第3話
「えーっと、つまり……今いるこの世界は、私がいた世界とは別世界ってことですか?」
「まぁ、ざっくり言うとそうだなぁ!」
馬鹿げている……と言いたいところだが、あんなものを見た後だとそう簡単に否定できない。
なにせ、今もずっとあの化け物の顔が頭から離れない。いくら忘れようとしてもすぐに戻ってくる。そのせいで少し冷汗をかいている。
「厳密には別世界じゃあねぇんだけど……まぁ、細かいこたぁ気にしねぇでいいだろうよ!」
男の話によると、ここは私が普段暮らしている世界の裏側にあたるらしい。地形も表の世界と大差はなく、違うのは、先ほどの化け物のような存在が当たり前のようにいることだという。
「まぁ、言葉で言われるより見たほうが早ぇだろっ!」
参道を越えてからもふらふらと草木を掻き分けながら進んで行く男に私は無言で付いて行く。
「あの……何処に向かってるんですか?」
「んあ?ああ、言ってなかったか。」
「取り敢えず今は里に向かってるんだぜぇ。次あっちに戻れんのは丑三つ時だからまだまだ時間あるしなぁ。」
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男の服装や所々の発言からしてなんとなく察してはいたが………。
「思ってたより里なんですね……。」
大通りには、ひっきりなしに人が行き交っていた。
軒を連ねる商家の暖簾が風に揺れ、店先からは威勢のよい呼び声が響いている。
荷を担いだ商人が人波を縫うように歩き、道端では団子を売る屋台から甘い匂いが漂っていた。
下駄の音、楽しそうな話し声、どれも時代劇で見るような物ばかりだが、作り物ではない本当の生活がそこには広がっている。
獣の頭をした者が当たり前のように商人と談笑をし、異様な姿の者達が何食わぬ顔で通りを歩いている光景に自分の目を疑う。
「いやぁ……こっちにお前みたいな娘っ子が来るのはいつぶりだろうなぁ!」
「私以外にも来た人がいるんですか?」
「あぁ、たまにな。そっちじゃ神隠しだとか言われて騒がれてるらしいが、大抵の場合はこっちに迷い込んだ奴がそのまま帰れないでいるか、喰われたか。」
「まぁ、十中八九後者だろうがなっ!だが安心しな、俺がお前さんを向こう側まで無事に送り届けてやらぁ!」
今のところ前者で済んでいる自分はそれなりに運がいいのかもしれない。出会った男がこの上なくヤバイ酒飲みという点を除けばだが。
「はぐれたら何が起こるかわかんねぇからしっかりついて来いよ〜」
通勤ラッシュほどではないものの、それなりに人通りが多く、目を離したらすぐに見失ってしまいそうだ。
ただ、やはり異形の存在が蔓延っているこの世界でも、男ほどの巨躯を持っている者はいないようで、早々見失う事は無さそうだ。
さらに、そんな只でさえ目立っている男の後ろを歩いている私の、この場では一風変わったスーツを見る周囲の目が少し痛い。
「路地入るぞ〜」
今までとは打って変わって路地にはまるで人気がなく、まるで別世界だ。そして、私もやっと周囲の視線から解放された。
「いやぁ、やっぱり目立つなぁ〜」
男は相変わらず右手に徳利を握り締め、ふらふらと私の前を歩いている。最初に会った時よりも呂律が回っていない気がするのは気の所為だろうか?
「あの……何処に向かってるんですか?」
「俺の知り合いの店に行こうと思ってなぁ……人もいないし、暇を潰すにはもってこいだ。」




