っ。」
少しで良い。 ママになら怯えることなく気持ちを伝えられるから。
私は泣きながら何度もヘラにそう言いました。
そうするとヘラは困った顔をして。
「今奥様は体調が良くなくてぇ、寝たきりなんですよ〜?」
爪を弄りながらそう言うのです。
「そん、な……。 ルゥイそんな事一言も聞いてない……!」
「お嬢様に心配をかけないように配慮してるんですよ。 それに今のお嬢様を見たら奥様にどれだけの心労をかけると思います? 賢いお嬢様なら分かりますよねぇ? ですから……。」
「会いに行くなんて言いませんよね? そんな事をしたら奥様の体調が戻らないどころかーー。」
「死んじゃいますよ?」
「え……?」
私のせいで……? 私が会いたいとワガママを言うから……?
「ごめんなさい……。」
「お嬢様が倒れた件、奥様には内緒にしてるんですよねぇ……。」
ごめんなさい。
「それなのにお嬢様が会いに行ったら伝わってしまいますよ。」
ごめんなさい。
「自分の娘がこんな状態になってるなんて知ったら正常ではいられないでしょう。」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
「良い子ですねお嬢様。 そう、あなたは私の言うことを聞いてくだされば良いんです……。」
うずくまりながら謝る私の頭をヘラはただ淡々と撫でていました。
◇
体調が治らない私は、今住んでいるのとは別のお邸で休むことになりました。
ママは少し前から寝たきりになり、パパはお仕事が忙しくてしばらく顔を見ていません。
出発の前にランと顔を会わせましたが、私はこの時にはもう声を出す事が出来なくなっていました。
「お姉ちゃん……。」
「……。」
「あっ……。」
ランが何かを言おうとしていましたが直前に言葉を引っ込めてしまい、結局一言「元気でね……。」とあいさつし合っただけに終わりました。
私も返事を返したかったのですが、口を開けても音は出てきません。
それがとても悲しくて、最後まで妹と目を合わせることも出来ませんでした。
ある一人のメイドが話しかけてきたのは、そうして馬車に乗り込む途中の事です。
「初めましてルゥイお嬢様、この度お嬢様のお付きとして同行する侍女のアニスと申します。」
「……っ。」
知らない人。 何を考えているか分からない、私にとって恐怖の対象です。
「…………。」
だけど、そんな私を気にかけてアニスはただ手を差し出してくれたのです。
馬車に乗ってからも、私が返事を返さなくて良いように通りがかる街の美味しい物やお花の話をいっぱいしてくれました。
私が眠そうにしていると横に座ってただただ頭を撫でてくれました。
「まだ会ったばかりの知らない人が側にいるのは、とても不安ですよね……。」
「…………。」
膝を枕にしてうとうとしている私を撫でながらアニスが呟いています。
「でも、良いんです……。 例え話せなくても、笑顔を見せてくれなくとも、お嬢様がーー私を嫌ったとしても。」
「お嬢様が私を必要としなくなるまで……。 どこまでだってずっとお側におりますから……。」
アニスが掠れた声で何か呟くのを聞きながら、私の意識は深い微睡みの中に落ちていきました。




