ね? お願い。
「ニフィーリア! ニフィーリア! あれは何だい?」
「あれは花喰み牛の串焼きですね!」
「じゃああれは!」
「ベリージュースです! 地域毎に採れる実が違うので、この味はここでしか飲めないんですよ〜?」
「へぇ〜っ!!」
お出かけを開始してから数分後、セルティス達はメイン通りの露店を順に散策していた。
普段食べている邸の食事と違い、凝ってはいないがパフォーマンスで魅せる料理の品々に、セルティスは目を爛々と輝かせていた。
「串焼きのタレが焦げる香ばしい匂いも堪らないし、その場で果肉を潰した新鮮なジュースも美味しそうだ!」
匂いや見た目に刺激され、セルティスのお腹はぐうぐうと主張を始める。
「ん、あれは……?」
その中でも一際目につく物があった。
「ニフィーリア! あれ! あれは何??」
「リグリンゴとビタ鶏のパイ包みですね! 私個人としては一番推したい品です! 良ければ一つ買ってみましょうか?」
「ぼくあれ食べたい! 早く行こ、ニフィーリア!」
彼女の手をぐいぐい引っ張って屋台の前まで行き、二人分を店主に注文する。
「わ、私の分までよろしかったのですか?」
「良いに決まってるじゃないか。 それに美味しいものはみんなで食べないと! ね?」
「お嬢様……!」
(立派にご成長されて……! それに、お嬢様が普段見せないようなこ、こんな満面の笑みで私を見てっ……! アイリス様ありがとうございます! ありがとうございます!)
「な、なんで鼻血を出しながら宙に感謝を捧げてるんだい……?」
急な彼女の奇行に思わず後ずさるセルティスだったが、手渡された出来たてのパイ包みに一瞬で意識を持っていかれた。
空いているベンチに移動してから、包み紙の上からでも分かるくらいその熱々の生地にかぶりつく。
「んんんんんん〜!!」
生地にかぶりついた瞬間、濃厚なバターの香りが鼻から抜け、リグリンゴの酸味とビタ鶏のタレが絡んだジューシーな肉汁が口いっぱいに広がっていく。
「ん〜! これですこれ! やっぱり街に下りたらこれを食べないと始まらないんですよね〜!」
「……。」
ニフィーリアが同じく舌鼓をうっていると、隣に座っていたセルティスが黙りこくっている事に違和感を持つ。
気になってそちらを見ると、既に空になった紙袋を名残惜しそうに見つめていた。
「え? もう完食したんですか!?」
「うん、気づいたら消えちゃった……。」
そう言うとセルティスはピンッと何かを思いついたようにニフィーリアをジーッと見つめる。
「ど、どうされましたお嬢様……?」
「ニフィーリア……。」
「な、何でしょう……?」
「もう一個……食べたいな?」
「うぐっ……!」
セルティスのいつものおねだりが始まる。
「だ、ダメですよ? アイリス様からも買い食いは一つだけと言いつけられておりますし。」
「でも……。」
目をうるうるさせながら上目遣いでニフィーリアを見る。
普段であればこれでいつもは墜ちていたのだがーー。
「今日という今日はダメです!」
(またお嬢様のドレスが見られないなんて事になったら死活問題ですから!)
これ以上の交渉は無意味だとそっぽを向く彼女に、セルティスは一瞬(チッ!)と心の中で舌打ちしたが、瞬時に何かを思いついたのか彼女の手を両手で優しく握る。
「ね? お願い。 ぼくがこうやってワガママを言って甘えるのはーー。」
「あ、甘えるのは……?」
ゴクリと生唾を飲み込む。
「ーーニフィーリアだけ、なんだよ?」
(ぶほぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?)
一度は鋼の意志を貫こうと決意していた彼女だったがーー。
「ししし仕方ありません! は、初めてのお出かけなんですから今日くらいは大目に見ましょう! ……アイリス様には内緒ですよ?」
「うんっ! ありがとうニフィーリア!」
喜びのあまり抱きついて来たセルティスに、ニフィーリアは恥ずかしがりながらも同じように抱き返す。
(お、お嬢様の方から抱きついていただけるなんて……。 今日はとても良い一日になりそう……!)
また鼻に血が集まる感覚を何とか堪えながら、ニフィーリアは愛しの主人の感触を堪能しまくったのだった。
◇
「こっちには何があるのかな?」
パイ包みを食べ終え、お腹を満たしたセルティス達は別の通りに足を延ばしていた。
「こちらは露店のように移動式ではなく、居を構えた店が建ち並ぶ通りです。 金細工や鉱物を扱うためにしっかりとした店構えが必要なんですよ。」
「へ〜。」
通りを歩いていくとアクセサリーや小物類などを扱う婦人御用達の店や、魔術具や一般家庭でも使える簡易術式の家具を置いている店などが並んでいる。
魔術系統の物ならいざ知らず、アクセサリーや化粧品などの着飾る品に関してセルティスは一切興味をもってこなかった。
なので当然その関連の店はスルーしていくかと思いきや、ある品を見て足が止まる。
「ニフィーリア、この金物は何ていう代物なんだい?」
「これはロケットですね。 ペンダントの一種ですが、中に物を入れる事が可能なんですよ。」
「ふむふむ。」
彼女の説明を受けて件の品を観察する。 大まかではあるが、あのローブを着ていた子供が持っていた品と形が似ているなと思った。
「知ってますか? 今ユールニクス大陸では大切な人に、その縁の品を入れたロケットをプレゼントするのが流行っているんですよ〜!」
「へ〜。」
「ロマンチックですよね〜!」と楽しそうに話す様子を見て、面白い流行りもあるもんだとセルティスは思った。
「それにしても、お嬢様がアクセサリーに興味を持つなんて珍しいですね?」
「ううん、大した意味は無いんだ。 ただーー」
少し気になっただけだよと付け加える。
「さ、日も暮れてきたしそろそろ戻ろう。」
「そうですね! ……それとお嬢様? くれぐれも今日の食べ歩きの件はご内密に……ですよ?」
「分かっているよ、ぼくはちゃんと口は閉じておくとも。……多分無駄だけど。」
「え?」
ボソッと漏らした本音にニフィーリアは気づいていない。
だがもう一度言うのは野暮というものだ。 せめて帰り道の間だけは、幸せな気分にさせてあげようとセルティスは思ったのだった。
尚、帰宅後速攻で呼出を受けたセルティスとニフィーリアは、離れて見守っていた護衛達に事の顛末を全て報告され、アイリスから次回のお出かけ時の買い食いと付き添いを禁止にされる事になった。
その際、邸を駆け巡るほどの悲鳴が聞こえてきたと、使用人の一人が後に語っている。




