第7話
「最近亡くなった人か行方不明の人ですか……?」
「そうそう、もしかしたらあの陰摩羅鬼は海鈴ちゃんの知り合いかもしれないからな。」
「………最近は特にないですね。」
身近な人間の死というと………私の両親は既にこの世を去っている。もっとも、葬式を挙げたのも十年前。今回の件とは無関係だろう。
「じゃあ全く無関係の奴に目ぇ付けられたってことだなぁ!ほんと、お前はつくづく運が無ぇみてぇだッ!」
ふと気になって、腕時計を見て時間を確認する。
いつも着けているのは電波腕時計なのだが、今日はたまたまアナログ腕時計だ。こちらの世界は明らかに電波が通っていなさそうなので、正直助かった。
「まだ9時……。」
2人の話では、私が向こうの世界に帰ることができるのは丑三つ時。つまり深夜2時以降。まだ5時間程猶予がある。
「飲み直そうにも、いがぐりの旦那の店もこんなんになっちまったしなぁ………んあ!てか、俺まだ飯食ってねぇや!そうだ、おめぇも行くか?」
「いえ、私は………」
ぐぅぅぅ。
私の言葉とは裏腹に、腹の虫は正直だった。
確かに私も、酒のつまみとして出してもらった煮っころがし以外、昼メシ以降何も食べていない。流石にお腹が減ってきた。
「………じゃあ、私も。」
――――それから、猪狩さんの店を後にした私達は、昼の賑わいが消えて物静かになった表通りを歩いていた。
「それで………何食べるんですか?」
「んあ?そうだなぁ………蕎麦とかどうだ?」
「蕎麦………。」
つゆをたっぷりと絡めた蕎麦を豪快に啜る自分の姿を想像し、思わず口元が緩む。ざるやせいろも良いが、今は少し肌寒い。食べるならかけそばだろう。
「良いですね。蕎麦にしましょう!」
「んー、この時間も空いてるとこだと………」
伊吹は迷うことなく一つの店の暖簾をくぐる。そして、蕎麦に心躍らせる凛も、伊吹に続いて入店。
「いらっしゃい、注文は?」
店内はすっきりしており、椅子はない。どうやら立ち食い蕎麦のようだ。先ほど同様、店に人はいない。
だが、そんなことよりも気になってしょうがない事がある。入店した瞬間、目が入った時から私の視線は"それ"に釘付けだ。
「かけ蕎麦と………おめぇは?」
「私もかけ蕎麦を。」
「はいよ、」
注文を聞いて蕎麦を茹で始める店主を私は凝視する。
黄金色と茶褐色が入り混じった毛並み、尖った耳、目尻がやや吊り上がった細長い目。――――狐だ。
まさしく狐だ。狐のような人ではなく、狐だ。服を着ていないで四足歩行していたら、ただの狐にしか見えないだろう。
「へい、おまち」
運ばれてきたのはシンプルなかけ蕎麦。かまぼこと油揚げ、しいたけ、ねぎ………おかめ蕎麦のような豪華な盛り付けだが、私が頼んだのはかけ蕎麦。この店ではこれが普通なのだろう。
「いただきます。」
―――――――――――――――――――――――――――
「いやぁ、美味かったなぁ〜」
「出汁がきいてて美味しかったですね!」
あの店の蕎麦には柄にもなく感動した。もう、この世界に来ることは無いと思うが、機会があればまた食べに行きたいものだ。




