第5話
酒が入っているのも相まって、2人の会話に私が混じることは簡単だった。それ故、"ある程度の仲"になることができた。
「すまねぇ、海鈴ちゃん見てきてくれねぇか?」
「あ、はい。」
先ほどは暗くてよく見えなかったが、席を立ち近づいて見てみると、暖簾の下からはみ出ているその足は小さいというよりは、子供のような足だ。
「あの……なにかご用ですか?」
「ォ゙、………ォ゙ボ」
「………あ。」
ォ゙ボラギィ゙イ
あまりに唐突な奇声に耳を抑える手が間に合わず、耳鳴りがキーンと耳の奥で木霊し続ける。
「げ、」
「んあ?」
「伊吹さ―――!」
後ろの2人は状況を飲み込めず、頭に?を浮かべているが、私は慌てて後退りする。
改めて暖簾の方を見ると、ぐちゃぐちゃと音を立てながら足の形が変化していっている。
「まさかこっちでも暴れようとはなぁ……。」
いつの間にか隣には伊吹が立っている。当然まだ酔ってはいるようだが、表情は少し険しい。
「里で暴れんのは流石に見過ごせねぇぞ。今ならまだ引き返せるが………」
伊吹の言葉を聞く様子はなく、暖簾の隙間から顔を入れ、凛を見てニヤリと笑う。怖いというより不気味だ。
「あれが海鈴ちゃんが言ってたバケモンか!」
「いがぐりの旦那は奥から酒をもう1本持ってきてくれねぇか?」
「おうよ……あんまり店を壊さねぇでくれよ。片付けが大変なんだよ。」
「できる限りな。」
伊吹は、猪狩が店の奥へと入って行ったのを確認すると、今まさに全身が店に入ろうとしている化け物に向かって空になった酒瓶を思い切り投げつける。
当然、受け止める術が無い化け物の顔に酒瓶は直撃し、床に落ちて破片がそこら中に飛び散る。だが、顔面に直撃したにも関わらず化け物は不気味な笑顔のままだ。
「こいつぁ驚いたな。お前、何が目的だ?」
化け物は私の方を見ながら一歩、また一歩と踏み込んで来る。すると、無言で伊吹が私の前に立ち、自分の懐に手を入れる。
「おめぇ、相当あのバケモンに好かれてるらしいなぁ。まるで俺は眼中にねぇみてぇだぜ!」
「まぁ、俺は無視されんのが嫌いでねぇ………いやでも意識させてやるよ!」
伊吹が懐から何かを取り出して化け物に向ける。手に握られているそれを見て化け物の笑顔が少し引きつる。
実際にこの目で見るのは始めてだが、思っていたよりもなんというか………小さい。
「しゃ、錫杖??」
「おっ、知ってんのかぁ!?」
「知ってるというか……なんというか。」
フフッ………
「え?」
どこからか女の人の笑い声が聞こえてきた。そして、それがこの化け物から放たれた声だと気が付くのはすぐだった。
「なんでい、叫ぶ以外もできんじゃねぇか。」
化け物から引きつった笑顔は消えており、代わりにこれまでの通り、気味の悪い笑顔でこちらを見つめていた。
フフフフフッ
フフッ
フッ
『紺焰』
刹那、化け物の口元から青い炎が漏れ出し、そのまま私の目の前に立つ伊吹の元へと凄まじい勢いで火が伸びる。




