大丈夫なのかい。
「うう……ニフィーリアめ、ぼくを置いて自分だけ避難するとは……。」
「あははは……。」
あの日の夜から数日後、公爵家の紋が入った馬車に揺られながら、セルティスとミリアリアはとある場所へ向かっていた。
目的はといえば表向きは訪問、実際はあの日失礼を働いてしまったフードの子への謝罪だった。
『お話』の後、母親から聞いた話では、彼女は母方の知り合いの子で今回のお茶会の為に別の領から訪問しに来ているとのことだった。
『このままだとセルティちゃんもその女の子も、後味が悪いまま別れることになっちゃうでしょう? だからあなたから行ってちゃんとごめんなさいをしてくるように! それが今回の罰よ〜!』
とはアイリスの弁である。
確かにあまり自覚が無いとはいえ、失礼に当たることをしでかしてしまったのは事実である。
そして何よりもセルティス自身が今、少女との縁を失うのは惜しいと感じていた。
(彼女のあの暗い表情、お茶会だけが原因ではないだろう……。 なぜあんなに憔悴しきった顔をしていたのか……。)
セルティスはたった一回出会ったはずの少女について、何故かずっと考えてしまうようになっていた。
彼女をーー幼い女の子をあんなにも曇らせた原因について知りたいと思ってしまう程に。
(とはいえ、ぼくのような部外者が踏み込んでいいものか考えかねるな……。)
どう切り出したものかと思案していると、ふと馬車から見えた光景が目につく。
「……停めてくれ。」
「え? お……お嬢様!?」
御者に馬を停めるよう指示し、自身は素早く降りるとそのまま件の路地に向かう。
ミリアリアが慌てて後を追うように降りると、既に彼女の姿は影も形もなくなっていた。
◇
「嬢ちゃん、大人しくその首から提げてるペンダントを渡しちゃくれねぇか?」
「へへっ……別に嬢ちゃんの身体をどうこうしようって訳じゃねぇんだ。」
市場から外れ、人目につきにくい路地で、ガラの悪い集団が幼い少女を囲んでいる。
男達は少女にロケットを渡すよう要求しているが、少女は首元のロケットをぎゅっと握りしめながら、涙目で拒否の意を示している。
「チッ、いいから渡せって!」
「ゃ……!」
「このっ……!」
「ーーきみはいつ見かけても絡まれているね。 そういう体質なのかな?」
「誰だっ!?」
男が少女に手を伸ばそうとしたとき、大通りの方から声が響き渡る。
その声に振り返ると、男達が今まで見たこともないような銀の髪色をした少女が、この状況を恐れるでもなく向かってきていた。
「何だ嬢ちゃんは……? 俺達は今立て込んでるんだが?」
「あいにくとだが、ぼくもその子に用があるんだ。 きみ達を蔑ろにするわけじゃないが日を改めてくれないか?」
「ああ!?」
「大人を舐めてんじゃねえぞガキ!」
少女の飄々とした態度が気に入らなかったのか男達は苛々を隠そうともせず凄む。
「別にぼくに絡むのは構わないが……そんなに騒いで大丈夫なのかい?」
「何だとっ!?」
怒りのままに少女に掴みかかろうとするが、その後ろの大通りから見ているギャラリー達に目が留まる。
通りの向こう側へ手を振っている者もおり、恐らく衛兵を呼んでいるということだけは察せる。
「チッ。」
男は短く舌打ちすると「覚えてろよ。」と言い残しその場を後にする。
「怪我はないかい?」
恐怖で身体が震えている少女に声を掛ける。
「……。」
「……?」
「な……んで……?」
「ん?」
少女はセルティスを見つめて戸惑うような表情をしている。
(一人きりで大勢の大人に囲まれたんだ、混乱するのも無理はないか……。)
「どこか落ち着ける場所にいこう……歩けるかな?」
セルティスが気遣うように手を差し伸べると少女は不安そうな顔をしながらも、そ~っと手を握り返してきたのだった。




